サミットの効果で世界から広島が注目される中迎えた8月6日の「原爆の日」。「核廃絶」の理想を掲げながら、「核抑止論」に基づくアメリカの「核の傘」に守られた被爆国・日本の現実。サミットを機に改めて突き付けられた被爆国・日本の抱える課題を考える。

各国首脳に被爆の実相を伝えた反面で

5月のG7広島サミットでは、核兵器をもつアメリカ、イギリス、フランスの3カ国とその他の国の首脳たちが揃って被爆の実相に触れる、歴史的なサミットとなった。

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原爆の日を前に、5日には平和記念式典に参列する各国の大使たちが「G7広島サミット回想展」を見学し、写真パネルや芳名録に書かれた首脳たちのメッセージなどに見入っていた。

6日の平和記念式典には過去最多の111カ国とEUの大使らが参列。そこで岸田首相が強調したのはサミットの成果だ。

岸田首相:
「G7首脳広島ビジョン」の発出を通じ、核軍縮の進展に向けた国際社会の機運を今一度高めることができました

一方、広島市の松井市長はサミットの広島開催を評価しながらも、核抑止論を事実上肯定した「広島ビジョン」には苦言を呈した。

広島市 松井一実市長:
核による威嚇を行う為政者がいるという現実を踏まえるならば、世界中の指導者は核抑止論は破綻しているということを直視し、私たちを厳しい現実から理想へと導くための具体的な取組を早急に始める必要があるのではないでしょうか

式典後の会見でも記者から核抑止体制を前提とした「核兵器なき世界」の実現への矛盾を問われた岸田首相。

岸田首相:
厳しい安全保障環境の中で国民の命や暮らし、安全を守り抜くという毅然たる責任。それと同時に核兵器のない世界という理想を見失うことなく、これを追い求め続ける。こうした崇高な責任。2つの責任は相矛盾するものではない。この2つを結び付けるロードマップをしっかり示さなければならない

「広島ビジョン」はそのロードマップの一つだと反論した。

被爆者らからは「核廃絶は後退」と批判も

また、被爆者団体との会合で「核兵器禁止条約」への参加、署名を求められると…

岸田首相:
核兵器国が行動しないと、何も現実は変わらないというこの厳しい現実を前にして、核兵器国、この核禁条約には1カ国も参加していない

首相ら政府側は「核保有国の関与を得るべく努力を続けていく」とするこれまでの主張を繰り返すだけだった。

「核兵器のない世界」の実現にむけた理想と現実の狭間で、被爆者からは落胆の声も聞かれた。

広島県被団協・佐久間邦彦 理事長:
核兵器廃絶は後退してきたというのが、率直な「広島ビジョン」の感想。核抑止で世界を安定させようというのが無理なこと

サーロー節子さん(13歳の時に被爆):
岸田首相は“核兵器のない世界”が自分のライフワークと言っている。でも同盟国の核抑止はフルにサポートする。あまりにもその矛盾がおびただしい

「核廃絶」という被爆国としての理想を掲げながらも、アメリカの「核の傘」に守られている現実。理想に近づくためには、唯一の被爆国の役割として、「核兵器が使われると、こうなる」という被爆の実相を伝え続けること、そして、核保有国と非保有国の間の対話を促し、核兵器の使用も保有も認めない最終的な「核なき世界」へ踏み込んだ役割が期待される。

(テレビ新広島)

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