職場でのお茶くみ、掃除、書類のコピーなどの雑務をなぜか、女性社員(従業員)がさせられる。これを経験したり、見たことはないだろうか。

古い時代の企業にありがちな印象だが、労働事件を数多く扱う、横浜法律事務所の笠置裕亮弁護士によると、今も女性に押し付けるケースはあるという。

無意識に頼んでいる人もいるかもしれないが、法的な視点だと問題性はあるのか。断りたい場合はどう対処すればいいのだろう。笠置弁護士に聞いた。

男女雇用機会均等法に違反の可能性

――雑務を女性に頼むのは法的に見ると、どう解釈する?

男性にはさせず、女性だけにさせているなら、男女雇用機会均等法の第六条(※労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない)に違反します。社内でそのような事実が発覚した場合、企業側は直ちに対処しなければいけません。

ただし、秘書やアシスタントなど、来客対応などが職務内容に含まれる場合は少し事情が異なります。男性と女性どちらもその職務に就くことができ、職務に照らしてお願いしているのなら、違反にはなりません。

職務内容に含まれるかどうかが参考に(画像はイメージ)
職務内容に含まれるかどうかが参考に(画像はイメージ)
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――同調圧力のような形でさせられた場合は?

女性に雑務をさせているところも、明確に伝えるのではなく職場に「女性がやるものだよね」という雰囲気があったり、任せているのを黙認しているところがほとんどではないでしょうか。違法な業務命令であれば、必ずしも明示されていなくても、黙示の形であったとしても法律違反になります。

電話番などを押し付けるケースも(画像はイメージ)
電話番などを押し付けるケースも(画像はイメージ)

――違法性が考えられる雑務の例はある?

女性社員に対し接待の時にお酌をさせるといったような行為は、違法なセクハラに該当する可能性が高いといえるでしょう。業務の配分方法に関していえば、雑務の種類で違法か否かが決まるわけではなく、性別で差別をして業務配分をしていること自体がいけません。

実際の相談では、就業前の職場の清掃、デスクの整理整頓をさせられる、職場の電話番といった補助労働、お土産の配布などの気遣いを女性社員のみが担うといった事例を耳にします。

納得できない雑務は断っても大丈夫?

――納得できない雑務は断っても大丈夫?

違法な業務命令であるなら従う必要などありませんから、断っても問題ありません。ただ、女性に雑務を押し付けるのは、職場全体の雰囲気や環境に根本的な原因があります。

そのような問題に対し、ひとりで戦っても変えることは難しいでしょうし、不利益が起きることも考えられます。個人間の問題ではなく、労働組合に労使の問題として議題に挙げてもらうなど、集団的に対処したほうが良いでしょう。

やりとりがあった事実を残しておくと良い(画像はイメージ)
やりとりがあった事実を残しておくと良い(画像はイメージ)

――雑務を押し付けられたらどう対処すればいい?

口頭でのやりとりにとどめず、とにかく形に残すことを意識してください。ひどい業務命令を受けたときは録音をする、その場でできないのであれば「先ほどは○○と言われましたが、納得できないので応じかねます」などと、メールでやり取りすることによって、やりとりがあった事実を証拠で残す。こうしたところが重要です。


――雑務の押し付けがあった場合、法的措置はとれるものなの?

民事で損害賠償請求できる可能性はありますが、残念ながら、現在の裁判所の考え方をもとにすると、雑務をさせられたことだけだとすると、高額な慰謝料等の損害賠償請求はなかなか難しいでしょう。被害が深刻でなければ、訴訟よりは労働組合や行政の調停や指導によって解決していくことが向いているのではないかと考えます。

企業は“重い話”と認識するべき

――女性だけに雑務をさせる企業に共通点はある?

社員構成が男性に偏っていて、最近になって女性も採用するようになったことにより、女性社員は少なくて年齢が若い、男性社員は多くて年齢も高くなるという状況の中で、加害行為が起こることが多いように思います。男性の方が圧倒的に優位な社内のパワーバランスが生じやすいため、社内で「女性はアシスタント」という雰囲気が出てしまう反面、女性側は不満を言い出しにくいのだと思います。

他方で、そのような職場環境は、男性社員に対して高い目標が課される傾向にあり、目標が達成できなかった場合の制裁も厳しいことも往々にして見られます。

企業は放置せず、事実調査などをすべき(画像はイメージ)
企業は放置せず、事実調査などをすべき(画像はイメージ)

――不適切な雑務の報告を受けたら、企業はどうすればいい?

性差別が存在する職場では、雑務を女性に押し付けるだけではなく、女性社員に対する悪質なセクハラやパワハラが蔓延していることも珍しくありません。速やかに事実調査し、不適切な業務指導があれば、加害者側に対し速やかに警告を発したり、処分を行う等の措置をすべきです。

法律上の制裁として、行政指導の対象となったり、悪質な場合には社名が公表される可能性もあるわけですが、人手不足の時代において、そのような企業には優秀な人材は集まりません。企業の存立にもかかわる非常に重い話と捉えてほしいです。


――企業や職場に向けてアドバイスを。

雑務を女性に押し付けることは、社員のモチベーションを下げることと認識すべきです。現在の社員のみならず、将来入社する学生らにも「こういう会社なんだ」と見られます。職場全体の働きにくさにつながってしまうことだと、認識してほしいですね。



笠置弁護士によると、体力や筋力がそこまで求められない運搬作業等を男性社員に押し付けることも、状況によっては法的な違反となる可能性もあるという。性別で区別して雑務を押し付けていると感じたら、認識を改めてみるべきかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。