退職金や通勤手当などへの課税、いわゆる“サラリーマン増税”が議論を呼んでいる。これについて岸田首相は25日、「全く考えていない」と否定した。なぜ今“サラリーマン増税”が議論になっているのか?本当にやらないのか? 経済ジャーナリストの荻原博子さんに聞いた。

「サラリーマン増税」首相は本当にやらない?

岸田首相は否定しているが、サラリーマン増税は本当にやらないのか?

経済ジャーナリスト 荻原博子さん:
今、支持率がちょっと良くないのと、あといつかわからないけれども選挙までの一時的に言っていることなんじゃないかと思います

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経済ジャーナリスト 荻原博子さん:
長期的にみると、この先、消費税を上げないといけない局面が出てくると思うんですけど、財務省としては消費税を上げる前に個々の税金を何とか上げておきたい。特に控除を減らしておきたい。消費税を上げるタイミングでは、もう控除を減らすことは当分できなくなるので、今ここでやっておこうということなんでしょうね

政府税制調査会の答申が議論の発端

サラリーマン増税の議論が出てきたのは、6月30日に首相の諮問機関である政府税制調査会がまとめた中期答申の中で、「サラリーマンは給与の約3割が控除」「相当手厚い仕組み」と指摘されたことだ。

この政府税制調査会というのは、どういった位置づけになるのか?

経済ジャーナリスト 荻原博子さん:
政府の税金の取りまとめ役となります。政府が委任しているものです

その政府税制調査会の答申の中で、サラリーマンは「相当手厚い仕組み」とあるが、実際に「手厚い」と言えるのか?

経済ジャーナリスト 荻原博子さん:
“3割”と聞くとものすごい手厚いと思うかもしれませんが、サラリーマンの給料は平均400万円ぐらいです。これに対しての3割控除で、一般家庭にとってはもうちょっと何とかしてくれよという感じなんじゃないかと思います

割合だけでいうと手厚いようにも思えるが、金額で考えると、多くのご家庭では余裕を持って生活できる状況とは言えない感じだ。

「"わかりにくいところ"からお金を取っていこう」ということ

具体的にサラリーマンのどういった部分が増税の対象として議論されているのか整理する。答申ではさまざまな例があげられている。

・配偶者控除の制度見直し
・通勤手当を課税対象に
・退職金の控除額引き下げ

「政府が目指すのは消費税増税!その前の“ステルス増税”」だと荻原さんはみている。
ステルス(隠れた)増税とはどういうことなのか?

経済ジャーナリスト 荻原博子さん:
“消費税”というとみんなに関わってくることで、みんなが反対するじゃないですか。ところが、配偶者控除はサラリーマンの奥さんで専業主婦の方に関わるものです。通勤手当はサラリーマンの方で通勤する方。あと退職金は退職金をもらう世代にかかってくるものです。それぞれがバラバラなんで、なかなかまとまって反対しづらいものです。こういうことから手をつけて、わかりにくいところからお金を取っていこうということですよね

退職金にメスを入れる狙いは何なのか。勤続20年を超えたサラリーマンの控除の優遇をなくすという話が出ているが、その狙いは、終身雇用を前提とした退職金の課税制度を見直し、「雇用の流動化」につなげたいということだ。本当に雇用の流動化につながるものなのか。

経済ジャーナリスト 荻原博子さん:
退職金に関して言えば、以前に若い人は転職をいっぱいしなきゃいけないから、勤続20年未満の方は40万円に減らしましょうということで、差がつけられました。今度の話は、40代後半から50代、60代ぐらいの方を、これでどう流動化させて、どこに行くんだっていうことが全く見えないですよね。多分これは取りやすいところがここにまだ残っていたねっていうところなんだと思いますね

岸田首相には一貫性がない

現在、岸田政権では、少子化対策、高齢者の医療負担の増大など、多くの課題が議論されている中で、サラリーマン増税の議論も出てきていることについて荻原博子さんは…

経済ジャーナリスト 荻原博子さん:
そもそも岸田首相には一貫性がないですね。税金に関して一貫性があるのは財務省がやっているからで、多分岸田さんがやりたいというのではなく、後ろにいる財務省が強力にプッシュしているということなんだと思います。少子化対策、高齢化対策、ちぐはぐなことをしていますよね。岸田首相が考えて一貫性を持ってやってくれれば、もっと良くなるのではないかと思うんですけどね

防衛費の増額や少子化政策などで財源が必要であり、増税の議論は避けて通れない話ではありますよね?

関西テレビ 加藤報道デスク:
政府の税制調査会のメンバーの方にお話を聞いたんですけれど、これは増税ありきで出してるわけではなく、あくまでも“税の適正化”なんだと言っていました。ただそれが私たちに伝わってないところが課題で、答申の中にも「将来への不安に備えるためにも国民が理解をしないと進めませんよ。政府がやってくださいね」といったことが書いてあるんです。ここから先は、岸田首相や政府がどれだけ説明に力を注げるかじゃないかと思います

Q.少子化対策と増税は相反? A.相反してます

ここで関西テレビ「newsランナー」視聴者からの質問です。

ーー今後、増税が予想されるタイミングは?

経済ジャーナリスト 荻原博子さん:
“小さい”と言ったら語弊がありますが、細かいところでまず増税をしておかないと、消費税を上げてしまったら、こういう細かいところからお金が取れないんですよね。ですから多分、 まずサラリーマン増税を地ならしみたいな形でやっておいてインボイスが導入され、2~3年後に今度は本丸の消費税という方向に行くんでしょうね

ーー少子化対策と増税は相反しているように思えますが?

経済ジャーナリスト 荻原博子さん:
確かに、少子化対策とサラリーマン増税は相反しています。というのもやっぱり、本当に子どもを育てなければいけない世代に厳しい増税になりそうです。一言でいうと一貫性がないってことですね

経済ジャーナリスト 荻原博子さん:
サラリーマンの方からするとライフプランを立てているところで、今回の答申が出ましたが、人生設計に大きく関わってくるものです。岸田首相は「しっかり」「丁寧に」と繰り返していますが、国民に伝わっていなければしっかり説明されていることにはならないでしょう。増税を進めるのであれば、納得のいく説明が求められます

(関西テレビ「newsランナー」7月26日放送)

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