7月25日は国連の世界溺水防止デー、水の事故をなくす啓発活動が世界中で行われている。毎年、山形・遊佐町で活動している「プロライフセーバー」に密着した。

現役世界チャンピオンがライフセーバー

東京都在住で「プロライフセーバー」の平野修也さん、37歳。

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ライフセーバー・平野修也さん:
ただいるだけじゃなくて、歩くこと・動くことが重要

とにかく“観察”が大事、常に目配り、気になることはすぐに声かけ。

「浮輪流されちゃうよ、違う?」「お茶とか水飲んで休憩しながら遊んでね」「あまり遠くに行っちゃだめだよ」と、波や風の状態だけでなく、親子の位置関係や利用客の所持品にまで目を光らせる。すべてが命を守る情報だ。

ライフセーバー・平野修也さん:
声かけはライフセーバーがちゃんといるという意識付けと、話しかけることでビーチ放送の内容を思い出してくれる

平野さんは、都内の大学の水泳部で監督を務めるかたわら、毎年夏場は遊佐町の海で、安全を守る監視活動をしている。

ライフセーバー・平野修也さん:
ちょうどあそこ、オレンジ色のブイがあるんですけど、あの辺りがちょっと…

海の状態にも詳しい平野さん。実は、2017年、「第二のオリンピック」とも言われるワールドゲームズに日本代表として出場した経歴を持っている。

ライフセービング競技「4×50メートル障害物リレー」に出場し、結果は、当時の世界新記録をたたき出しての金メダル。社会人になって始めた、ライフセービング競技で見事、世界王者に輝いた。これまで出場した4回の世界大会では、すべてメダルを獲得している現役のトップアスリートだ。

その原点は東京消防庁時代に担当した水難救助、技術も一流だ。練習で、水中の人形をたやすく抱えて助け出す平野さん。人形の重さが40kgということを考えると驚きの身のこなしだ。

技術の高いライフセーバーは地方にはまだまだ少なく、遊佐町に誘った深瀬さんもとても頼りにしている。

県ライフセービング協会・深瀬靖彦副会長:
泳ぐのが速いし、いかに人を早く搬送して次につなげるか、その動作も速い。日々トレーニングもしているし世界チャンプということもある

ライフセーバー・平野修也さん:
関東などの都会で自分の力を発揮するより、よりいかせるのではという気持ちもあって山形で活動することになった

事故を「起こさない」ためのライフセーバー

地元消防などと行われた救助訓練
地元消防などと行われた救助訓練

遊佐町の海で活動を始め2023年で8年目。
地元の消防隊員などとも毎年、訓練を重ね、万が一の事態に備えている。

しかし、平野さんは「救助すること」だけがライフセーバーの本質ではないと考えている。

ライフセーバー・平野修也さん:
事故を起こさないためのライフセーバー。事故が起きてしまったらそれまでなので

そこで2023年から、若い世代を対象に「ライフセービング体験会」を始めた。教えるのは“命を守るための基礎知識”だ。

ライフセーバー・平野修也さん:
ペットボトルに対して5分の1ぐらい水を入れると安定する。このペットボトルの口を持って、下から前に放り投げるイメージ

身近にある飲料水のペットボトルは、いざという時は「浮具」代わりになる。

ライフセーバー・平野修也さん:
バケツにも空気が溜まる。立つような抱えるような形であごを乗せると呼吸しやすい。バケツとかクーラーボックスでもいい

水の危険性に少しでも興味を持ってもらい、“救う力”と合わせて“助かる力”も養うことが、事故を減らすことにつながると考えている。

ライフセーバー・平野修也さん:
発想としては「ああ確かに」というのはあると思う。そういうレスキュー力につながる部分は教育していければいいなと

参加した高校生:
ペットボトルとは教えられてきたが、「ほかにバケツもあるのだな」と学習できたので良かった

参加した大学生:
こういう機会は特別で、勉強になった

大会やイベントの後には、SNSの情報発信も大切にしている。

ライフセーバー・平野修也さん:
今回やった内容は一般的には知らないことだと思う。イベントを通じて学校教育とかに浸透できるように。こんな感じでアップしたいと思う

若手ライフセーバーの育成も

平野さんは今、遊佐町の3つの海水浴場を回りながら、指導者として育成も行っている。

「浜の色が違うでしょ?あそこに沿って5メートル・10メートルの範囲は深くなっている。あの辺は注意して見て」と高校生ライフセーバーに指導する平野さん。その知識や着眼点・的確なアドバイスは、若手ライフセーバーの貴重な手本となっている。

高校生ライフセーバー:
小さなことでも気づいたり、レスキューの練習の時も「ああこれが本物なんだ」って、かっこいいなと思う

高校生ライフセーバー:
ライフセービング競技の世界チャンピオンで、細かい所まで教えてくれたり、尊敬できる部分がとても多い

そんな平野さんが考える「プロライフセーバー」の自分にできることは…。

ライフセーバー・平野修也さん:
スポーツ選手でありながら社会貢献活動ができるのは、ライフセーバーの大きなメリット。ライフセービングでこの町に携わっているので、事故を起こしたくないし、起こしてほしくない。水辺の事故に対しての知識や技術を、町の人たちに少しずつでも浸透させていければと思っている

だから「世界王者」はきょうも海辺を見る。

(さくらんぼテレビ)

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