長野市出身のプロのフルート奏者・坂口実優さん。子どもの頃、発達障害の影響で人とのコミュニケーションに悩み、長く不登校が続いた。それを心配する母親。行き詰まった状況の中、フルートとの出会いが母と娘を変え、プロの道へと進ませた。

白馬村のスキー場にあるレストランでコンサート
白馬村のスキー場にあるレストランでコンサート
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感謝の気持ちを込めて演奏

♪「いつも何度でも」

館内に響くフルートの音色。演奏しているのは、プロ奏者の坂口実優さん(25)。この日は、白馬村のスキー場にあるレストランでコンサート。

観客からは、「感動した」、「胸が熱くなった」、「応援したくなる」といった声が聞こえてきた。

白馬村のスキー場にあるレストラン、遠くから娘の演奏を見守る母親
白馬村のスキー場にあるレストラン、遠くから娘の演奏を見守る母親

会場には母・和美さん(57)の姿もー。

母・和美さん:
お客さんと一体となってステージをつくるというか、ちょっとずつ進化しているかなという感じですね

フルート奏者・坂口実優さん:
お客さまのために、精いっぱい感謝の気持ちを込めて演奏させていただきました

人前で堂々と演奏する実優さん。実は子どもの頃は発達障害の影響で人とのコミュニケーションに悩み、長く不登校が続いた。

その状況を変えたのが、フルートとの出会いだった。

娘の演奏に拍手を送る母の和美さん
娘の演奏に拍手を送る母の和美さん

生まれてすぐ…生死の境さまよう

実優さんは、生まれてからしばらく呼吸が止まり、生死の境をさまよった。

母・和美さん:
お尻パンパンたたくじゃないですか。それをやっても駄目で、気管挿管したまま、NICU(新生児集中治療室)へ

一命をとりとめたが、医師からは「後遺症が出るかもしれない」と伝えられた。

赤ちゃんの頃の実優さん(画像:坂口さん提供)
赤ちゃんの頃の実優さん(画像:坂口さん提供)

やがて保育園に入ると、指に力が入らず巾着袋が開けられない、真っすぐ走れないなど、他の子より、できないことが目立つようになった。

母・和美さん:
できないことをどうやったらできるかばっかり。人と同じにどうやったらできるかっていうことばっかりに注目しちゃっていて、できることを見てあげられなかったっていうか

保育園時代の実優さんと母親(画像:坂口さん提供)
保育園時代の実優さんと母親(画像:坂口さん提供)

学校になじめず不登校に

その後、運動機能が徐々に改善していったが、小学校に入ると「新たな悩み」が。

坂口実優さん:
ガヤガヤするような子が嫌いで、どうしても輪に入れなくて、とにかく授業自体が嫌だった。国語の時間とかでグループに分かれて発表みたいな感じのときに、「どう思う?」ってふられるとしゃべれなくて、それが嫌だった。(給食とかは?)全く食べられなくてほぼ残してしまっていて、ちょっとつらいなって思っていて

実優さんは人とのコミュニケーションが苦手。医師からは「発達障害」と告げられた。学校になじめず、3年生の頃から休みがちになり、やがて不登校に。

小学生時代の実優さん(画像:坂口さん提供)
小学生時代の実優さん(画像:坂口さん提供)

母・和美さん:
私自身が焦って焦って、分かっていても無理やり(学校に)行かそうとしちゃって、カッとなったときに、一度手を上げちゃったことがあったんですよね。そのときに、当たり所が悪くて鼻血が出ちゃって、それ見てハッと思って、何やっているんだろうと思って。そのときにすごく悲しくて、そこから良いところを伸ばそうと思って。たたくんじゃなくて

母の和美さん
母の和美さん

実優さんには「絶対音感」が

できないことが多かった実優さん。でも他の人にはない「才能」があった。

坂口実優さん:
先生が弾いていた(ピアノの)伴奏を聞いて、頭の中にコピーできた感じだったので、弾いたらその通りに弾けていた

保育園の年長の時、ピアノを本格的に習っていないのに一度聞いた伴奏をすぐに弾いてみせた。

実優さんには「絶対音感」があったのだ。

キーボードを弾く実優さん(画像:坂口さん提供)
キーボードを弾く実優さん(画像:坂口さん提供)

その後、ピアノを習い始め、母・和美さんは経験者ということもあり、家で猛練習をさせた。

母・和美さん:
ピアノも相当詰め込んじゃったんですよ。できるから、弾けるから。人に、この子、何もできないんだって思われるのが悔しくて、何かで輝かせたいというのがあったので

転機 フルートとの出会い

環境を変えようと4年生の時に私立の小中一貫校に転校。こちらも休みがちだったが6年生のとき、「転機」が訪れる。

坂口実優さん:
中学3年生の先輩が昼休みに、フルートを吹いている姿をよく見ていたんです。すごくきれいな音だな、なんてきれいなピカピカな楽器なんだろうと一瞬でとりこになってしまって、中学の入学式の帰り道に「今すぐ楽器屋に連れて行ってほしい」と親にお願いして。実はあまりピアノが好きではなかったんです。みんなが喜ぶから弾いていただけだったんです

坂口実優さん
坂口実優さん

中学から本格的にフルートを始め、高校卒業まで世界的なフルート奏者・清水和高さんのレッスンを受けた。

坂口実優さん:
(大変じゃなかった?)全然、むしろ楽しいと思いました。清水先生には毎回ほめていただいたので、幸せな時間だなと

フルートを始めた頃の実優さん(画像:坂口さん提供)
フルートを始めた頃の実優さん(画像:坂口さん提供)

腕を磨きプロのフルート奏者に

東京でのレッスンは「隔週」。家族が車で送迎した。

母・和美さん:
つらいと思ったことも一度もないですね、東京まで。楽しそうだったり、生き生きとしているのを見たので良かったです

2016年、音楽大学に入学。さらに腕を磨き、4年生のときには、ソロで全国大会に出場するほどの腕前に。

卒業後の2020年に、長野県内を拠点にプロ活動を始めた。

ソロで全国大会に出場した実優さん(画像:坂口さん提供)
ソロで全国大会に出場した実優さん(画像:坂口さん提供)

「生んでくれてありがとう」

長野市若穂の入浴施設「湯~ぱれあ」。これまで何度もコンサートを開いている。

でも、坂口さんはいつも緊張するという。

コンサートが始まると堂々と。

実優さんが初めて作曲した「サンキューマイラブ かけがえのないあなたへありがとう」。

家族をはじめ、応援してくれた全ての人に感謝を伝える曲だ。

地元の入浴施設で演奏する実優さん
地元の入浴施設で演奏する実優さん

フルートと出会い大きく変わった人生。子も母も成長した。

母・和美さん:
人に何かをしてあげられることができてよかったなっていうのと「心が軽くなりました」って言われたら、うちの子がそういうことできる子になってくれてよかったなって思いますね

フルート奏者・坂口実優さん:
母は私にとって大きな存在ですし、すごく心強いです。育ててくれて本当にありがとう、という感謝しかなくて。こんな私でも生んでくれてありがとう

娘の実優さんと母親の和美さん
娘の実優さんと母親の和美さん

母・和美さん:
生まれてきてくれて、ありがとうございます

フルート奏者・坂口実優さん:
好きなことをとことんやり続けた先には、応援してくださる方が必ず待っています。人の心に寄り添える、そんな奏者になれればうれしいです

プロのフルート奏者・坂口実優さん
プロのフルート奏者・坂口実優さん

(長野放送)

長野放送
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