ロシアが実効支配するクリミア半島とロシア本土を結ぶクリミア橋が、ウクライナ軍の水上ドローンによると見られる攻撃を受け、ロシアによる報復の動きが出ている。またロシアは、ウクライナ産穀物の輸出に関する合意の期間延長を拒否。これらは今後にどう影響するか。BSフジLIVE「プライムニュース」では高橋杉雄氏、小泉悠氏を迎え検証した。

攻撃を受けたクリミア橋は双方にとって大きな意味を持つ

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新美有加キャスター:
クリミア橋で7月17日に爆発があり、3人が死傷。ウクライナ軍の攻撃との見方が出ている。プーチン大統領はウクライナによるテロ行為として報復を示唆。クリミア橋は、ロシアにとって補給路の役割であるとともにクリミア支配の象徴。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
2022年10月の攻撃など、ウクライナは執拗に狙っている。準軍事的にも象徴的にも非常に重要な橋だということを示している。

高橋杉雄 防衛省防衛研究所防衛政策研究室長:
南部ザポリージャ方面のロシア軍への補給をウクライナは妨害したい。これまでもできる補給ルートへの攻撃は全てしている。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
アメリカのバーンズCIA長官がウクライナに行き、勝ち方に関する協議をした。クリミアに攻撃が届く地点までウクライナ軍が進軍することで、プーチンを停戦のテーブルに着かせる話だったという。

反町理キャスター:
クリミアへのプーチン大統領のこだわりは。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
ロシア人にとってクリミアは血を流し奪い取った土地で、愛国的意義が非常に大きい。プーチンにとっては2014年に併合し、国民に涙を流すほど喜ばれた場所。選挙シーズンを控える中、クリミアが脅かされることは今後、プーチンが考えなければいけない事態。

新美有加キャスター: 
ゼレンスキー大統領は2022年11月に世界初の水上ドローン艦隊の創設計画を発表。全長5.5メートル、最大重量は1トン、最高時速80キロで航行し航続距離は800キロ。実戦配備も進んでいるが。

高橋杉雄 防衛省防衛研究所防衛政策研究室長:
オデーサからクリミア半島を迂回して何百キロも進むのはかなり確実性が低く、かつクリミア橋の周辺ではアメリカのGPSに対する妨害がある。遠隔コントロールをする人は電波が届くところにいなければいけない。また橋脚自体を破壊する力はなく、爆風や熱風で橋桁の接合部分を損傷させるぐらいの力なのでは。

反町理キャスター:
ゼレンスキー大統領が言う100隻単位の艦隊になっているなら、もっと組織的な破壊活動が行われる気もするが、現状こういう破壊工作のほうがいいのか。

高橋杉雄 防衛省防衛研究所防衛政策研究室長:
生産能力と在庫数次第。ただ、ストームシャドウ(長距離巡航ミサイル)の使い方を見ても、ウクライナ軍は一度に大量投入するより散発的に長い間攻撃を続けることを好んでいるように見える。

同時進行する南北2つの攻勢、結果が先行きに影響する重大局面

新美有加キャスター:
ウクライナ東部クピャンスク方面、クレミンナ方面ではロシア軍が攻勢に出ているが突破できず。ドネツク州の要衝バフムトでは、プリゴジン氏率いる民間軍事会社ワグネルの撤退後、ウクライナ軍がバフムトを包囲するように南北から攻勢を強めている。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
最近は北側のクピャンスクからクレミンナにかけてロシア軍が多数集まって押している。この結果で戦争の先行きはかなり変わる。一方、ウクライナも南側で攻めており突破しようとしている。2つの攻勢が同時に進行する形で、それぞれの成否により4通りの結果がある。相当クリティカルな局面なのは間違いない。

反町理キャスター:
仮にロシアが北部を、ウクライナが南部を取る場合、そこからの停戦・休戦のイメージは。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
ウクライナ側のシナリオなら、クリミアを人質に停戦を要求し新しく取った北側も返せとなるのでは。プーチンが応じるかはわからないが。

高橋杉雄 防衛省防衛研究所防衛政策研究室長:
攻勢後の双方の余力、奪い返した場所の価値・戦略上の意味次第。南部をウクライナが奪回する方が、北部をロシアが得ることより価値が大きい。ただ、それぞれ自分たちが有利な場所で戦おうとしており、論理的な思惑がぶつかり合っている。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
仮に最悪のシナリオで、ロシア軍が北部で大きく躍進する一方、ウクライナ軍が南で全く進めない場合、NATOの支援のあり方の議論になると思う。軍事作戦の結果がどう政治的に解釈されるか。

穀物合意をロシアが離脱した背景はトルコへの報復か

新美有加キャスター:
黒海を通じたウクライナ産穀物輸出に関する合意について、ロシアは履行停止を発表し事実上離脱。ロシアへの約束が実施されず効力は消滅したとしている。これはトルコと国連が仲介役となって、黒海で船を安全に航行させる合意がなされたもの。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
直前のウクライナとの首脳会談でトルコがかなりウクライナ寄りのことを言ったことなどで、ロシアは仲介者のトルコが裏切ったと考えてもおかしくない。報復とも見える。

反町理キャスター:
穀物輸出のための海上人道回廊をウクライナ軍が使って軍事行動をしている、というロシアの言い分も。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
可能性は排除できないが、全くの言いがかりの可能性も依然ある。そもそも「ウクライナがロシア系住民を虐殺している」「核兵器を作っている」などロシアは言うだけ言って証拠を出していない。私は全部でっち上げだと思っている。

高橋杉雄 防衛省防衛研究所防衛政策研究室長:
この穀物合意はロシアの穀物輸出も含むが、実際にはSWIFT決済システムなどの問題で輸出できておらず、合意を潰しても失うものはない。ロシアは瀬戸際外交的に取るものを取りに来ているのでは。

将官の戦死、ワグネルとの関係…ロシア軍の抱える混乱

新美有加キャスター:
ウクライナ南部の都市ベルジャンスクで、ロシア軍の司令部だったホテルがミサイル攻撃を受け崩壊、5人の将官が死亡したとされる。

高橋杉雄 防衛省防衛研究所防衛政策研究室長:
全員揃っているタイミングでピンポイントの攻撃が行われたなら、ウクライナが相当確度の高い現地のインテリジェンスを持っていたことになる。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
大変な損失。諸兵科連合軍の司令官が戦死したが、日本の自衛隊で言えば5人しかいないクラスの人。指揮を引き継ぐ人はいるだろうが、当然現場は混乱する。

新美有加キャスター:
米「ウォールストリート・ジャーナル」紙の報道では、ワグネルの反乱に絡んで将官を含むロシア軍の少なくとも13人が拘束された。プリゴジン氏に近いとされる航空宇宙軍総司令官のスロビキン上級大将らが対象。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
スロヴィキンは今の軍事作戦の副司令官で、陸空軍の連携などではキーマン。全く出てこないのは異常で、何らかの政治的パージに遭っていると思う。頼ってきた将軍たちへのプーチンの不信感が爆発する事例になったのでは。

高橋杉雄 防衛省防衛研究所防衛政策研究室長:
「プリゴジンと軍の高官らが結びつき、かなり組織的で大規模な反乱を試みた」「ワグネルだけの反乱だったが、プーチン自身が疑心暗鬼にかられてワグネルと関わりがあった人間を一斉排除しようとしている」という可能性がある。今のところ後者の可能性が高い。

新美有加キャスター:
ワグネルの反乱と直後の軍内部の反乱に関し、プーチン大統領がロシア日刊紙のインタビューに答えた。全ワグネル戦闘員がセドイというコードネームの司令官の指揮下に入るはずだった、幹部の多くは頷いたがプリゴジン氏が拒否したとの内容。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
決着がはっきりしないワグネルの乱についてプーチンなりの説明をしようとしたのでは。だが中身は情けない。武装反乱を起こした連中を一生懸命なだめようとしているよう。今後、ワグネルはいくつかに分割されると思うが、プーチンはプリゴジンが実力組織を持ち続けることを阻止できなかった。

反町理キャスター:
手懐けようとするような姿勢。プリゴジンにも一定の財産を保障しているように見え、身柄拘束や罰する話になっていない。パワーゲームはプリゴジンの勝利に見えるが。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
プリゴジンが力で刃向かってきた。ロシアでは「俺を怒らせると怖い」と力を見せると尊敬されるところがある。プリゴジンは今後も強さを見せ続けるかもしれない。ある程度兵力が残っているなら、ウクライナの戦場に戻る可能性も。

高橋杉雄 防衛省防衛研究所防衛政策研究室長:
ワグネルグループを完全にバラバラにすることでプーチンの指導力が再構築されると思っていたが、そうならない。別の考えがあるか、一貫した対処方針を作っていないか。

反町理キャスター:
軍に対しては厳しいが、ワグネルには甘い。不満が高まるリスクは。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター専任講師:
プーチンはサンクトペテルブルク市の副市長時代に地元のマフィアたちと付き合いがあり、プリゴジンとも恐らくそこで知り合った。プリゴジンとの関係はヤクザ同士の抗争の手打ちのようで、そもそも違うルールで付き合っている。もしかすると軍から不満が出ており、有力な将軍たちがワグネルになびいた理由となったかもしれない。

(BSフジLIVE「プライムニュース」7月18日放送)