厳しい暑さが続いている。8月も東京ではすでに連日のように猛暑日を記録するなど、できるだけ外出はしたくないと誰もが思っているだろう。

そんな中、犬を飼っている人たちは“散歩をどうするか”で悩んでいるのではないだろうか?

注目されたお散歩隊(@osanpo_center)の投稿
注目されたお散歩隊(@osanpo_center)の投稿
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30℃の気温の中買い物で出かけた1時間の間に散歩させられているトイプー、シーズー、茶ラブを見かけ、心臓がバクバクしました。 死にますよ?熱中症で命を落とします。ご自身が毛皮を着て這いつくばって木陰もないコンクリートの上をハイハイしてみてくださいよ。想像力を働かせてください。

X(Twitter)にこのような投稿をしたのは、千葉県動物愛護センターに収容されている犬の散歩ボランティアをしている、「お散歩隊」のアカウント(@osanpo_center)。

ポスター風のイラストには、ギラギラと照り付ける太陽と、熱くなった地面の上を散歩する犬が体調を崩している様子が描かれており、「その散歩ちょっと待って!!日中の炎天下は危険」「地面は60℃以上 犬の足裏が火傷し熱中症になりますよ」と呼びかけている。

人間も体調を崩しかねない暑さの中、日中の散歩が危険だということは誰もがわかると思うが、「外でしかトイレをしないよう躾けているため、仕方なく散歩に連れ出している」という飼い主もいることだろう。そして実際、日中に散歩している犬を見かけることも多い。

では、そんなワンちゃんの散歩はどうしたらいいのだろうか?飼い主が気をつけなければいけないこととは?まずはX(Twitter)に注意喚起を投稿した「お散歩隊」にお話を聞いた。

「昭和の時代とは違うと認識して、目を覚まして」

――今回、「炎天下のお散歩」について注意喚起した理由は?

毎年恒例で、熱中症対策について、微力ながら注意喚起及び啓発となる発信をさせて頂いておりましたが、私自身がたった1時間にも満たない間に、炎天下の中、犬の散歩をしている光景を立て続けに3件も目撃し、本当に命の危険性があることが周知されていないことの警鐘を含めて、飼い主さん達へ訴えるための発信となりました。


――“危険な散歩”をしているペットは、どのくらいの頻度で見かける?

決して珍しいことではなく、普段のお散歩と思われる様子がそこかしこで見受けられます。観光名所になっている箇所などは、特に目撃する方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

愛犬が「あつ~い」となってしまう前の対処法は?(イメージ)
愛犬が「あつ~い」となってしまう前の対処法は?(イメージ)

――「お散歩隊」では、気温や湿度など、散歩を取りやめる基準は設けている?

どうしてもセンターの開庁時間内に作業する必要がある為、散歩の時間は日中であることが避けられません。そのため、お散歩隊がセンター収容犬たちをお散歩させて頂く活動を通しての注意としては、犬たちの体調など、目に見える部分での配慮をしつつ、日のあたる箇所を歩行せずにお散歩できるよう、クールベスト等のアイテムを活用しています。

他には、途中でミスト・プール・テント等、涼める場所を設ける、または日陰のドッグランを利用することで配慮しております。 一般の飼い主さんであれば、時間の調整など、しっかりと管理して頂きたいです。

日陰でしっかり休憩も(イメージ)
日陰でしっかり休憩も(イメージ)

――改めて、飼い主さんたちに伝えたいことは…

反響があったとはいえ、まだまだ日中のお散歩の危険性については周知されていないと、毎年夏になる度に残念な気持ちがなることは否めません。人はいくらでも配慮できる暑さの中でも、脱げない毛皮を着て、靴を履かずに地面からわずか数十センチのところで感じる暑さがどれくらい犬たちに影響があるのか、もう少し想像力を働かせて頂けたら……と思います。

熱中症により一度上昇してしまった体温を下げるまでに、そのレベルによっては命を落としてしまう症例も少なくありません。

昭和の時代の、暑さも扇風機で凌げていた気温とは違い、 まさに殺人的な気温となった令和の時代にも、未だに昭和の時代のお散歩を異常と認識できない飼い主さんには目を覚ましてほしいです。飼い主さんによる、ちょっとした配慮で避けられる症例で苦しむ子がこれ以上出てしまわずに済むよう、周知に繋がりますように。

獣医師は…「熱中症は回避が第一」

「お散歩隊」への取材では「時間の調整など、しっかりと管理してほしい」とのことだったが、では、実際にどのくらいの時間帯に、どのような散歩でペットの安全が守れるのだろうか。さくら動物病院(浦安市)の齋藤央院長にお話を伺った。


――炎天下の散歩で、ワンちゃんはどのくらいの暑さを感じている?

手元に正確なデータはないのですが、約30℃の気温で、地面から近い犬の体感温度は約40℃を超えると言われております。ですので、最近の40℃に近い気温では、さらに高い危険な体感温度と想定しております。

また、30℃の気温でのアスファルトの温度は55℃〜60℃近くに達する事が想定されており、熱に強いとされる犬の肉球でも十分熱傷の危険があります。


――では、このくらいの気温の時は散歩をやめた方がいい、という基準はある?

30℃を超える場合はお散歩は避けると良いと思います。犬はもともと人間よりも体温が高く、さらに汗腺がないため汗をかいて体温を下げることができません。舌を出して呼吸することで体温を調節していますが、呼吸器や循環器に負担がかかってしまいます。そのため、体温より気温が上回ってしまうような場合は、危険になってくると思います。


――ペットの熱中症はどのくらいの件数ある?

熱中症症例ですが、7月・8月に当然多く、比較的規模の小さい当院でもこの2カ月間(7月・8月)に、ここ数年は毎年10例程度診察しております。内訳としては犬8:猫2くらいの割合です。やはり散歩に行く犬が多いのが現状です。

程度としては、暑さの為軽度の嘔吐、下痢などの軽症が6割、呼吸が荒い状態が続いているような症例が3割、立てなくなり場合によっては意識レベルが低下しているような重症例が1割程度となっております。

夏に増えるペットたちの熱中症(イメージ)
夏に増えるペットたちの熱中症(イメージ)

――ペットが熱中症にかかってしまったら、どんな症状が出る?

初期症状として、
・ハアハアと荒い呼吸が続く
・目が充血している
・(触った時に)体温が異常に高い
などが起こります。このような症状は熱中症を疑います。

さらに進行すると
・立てなくなる
・ぐったりして意識がなくなる
・激しい嘔吐や下痢、痙攣など
ここまでくるとかなり生命の危険があります。

また、猫の場合は、基本が鼻呼吸をする動物ですので、猫が口で呼吸(ハアハア)している場合は、犬以上に体温が上昇しているか重篤化している可能性が考えられます。

熱中症の症状は飼い主様が見ても異変と感じる事は多いとは思いますが、それが生命を脅かす可能性がある症状とは感じられず、楽観視してしまう事が危険であると日々思っております。


――トイレなどの理由で“外散歩”が必須のワンちゃんは、どうすればいい?

これまでの飼育指導では「朝の早い時間と、夜の遅い時間の散歩だけにしようね」と飼い主様に伝えておりました。ただ今年の異常な暑さのため、特に最近では、朝の散歩に関しては控えても良いかもと注意喚起しております。

理由として、日の出が早いこの時期、皆様がお散歩を考える6時〜7時頃でも、気温および地温はかなり上昇しており、前述しました当院での熱中症症例(重症例を含む)が、朝の散歩後もしくは午前中に緊急搬送されるケースが多かったためです。恐らく、まだ朝も早いし今のうちなら大丈夫だろうといってお散歩に出かけたケースが多いのではないかと考察しております。

もちろん、お散歩中でないと排泄ができないわんちゃんも多いので、このような方には朝はお散歩ではなく、排泄をするのに外に出るだけで、やはり長時間の外出は避けて頂けるよう指導しております。夜のお散歩に関しても、日没後十分に時間の経過した午後8時以降などをすすめています。

どうしても外に出たいワンちゃんには日没後のお散歩も検討して(イメージ)
どうしても外に出たいワンちゃんには日没後のお散歩も検討して(イメージ)

――もしペットに熱中症の症状が出たら、応急処置はどうしたらいい?

一般的には「水をかけて体温を下げましょう」とか「けい動脈・腋窩(わきの下のくぼみ)・鼠径部(足のつけ根)など血流を保冷剤で冷やしましょう」などといった処置がよくうたわれております。

これらは事実ですし、間違いではないと思います。ただし、実は獣医側の立場からしますと、前述の症例の様に、熱中症では非常に多彩な症状・状態があり、それに応じた治療方法が必要となります。

ですので、厳密に言えば、飼い主様にやって頂きたい事は、

(1)先ずはエアコンなどで環境温度を下げる事(野外であれば涼しい環境に移動する事)
(2)呼吸状態を確認して、ハアハアが5分以上続く場合は速やかに獣医師に連絡すること
(3)それ以外の症状・嘔吐・下痢・ふらつき・意識レベルの低下などがあった場合は躊躇なく獣医師に連絡、受診すること


が重要と思っております。

熱中症は私達獣医師にとっても実は難しい病気ですので、やはり何よりも回避が最優先と思います。


――ちなみに、どんなワンちゃんが特に注意が必要?

トイプードルやチワワなどの体高の低い小型犬・ブルドッグやパグなどの短頭種(鼻が短い犬種)でもともと気道の狭い犬種・シベリアンハスキーやバーニーズマウンテンドッグなど寒い地方が原産の犬種は特に注意が必要です。

応急処置も有効だが、まずは熱中症そのものの「回避」を
応急処置も有効だが、まずは熱中症そのものの「回避」を

齋藤院長によると、最近の熱中症の症例としては「朝の散歩後、帰ってきてからぐったりして立てない」として来院した若い柴犬がいるという。集中治療ののち状態が安定したため翌日に退院したものの、2日後に再び腎機能・肝機能の重症化を確認。その後は再度の集中治療を経て回復し、現在は経過観察中とのことだ。

「熱中症では多くの場合、一過性の重篤化のケースが多いのですが、最初のダメージが大きい場合は治療が長期化する場合や、後遺症が残る可能性も十分に考えられる」「そもそも熱中症に気付かずに手遅れになってしまう場合もある」という。そのため、まずは熱中症自体を「回避」することが大事だと話していた。

ちなみに、少しでも肉球のやけどを防止するために犬用の「靴」をはかせたい、という飼い主さんもいるだろう。靴は熱中症の予防にはならないものの、やけど防止としては有効。ただし、慣れない靴で歩くことで思わぬけがをしてしまうこともあるため、一度部屋の中で慣らしてから実際の散歩で使ってほしいとのことだ。

厳しい暑さの中、自分から「今日は暑いから散歩したくないな…」とは言えないペット。愛犬との楽しい散歩の時間は涼しくなってからの楽しみにして、まずは危険な暑さから守ってあげてほしい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。