7月12日。静岡県議会では、県政史上50年ぶり2回目となる知事に対する不信任決議案が提出された。採決の結果、賛成票は可決ラインにわずか「1」届かず、決議案は否決された。揺れに揺れた県議会6月定例会・最終日を振り返る。

きっかけは“コシヒカリ発言”

事の発端は2年前。川勝平太 知事が御殿場市について「あちらにはコシヒカリしかない」「あちらは観光しかありません」などと揶揄するような発言したことをきっかけに県議会から辞職を勧告された。

その際「自らにペナルティを科す」として期末手当や給与を返すとしながらも、2023年7月現在、返上に必要な条例案が提出されていないことによるものだ。

波紋を呼んだ知事発言

給与返上に関して発言する川勝知事
給与返上に関して発言する川勝知事
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7月12日午前10時30分。静岡県議会6月定例会・最終日の本会議が始まった。

議案や意見書案の審議など予定されていた議事が順調に進むと、午前11時15分頃、川勝知事が発言の機会を求めた。知事は本会議に先立ち「給与返上に関して報告させてほしい」と中沢公彦 議長に申し出て、議会運営委員会でこれを許可されていた。

川勝知事は壇上で「不信の念を抱かせお詫びする」と謝罪した上で「給与を返上するための条例案の議会への提案に向けて様々な努力や調整をしたが、議員の『辞職勧告決議は給与返上を求めるためのものではない』という考えや『給与の返上と自らの責任の取り方には関係性がない』との意見等を踏まえ、当時提案を見送ることにした」「給与を返上するための条例案を提案したいとの思いは変わっていない」と述べた。

さらに7月5日の県議会・総務委員会でこの問題を指摘する意見があったことに触れ「条例案を審議いただける環境に変わったと認識した」として、県議会・9月定例会に給与の一部を返上するための条例案を提出する考えを明らかにした。

知事の発言をどう評価すべきか。各会派が対応を考えるべく、本会議はいったん休憩に入った。

不信任?揺れる自民改革会議

総会室に入る自民改革会議の議員
総会室に入る自民改革会議の議員

休憩中に行われた最大会派・自民改革会議の議員総会。この時点で、増田享大 代表には不信任決議案を提出する考えはなかった。

しかし、そのことを伝えると複数のベテラン議員が「県民との約束を反故にした責任は重い」「議会に責任を転嫁した」「嘘をついた知事を辞めさせないのか」などと猛反発したため、当選期数ごとに意見を集約した上で、再度、会派役員による協議を行う方向で仕切り直しが図られた。

ただ会派内の意見は割れ、どちらかと言えば不信任決議案の提出に前向きな声の方が少なかったため、午後3時半から行われたこの日3回目の議員総会で増田代表は再び不信任決議案の提出を見送る考えを明らかにした。

それでも、納得のいかない一部のベテラン議員が食い下がる。室外まで轟く声で執行部に詰め寄ると、またしても議論を仕切り直すこととなり、午後4時から役員会が開かれることになった。

この時点で流れは不信任決議案の提出へと大きく傾いた。役員会では“提出を前提”にして、具体的な不信任決議案の文言調整が始まった。

文案の大枠が固まると午後5時半には会派役員や各期の代表議員が集められた。

そして午後6時過ぎ。4回目の議員総会の場で、増田代表は所属議員全員を前に不信任決議案を提出すると報告。会場からは外に漏れるほど大きな拍手が湧きあがった。

ギリギリの攻防

静岡県議会 本会議場
静岡県議会 本会議場

一方、この動きに警戒感を示したのが川勝知事を支持・支援する第2会派・ふじのくに県民クラブだ。

全議員の3分の2以上が出席した上で、出席議員の4分の3以上の賛成が可決要件となっている不信任決議案。定数68の静岡県議会で全議員が出席した場合、可決ラインは「51」となる。

現在の議会構成は、自民改革会議・40人、ふじのくに県民クラブ・18人、公明党県議団5人、無所属・5人。つまり、自民改革会議、公明党県議団、無所属の全議員が賛成すると仮定した時に、1人でも造反が出れば可決を許すことになる。

しかも、公明党県議団は2年前、川勝知事に対する辞職勧告決議案を自民改革会議と共に提出・賛成している。さらに、自民改革会議が不信任決議案の提出を検討している段階で、無所属議員が5人とも賛成に回るとの情報も漏れ伝わっていた。

そこで、ふじのくに県民クラブ所属議員への引き締めを図るとともに、会派幹部が公明党県議団に対して「不信任決議案には大義がない」と暗に採決の放棄または反対票を投じてもらうよう水面下での動きを見せた。

50年ぶりの知事不信任案提出

不信任決議案を提出する自民改革会議・増田代表
不信任決議案を提出する自民改革会議・増田代表

12日午後10時頃。増田代表を含む自民改革会議所属の4人が議長室を訪れ、川勝知事に対する不信任決議案を提出した。

これを受け、午後10時半から開かれた本会議では増田代表自身が「看過できない複数の虚偽説明と断ぜざるを得ない矛盾があり、度重なる知事の不適切発言を踏まえ、知事の発言について一切信ずるに当たらないと判断し、ここに川勝平太知事に対する不信任決議案を提出するに至った」と提案理由を説明した。

休憩をはさんで日付が変わった13日午前0時半。不信任決議案に対する討論が始まった。

ふじのくに県民クラブ・田口章 会長は「今回の事案は不信任にあたるものではないと確信している。本決議案により県政を空転させることはできない」と反対の立場で討論したのに対し、自民改革会議・土屋源由 副代表は「後からいくら御託を並べても世間に通用する言い訳にはならない」と決議案への賛同を求めた。

可決には1票届かず

13日未明に行われた採決
13日未明に行われた採決

迎えた採決。ふじのくに県民クラブに所属する18人全員が反対に回ったことから、賛成50・反対18で不信任決議案は「否決」された。

これにより揺れに揺れ、そして長い長い6月定例会・最終日は幕を閉じた。

ただ可決ラインまで「あと1票」と迫ったことに、自民改革会議・増田享大 代表は「目的を達成できなかったことは非常に残念」としつつも「自民改革会議以外からも賛同を得られたのは本当にありがたい」と述べ、公明党県議団・蓮池章平 団長も「僅差(での否決)ではあったが、議会としては2021年の辞職勧告に続いて知事に『No』を突きつけたという結果になったのではないか」と述べた。

一方、ふじのくに県民クラブ・田口章 会長は会派に所属する議員以外は全員 賛成票を投じたことに「私たちの会派の考え方を理解してもらえなかったことは少し残念」とコメントした。

閉会後は無言で立ち去るも…

取材に応じる川勝知事
取材に応じる川勝知事

閉会後は報道陣の問いかけに無言を貫いた川勝知事だったが13日午前 取材に応じ、「今回大変多くの方たちが不信任の決議に賛成されたということは辞職勧告決議に勝るとも劣らない大きな意見として受け止めている」とした上で、「(可決には)票が足りなかったので、私は職務に専念するという決意に変わりない」と述べた。

川勝知事はちょうど任期の折り返しを迎えたばかり。改めて自身の発言や行動には十分に責任を持つことが求められている。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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