「たんの吸引」や「人工呼吸器」など24時間の医療ケアを必要とする子どもたち、「医療的ケア児」とその保護者。「医療的ケア児」の親は介護につきっきりとなり、社会から孤立しがちといわれている。いま社会に求められていることとは?

難病を抱えるも家族の愛情に包まれ4歳に

福岡市東区に住む筒井真央さん。

橋本真衣アナウンサー:
こは音ちゃん、おはよう。初めまして、きょうはご機嫌、如何ですか?

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筒井さんの4女・こは音ちゃん、4歳。

「13トリソミー症候群」という難病を抱えているこは音ちゃん。13番目の染色体の数が1つ多いことから、軽い病気でも重症化しやすく、病状がいつ急変するか分からない。常に人工呼吸器が必要で、24時間、看病しなければならない。

橋本真衣アナウンサー:
こは音ちゃん、お手々、触ってもいいですか?よろしくね

呼びかけに反応はあるが、こは音ちゃんは話すことができない。

橋本真衣アナウンサー:
お腹にいるときには、どこまで分かっていたんですか?

筒井真央さん:
お腹にいるときには、病気は全く分からなかったです。生まれて身体的な障害が先に見つかって、あと呼吸状態が悪くて、子ども病院に緊急搬送されて

橋本真衣アナウンサー:
びっくりされましたよね

筒井真央さん:
びっくりしました。「あっ」という間に連れ去られていく感じで。(一緒に入院も)できなかった。私は産婦人科で泣きながら4日間、過ごして

こは音ちゃんは、手足の指の数が多い「多指症」や腎臓に尿がたまる「水腎症」など、8つの合併症を抱えて生まれてきた。そして生後1カ月で医師から伝えられたのが「13トリソミー症候群」だったのだ。

そのとき、筒井さんが手渡された書類には、「生存率は、生後1年で5から10パーセント。3歳以上生存することは稀」との記載があった。

筒井真央さん:
あのときのメンタル、多分、今まで史上最悪ぐらいの…びっくりしたもんね

こは音ちゃんが生まれたときの気持ちを真央さんはインスタグラムに書き留めていた。

「とにかくこの子を支えて行くしかない!!」

真央さんは自宅での介護を決断する。

こは音ちゃん4歳の誕生日会
こは音ちゃん4歳の誕生日会

そして両親や姉妹など家族の愛情に包まれ、こは音ちゃんはすくすくと成長し、4歳の誕生日を迎えることができた。

橋本真衣アナウンサー:
1歳の誕生日のときは、どんなお気持ちでした?

筒井真央さん:
1歳の大きさが、違いましたね。「1歳の壁」ってみんなよく言うんですけど、それを乗り越えられるっていうのは…

橋本真衣アナウンサー:
(1歳の壁を)乗り越えての4歳

筒井真央さん:
すごい、頑張ってる

年間48時間無料で訪問看護師を利用できる

こは音ちゃんのように24時間の医療的ケアを必要とする「医療的ケア児」は、2021年時点で、全国に約2万人いるといわれていて、親は介護で孤立しがちだ。

そんな親たちが少しの時間、介護を離れてリフレッシュする「レスパイト」のために「訪問看護」のサービスが、今、注目されている。

訪問看護ステーション「いちばん星」の山下郁代さん
訪問看護ステーション「いちばん星」の山下郁代さん

「こはちゃん、おはよう」と訪ねてきたのは、こは音ちゃんが退院してから、筒井さん宅に訪問してサポートにあたる訪問看護ステーション「いちばん星」の山下郁代さんだ。

ほぼ毎日、自宅を訪ね、こは音ちゃんの体調をチェックし、おむつを替えたり、たんの吸引をしたりして介護の手伝いをしている。医療資格を持つ訪問看護師の心強いサポートは、こは音ちゃんの自宅での介護には欠かせない。

筒井真央さん:
退院するときに、一番、不安だったのは、「命の危機になったときにどうしよう」っていうこと。訪問看護師さんが来てくれることで安心感もあります。自分は自分でやりたいことをやりつつ、お世話もできる時間を作っていくためには、協力してもらえる人には入ってもらって。自分たちの家族の1人みたいな感じです

介護を受けるこは音ちゃんの傍らで、筒井さんが何か準備を始めた。

橋本真衣アナウンサー:
真央さん、今からお出かけですか?

筒井真央さん:
はーい、お出かけしようと思います。ちょっと「レスパイト」お願いして、久しぶりのマッサージに行こうと思ってます

このお出かけこそ「レスパイト」と呼ばれる一時休息。福岡市が提供している「在宅医療ケア児レスパイト事業」を利用したものだ。

福岡市は2020年から、福岡県の補助金も活用して約50の看護訪問ステーションと委託契約を結び、その利用者に1年間で48時間の「レスパイト」の時間を無料で提供している。

橋本真衣アナウンサー:
1人の時間とか、子どもと離れる時間って、やっぱり大事ですよね

筒井真央さん:
そうですね。ずっとお家で閉じこもっているのは、障がいの子どもが、いる、いないに関わらず、周りが見えなくなっちゃって、ずっと家に閉じこもっているような生活は暗いイメージ。制度とかうまく利用したら子どもたちにもしてあげられるし、自分のしたいことも、全部はできないけど、ちょっとはできるかな

映画を見たり買い物に行ったり…と「レスパイト」に制限はない。

筒井真央さん:
うちは3人姉妹がいて、上の子どもたちに、行事もそれぞれにあるし、習い事の参観日とかもあったりするので。習い事を断念しちゃったっていうのもあったので、参観日とか習い事も、自分たちがしたいことはなるべくさせてあげたい

こは音ちゃんの介護でなかなか行くことができない3人のお姉ちゃんたちの行事。筒井さんは「レスパイト」を子どもたちのための時間にも使っている。

そしてこの日選んだのは「マッサージ」だ。

筒井真央さん:
3カ月振りかもしれないです。肩腰ガチガチなので、しっかりほぐしてもらいたいと思います

訪問看護師と楽しい時間を過ごす子ども

その頃、自宅では…。

山下郁代さん:
おーい、こはちゃん、触ってみようか。あれ、なんだ?なんだ?寝ちゃったのか?

訪問看護師の山下さんは、こは音ちゃんと遊ぶための玩具を持ってきていたのだが…、こは音ちゃん、この日は少し眠たい様子。しばらくすると小さな寝息が聞こえて始めた。

同じ年頃の子どもたちのように遊び回ることができないこは音ちゃんだが、山下さんは、こは音ちゃんが、少しでも笑顔になるような時間も提供している。

山下郁代さん:
お誕生日のときに、1歳のお誕生日のときに撮った写真

こは音ちゃんが、1歳、重ねるごとに撮影している誕生日の記念写真。着物やドレスなど可愛らしくおめかしして楽しい時間を過ごす。

山下郁代さん:
きょうもお母さん、「寝られなかった」って言われてたじゃないですか。それが何日も続くと生活自体を楽しむことができなくなる。お母さんは、自分のやり方があって、ほかの人に任せられなくなっちゃうこともあるし、お母さんが倒れちゃったとかなって、(外部から)支援者が入ったときに、(残された)お子さんもすごく戸惑っちゃうし。病院にかかるぐらい落ち込んでしまう方もいらっしゃいます。お母さんもちょっと休息で楽しいこともあって、子ども自身も楽しいことがあって、毎日を楽しく過ごしてほしい

「48時間は少ない」社会全体で支えるために…

そして、1時間後、筒井さんが帰宅。

橋本真衣アナウンサー:
リフレッシュできましたか?

筒井真央さん:
はい、ほぐされてきました。ありがとうございました

山下郁代さん:
こはちゃんは、1回、起きたんですけど、おむつ替えて、テルテル坊主を作ろうかって言ってたんですけど、作っている間に寝ちゃいました

筒井真央さん:
また寝ましたか。熟睡モードですね

信頼できる訪問看護師さんがいるから安心して休める「レスパイト」事業。

橋本真衣アナウンサー:
レスパイト利用が、年に48時間というのは、どう感じられていますか?

山下郁代さん:
月にするとたった4時間なんですよね。きょうだいが多いところもあるし、お母さんの具合が悪いと受診に代わりに行くこととかもあるんです。受診だけで5~6時間、かかってしまうこともあるので、年に48時間は、ちょっと足りないのかなって

医療的ケア児の支援も「子育て支援」のひとつではないのか?家族だけに負担を強いるではなく、社会全体で支えるために、さらなるサービスの充実が求められている。

(テレビ西日本)

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