まもなく始まる夏山シーズン。コロナ禍で人気となった登山だが、遭難件数は近年、増加傾向にある。専門家は自分の体の状態や、今いる位置を常に確認することが大切だと強調する。安心して登山を楽しむためには…山岳ガイドに注意点を聞いた。

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夏山登山の注意点

雪渓が残る迫力の山肌に、登山道からも楽しめる愛らしい山野草。各地の山は、間もなく登山客で最もにぎわう時期を迎える。日本山岳ガイド協会の認定ガイド・狩野浩さんに宮城県栗駒山を実際に登りながら、夏山登山の注意点を教えてもらった。

宮城・秋田・岩手の3県にまたがる栗駒山
宮城・秋田・岩手の3県にまたがる栗駒山

山岳ガイド 狩野浩さん:
脱水症、熱中症気味になると意識がぼーっとし始めてきますから、そのときは冷たいもので体を冷やす。それから水分はこまめに余計とる。

日本山岳ガイド協会の認定ガイド 狩野浩さん
日本山岳ガイド協会の認定ガイド 狩野浩さん

この時期、最も気をつけるべきは「熱中症」と「脱水症状」。高温で湿度の高い環境で長時間行動すると起こりやすい症状で、水をこまめに飲むなどの対策が有効だ。さらに、天気が変わりやすい夏の午後は落雷にも注意が必要なことを忘れてはいけない。できるだけ朝早く出発し早めに下山することが大事だという。

そして、もう一つ大事なことが。それは「遭難しないよう自分の位置を把握すること」。山で遭難する原因として最も多いのは「道に迷うこと」で、宮城県内で発生した遭難事故の4割を占めているという。

電波がなくても「アプリ」

狩野さんが推奨するのがスマートフォン用GPS地図アプリなどの使用だ。取材中に利用していたのは「YAMAP」というアプリ。栗駒山を登り始めて約1時間半、歩いたルートが記録され、現在地も把握できていた。

こうした技術を使い、速やかな救助につなげようという動きもある。宮城県警は5月30日、「YAMAP」の運営会社と協定を結んだ。

県警との協定締結式
県警との協定締結式

「YAMAP」は全国2万5000以上の山の地図情報を網羅。GPS機能で現在地や歩いたルートが分かるほか、電波の届かない場所でも、アプリの利用者同士が交換する情報で位置を絞り込むことができる。事前に地図をスマホにダウンロードすることで、電波が届かない場所でも、現在地・行くべき方向・歩いた軌跡が分かるといった仕組みだ

YAMAPは 2万5000以上の山の地図情報を網羅している
YAMAPは 2万5000以上の山の地図情報を網羅している

また、アプリを通して、登山計画を作成し提出することもできる。今回の協定により、遭難した人の位置情報と登山届の情報を、県警との間で速やかに共有できるようになる見込みだ。

アプリ上で登山届の提出も可能
アプリ上で登山届の提出も可能

宮城県警の原幸太郎本部長は今回の協定について「遭難者の早期発見・救助には大変有効」としたうえで、「登山者の登山届提出の意思向上と登山事故防止につながる」と期待を示した。

宮城県警 原幸太郎本部長
宮城県警 原幸太郎本部長

山岳遭難増加傾向 2021年に過去最多

協定の背景にあるのが相次ぐ遭難事故の現状だ。宮城県警によると、山岳遭難の発生件数は2021年、過去最多の42件となり、2022年も30件の事故が起きた。一方で、2022年に発生した遭難事故のうち、「登山届」を提出していた人はわずか2割ほど。通報を受けても居場所が絞り込めず、救助の遅れにつながっているのが現状だ。5月14日にも「登山届」を提出していなかった男性が、栗駒山で遭難する事故が起きている。

宮城県内の山岳遭難発生件数 2021年に過去最多を更新した
宮城県内の山岳遭難発生件数 2021年に過去最多を更新した

魅力あふれる、夏山登山を安全に楽しむためにも、事前の「準備」と「注意」を怠らないことが重要と言えるだろう。

(仙台放送)

仙台放送
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