戦争や大規模な自然災害など緊急事態が起きた際、衆院議員の任期延長を可能にするか否か。25日のフジテレビ系『日曜報道 THE PRIME』(日曜午前7時30分)で、自民、立憲の政策責任者が熱い議論を展開した。

自民党の新藤義孝政調会長代行は、憲法で規定された参議院の緊急集会は一時的・限定的な制度で、選挙ができないほどの緊急事態には対応できず、二院制を機能させるためにも衆院議員の任期延長が必要だとの立場から主張を展開した。「日本国憲法には選挙が実施できなくなってしまうような緊急事態、いわゆる有事という概念がない。そういう事態に限って議員任期を延長する。二院制をできる限り維持することが必要だ」と強調した。

一方、立憲民主党の長妻昭政調会長は、選挙権の停止は国民主権の侵害につながり、内閣の暴走につながる恐れがあるとして、緊急事態時に参議院の緊急集会で対応すべきだとの立場から論じた。「(与党などが主張する)憲法改正をすると、恣意(しい)的に議員の任期を延長したり、国が暴走したりする危険が非常に大きいと危惧している」と述べた。

番組コメンテーターの橋下徹氏(弁護士・元大阪府知事)は、「二院制の前提は選挙で選ばれた国会議員による二院制だ」として、任期が切れて選挙をふまえていない衆院議員の任期延長論は「厚かましい」と断じた。「憲法を改正し、まずはしっかり(参院の)緊急集会で対応する。その参院議員の任期が切れて、衆院議員の任期も切れて、選挙で選ばれた国会議員が誰もいなくなった状態になったときに最後どうするのかという話が出てくる」と指摘した。

以下、番組での主なやりとり。

梅津弥英子キャスター(フジテレビアナウンサー):
ロシアがウクライナを侵攻したことで、日本でも緊急事態時の国会の在り方についての議論が活発化している。

松山俊行キャスター(フジテレビ政治部長・解説委員):
新藤さんは衆院憲法審査会で与党筆頭幹事を務めている。一部野党との意見の隔たりがある。与党でも公明党は、衆院は議員任期延長を重視し、参院は緊急集会を重視しており、衆参で温度差がある。どうコンセンサスを得ていく考えか。

新藤義孝氏(自民党政調会長代行):
昨年から230人が緊急事態条項に関して発言し、討議を繰り返してきた。憲法学者も招いて意見を聞いた。結果、整理できたこととして、日本国憲法には選挙が実施できなくなってしまうような緊急事態、いわゆる有事という概念がない。参議院の緊急集会は衆議院が解散中に、もし何か緊急のことがあった場合に(内閣の求めで)開かれ、参議院一院で決めることができる。40日以内に衆院選が行われ、30日以内に国会が召集されるが、その衆院選が行われることを前提にしている。そして国会召集後10日以内に新しく選ばれた議員からなる衆議院が承認をしなければ確定しない。あくまで暫定的、一時的なもので、「緊急」という名称がついているが、あくまで平時の制度だ。選挙ができなくなるような究極の事態を望んでいないし、簡単に起きるとは思わないが、選挙ができず民主的基盤がなくなってしまった、国会議員がいなくなった状態で、国家権力が勝手に動くようなことはあってはならない。そのため、そういう事態に限って議員の任期を延長する。そして二院制をできる限り維持することが必要だというのが、今回のわれわれの論点整理だ。

松山キャスター:
立憲民主党は衆院議員任期延長よりも、まずは参院の緊急集会で対応すべきだとの考えだと思うが。

長妻昭氏(立憲民主党政調会長):
こういう(与党などが主張する)憲法改正をすると、恣意的に議員任期を延長することも可能だ。それを決めるのは多数決だから。解散で失職した衆院議員の身分を戻すという案も出ていて非常に恣意的になる。任期を延長した場合も、では、いつ終わりにするのか。これも選挙が有利か不利かで恣意的になる危険性がある。われわれ立憲民主党は、党名にもあるように立憲主義だ。憲法の最大の役割は、国が暴走しないように国を縛っていくことだ。この縛りを大幅に緩めて恣意的にしてしまうのはおかしいのではないか。日本国憲法には、緊急集会という緊急事態に対応した知恵がすでに入っている。(衆院解散から国会召集までの)70日間しかできないと言う人もいるが、憲法審査会で呼んだ憲法学の権威の学者は、いやいや70日超えてもできると言っている。例えば、アメリカをはじめいくつかの国では、任期延長の憲法の規定はない。仮に暫時総選挙ができなければ、できる地域からやっていく。総選挙は同じ日にやるだけでなく、延期の手続きも法律であるので、そういう知恵を使ってやっていかないと。(国が)暴走する危険が非常に大きいと危惧している。

新藤氏:
長妻さんは立憲主義に矛盾した話をされている。問題は、議員が選ばれなくなってしまったときにどうするのだという話だ。その大学の先生は特別にできるところから選挙をやって、どんどん選べばいいではないかと言った。3分の1の議員が選ばれれば、定数は確保されるので衆議院は構成されるよと言うが、被災地でまったく選挙ができないこともある。全国民の代表である国会が、順番に選ばれた限定的な一部地域の衆院議員しかいないのに国を運営していいのか。国会が解散して、その段階で緊急事態が発生したとする。解散した時点で衆院議員はみな身分を失っているから、内閣は参院議員を除いて首相、閣僚に任命されているというだけの人となる。選挙をやれるところからやればいいではないかという説は、では、その中から首相や閣僚を選ぶということか。とてつもない矛盾をはらんでいる。民主的な基盤がないまま無理やりやれというのか。もう一回言うが、緊急集会という参議院の特例は、あくまで選挙が予定されている段階の空白期間における措置でしかない。有事という概念は日本国憲法には一切ないし、参議院の緊急集会は有事を想定していない。米国には国家緊急権があって、これは規定がない代わりに何でもありだ。日本は立憲主義に基づいて、まさかの時のことをきちんとやらないと不法・無法状態になってしまう。

長妻氏:
日本では、予備費の仕組みや緊急集会はまさかの時の規定だ。新藤さんの見解とは違う。恣意的になるリスクは非常に大きい。例えば、菅義偉首相は選挙をやらずに退陣した。あの時は任期満了が迫っていて選挙をせざるを得ない、では、顔を替えようということだったと思う。しかし、あの時にもし、憲法にこの(衆院議員任期延長の)条項が入っていたら、新型コロナまん延を理由に、任期延長をしかねなかったと思う。非常に恣意的になってしまうリスクをいかに防ぐのか。緊急集会はきちんと機能するという学者の話もある。そのあたりを十分加味してこれから議論をしていきたい。

橋下徹氏(番組コメンテーター、弁護士、元大阪府知事):
今の憲法の規定で参議院の緊急集会を(衆院議員を選ぶことができないまま)70日以降もやると言ったら、それも恣意的だ。この議論では、憲法改正派は議員任期延長を主張して、憲法改正反対派は緊急集会でやれと言っているように感じる。僕は緊急集会派だ。ただし、緊急集会も、いまの憲法の規定をきちんと変えてやる。議員任期延長派の人は二院制が重要だと言う。でも、二院制の前提は、選挙で選ばれた国会議員による二院制だ。ロシアや中国と、われわれの国の決定的な違いは、権力をきちんと選挙で基礎づけること。それがわれわれの国の基本だ。任期が切れて選挙をふまえていなければ、新藤さんや長妻さんと僕は何の変わりもない。

新藤氏:
その通りだ。

橋下氏:
選挙で選ばれているから、新藤さん、長妻さんと僕には決定的な違いがある。もし、選挙で選ばれていない衆議院の人たちを勝手に任期延長で権力の中に入れるというのなら、別に新藤さん、長妻さん、衆議院の人でなくても、コメンテーターでも学者でも誰でもよくなってしまう。だから、憲法改正によって、議員の任期がきちんとある、選挙で選ばれた正統性のある参議院議員(の緊急集会)によって、まずはしっかり対処してもらう。どうしてもその参議院議員の任期も切れてしまって、衆議院の議員の任期も切れてしまって、選挙で選ばれた国会議員が誰もいなくなったっという状態になったときに、最後、どうするのという話が出てくるのならわかるが、選挙で選ばれていないのに、衆議院だけ議員の任期をいまいきなり延長するというのは、それはちょっと厚かましすぎると思う。

新藤氏:
その大前提の選挙ができない時にどうするかという議論をしている。選挙ができる時に任期の延長は必要ない。普通に衆議院を解散し、その解散中に何か問題があれば、参議院の緊急集会をやればいい。

橋下氏:
選挙ができなくても、そこには選挙で選ばれて、まだ任期がある参議院議員がいるではないか。緊急状態なわけだから、今の憲法を改正しないといけない。(緊急集会を)70日以上やるというのは憲法の曲解だ。ここは憲法改正賛成・反対にとらわれずに、きちんと憲法を整えて、任期のある参議院議員がいるのであれば参議院(の緊急集会)でまずやってもらう。その人たちの任期が切れてから、次、衆議院の任期の話になるのだと思う。

新藤氏:
もし、そういう考えなら、それを憲法改正(議論)の中で提案されたらどうか。

橋下氏:
僕は国会議員ではない。

新藤氏:
皆さんで、そういう考えがあるならばやればいい。だけど、わが国の二院制、衆参同時開会の原則、これらを全部やめて、参議院によって首班指名もできる、本予算も決定できる。それが一院の、もしかしたら限定的な参議院も半分になっているかもしれない。衆院議員は一切いない。その段階でそこに居る限定的な人だけで国家を運営していいということの方が国の安定性が取れると思うのであれば、それは議論すればいい。

橋下氏:
それは衆議院の憲法審査会で衆院議員だけで議論しているから、そういう話になる。これはもちろん衆議院と参議院の憲法審査会が合同で議論すべき話だ。            

新藤氏:
日本国憲法で緊急事態にどう国会機能を維持するかということなので、衆参合わせて議論しなくてはならない。当然、衆議院と参議院が意見を交換しながら、最終的には衆参の国会の意見にしなければならない。

橋下氏:
二院制が重要だというのはわかるが、二院制の重要性よりも選挙で選ばれた任期ということがないと、権力は基礎づけられない。

長妻氏:
新藤さんの言うこともわかる。ただ、国が権力を乱用しないできちんと任期延長の終わりを適切に定義することがきちんと担保されるのかというと、結局は多数決になるのでやはり権力側が恣意的になる危険性がある。そういうことを謙虚に受け止めて、だから参議院と衆議院で今いま意見が違う。与党の中でも違う。学者の間でも賛否両論、いろんな定義がある。拙速に進めるのではなく、もう少しきちんと議論して、憲法の中の立憲主義、国の暴走に歯止めをかけるということについて、もっと深く議論をしてもらいたい。

橋下氏:
解散で衆院議員の身分がなくなり、閣僚の身分だけなら国民は一時的なものとして納得する。しかし、最大の危険性は、任期を延長した衆院議員が首班指名をすることだ。選挙も踏まえていない首相が「俺はこの衆議院から指名を受けたんだ」などと、より堂々としてしまうのが怖い。

新藤氏:
それはあり得ない。そういうことがないようなルールにしようということだ。こういう概念がまったくない中で議論しているから混乱してしまう。究極の事態の話で、できる限り素早く選挙はやる、常に選挙をやる、これが大前提だ。それでも、どうにもならないときにどうするか。東日本大震災のときは、どうしても地方統一選で県議、市議は選挙ができなかったではないか。あれが国政選挙の時だとしたら。

橋下氏:
でも、参議院いるではないか。

新藤氏:
二院制だ。

橋下氏:
二院制でも、選ばれた参院議員がいる。

松山キャスター:
二院制の重要性をどこまでみるかということでもさまざまな意見がある。

日曜報道THE PRIME
日曜報道THE PRIME

今動いているニュースの「当事者」と、橋下徹がスタジオ生議論!「当事者の考え」が分かる!数々のコトバが「議論」を生み出す!特に「医療」「経済」「外交・安全保障」を番組「主要3テーマ」に据え、当事者との「議論」を通じて、日本の今を変えていく。
フジテレビ報道局が制作する日曜朝のニュース番組。毎週・日曜日あさ7時30分より放送中。今動いているニュースの「当事者」と、橋下徹がスタジオ生議論。