2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になると言われている。こういった流れの中で、国会では14日に「認知症基本法」が成立した。また22日の発表で、認知症で行方不明になっている方が2022年に1万8709 人となり、これは過去最多だということだ。

「認知症世界の歩き方」筧裕介さんに聞く“認知症”と向き合うポイント

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認知症とどのように関わっていけばいいのか。これまで100人を超える認知症当事者に話を聞いて、暮らしやすい環境のデザインを提案している筧裕介さんに聞いた。

まず「認知症基本法」とは、認知症の人が尊厳を保持しつつ、希望を持って暮らすことができるよう、国や自治体が施策を推進することを定めた法律だ。

具体的には、国民の理解を促したり、社会への参加機会の確保、福祉サービスの整備などだ。

筧裕介さん:
今まで認知症の政策というのは、医療であったり、予防や介護といった、ある意味ご本人とは違う視点での政策が進んでいました。ご本人の尊厳であったり、ご本人が希望を持って暮らすことができるようにということが明記されているのは、素晴らしいことではないかと思います

では認知症の方が希望を持って暮らせるようになるには、そして私たちが認知症の方と向き合っていくには、具体的にどうすればいいのか。

「認知症世界を正しく知る」
「本人を置いてけぼりにしない」
「混乱を生まない工夫・デザインを」

が大事であると、筧さんは提言している。

筧裕介さん:
(「認知症の世界」とは)
認知症の方が生きている世界、見えている景色というものが、近くにいるご家族や医療の方、介護をされている方には、実は全く見えていない、伝わっていないということが大きな問題です。いかにご本人がどんな認知機能のトラブルで、どんなことに困っているのかということを、周囲全ての人が理解することがまず一番大切なことではないかなと思います
(「本人を置いてけぼりにしない」とは)
今まで認知症というと、周りのご家族がいかに介護をするか、医師がどう治療するか、介護の専門職がどう対応するかというように、周囲の方が主語で語られていました。そこでやはりご本人がどういう状態なのか、ご本人がどう生きたいのかってことが、置き去りにされていたので、あくまで“ご本人の幸せな暮らし”ということを大切に考えながら、何事もするべきだという話です
(「混乱を生まない工夫・デザイン」とは)
認知症というのは、脳の認知機能のトラブルが起こることによって、生活がしづらくなるんですが、生活のしづらさを生んでいるのは周りの環境であることが大半です。環境を改めることによって、今まで通り電車に乗ることができたり、仕事を続けられたり、料理ができるようになって、そのための工夫やデザインが大切だということです

「認知症の世界」ってどんな世界? 

「認知症の世界」とは、どのような世界なのか?

例えば、「退職したのに会社に出勤しようとしてしまう」「毎日用もないのに商店街へ行く」という、いわゆる“徘徊”と言われる行動がある。

筧さんは認知症当事者の皆さんへの聞き取りを重ねて、なぜそういうことに至るのか、架空の町を使って説明しています。認知症の方は「アルキタイヒルズ」という不思議な街を訪れていて、そこでは懐かしい思い出がよみがえり、心地よい時間にタイムスリップする感覚になる、だからどんどん歩みを進めてしまうという。認知症ではない人は“徘徊”と呼ぶかもしれませんが、認知症の方にとってはタイムスリップされているようなものなのだ。

筧裕介さん:
“徘徊”という言葉は“あてもなく歩き回る”という言葉です。でもよくあるのはご本人が充実していた過去の時に戻っているというのです。例えば仕事をすごく頑張っていた時期に自分の記憶がタイムスリップしていて、朝起きたら必ず会社に行くのは当たり前なんですね。あとちょっと時間の感覚がずれていて、家を出るのが深夜だったりする。家を出てしばらくすると「会社に行く」という当初思っていた意図を忘れてしまうので、「あれ 自分は何で外に出たんだ」と分からなくなってしまう。そして空間感覚のトラブルで、街の中で自宅に戻れなくなって迷ってしまう。そうすると周りからすると、単純にフラフラと理由もなく歩き回ってる人になってしまうので、周囲は“徘徊”と呼んでしまうんですが、ご本人にはある意図があって歩き回っているということです。
(対策として)ご本人はタイムスリップして散歩している状態ですので、その意図をしっかりと理解して、「この人はこういう意図で外出しようとしているんだな」ということさえ寄り添っていれば、ある程度時間が解決して、その状態から抜け出した時には正常な状態というか、落ち着いた状態で戻ってきていただけるということになります。それを頭ごなしに非難してしまったりすると、やはり非常に感情に触れてしまうことになるので、ゆくゆく いろんなトラブルになっていくと。いかにご本人の思いを推測して寄り添うことができるかが一番大切です

認知症の方が見えている世界について、もう少し深くみていく。例えば、認知症の方が食器がしまえないとか、トイレがどこにあるのか分からなくなってしまうことがある。筧さんによると、認知症の方の目の前には、「ホワイトアウト渓谷」という場所が広がっていて、そこではあっという間に濃い霧が広がって、一瞬にして視界や記憶が真っ白になる状況だということだ。

筧裕介さん:
視覚と記憶というのは密接に結びついています。例えば冷蔵庫の中に卵がたくさんあるのに、「ない」と思って買ってきてしまうみたいなことが起こります。これは冷蔵庫が開いているときは卵が見えているので、卵があると認識できます。冷蔵庫が閉まると、視界から卵が消え、卵の存在が消えてしまい、「卵がないから買いに行かなきゃ」という状態になって、買ってしまうということですね

認知機能のトラブルで起こる“生活のしづらさ” デザインや工夫で解決できることも

トイレの問題について、公共のトイレの場合、トイレマークの工夫で認知症の方の霧を晴らすことができると筧さんは言う。トイレであることがハッキリと分かるマークの大きさ・位置・向き・表現で分かりやすく示せば、認知症の方もトイレであることを認識しやすくなるということだ。

自宅のトイレの場合は、ドアを開けっぱなしにすることや、派手な便座カバーで印象付けると認識しやすくなるということだ。

筧裕介さん:
夜に自宅でトイレを失敗してしまうのには、いろんな原因が考えられます。ある方は、自宅のトイレですと外側に「トイレ」とあまり書いてないので、扉が閉まっていたので扉の向こうにトイレがあるってことを認識できなくなってしまい、家の中でずっとトイレを探し回って歩いて、結果的に間に合わず失敗してしまうことがあるということです。
ご本人はトイレができなくなったわけではなく、トイレの場所を見つけることが難しくなってきてるということで、そのトラブルを解決さえすれば、ご本人は外出先でも安心してトイレに行くことはできて、今まで通りの暮らしをすることができることになります

視聴者からこんな質問が届いた。

Q.家族へのケアも課題解決できる可能性はありますか

筧裕介さん:
社会全体で認知症に対して非常に偏見や誤解があって、正しく理解できていないということが一番大きな問題です。その結果、家族はなかなか外の人に言えなかったりしますよね。家族が認知症本人の状態を正しく理解する。周囲の方も正しく理解する。それがご本人と家族の衝突やトラブルを減らすことにつながりますし、周囲の方に助けていただくことにもつながると思います

社会全体で、認知症の当事者やご家族の皆さんを取り残さないような環境を作っていくことが大事になってくる。

(関西テレビ「newsランナー」2023年6月22日放送)

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