子どもは乳児期に親の唾液と接触することで、アレルギー疾患の発症リスクを抑制できるかもしれない。こんな研究結果を、和歌山県立医科大学らの研究グループが発表した。

研究グループは2016~17年にかけて、協力を得た、石川・加賀市、栃木・栃木市の小中学生3570人とその保護者にアンケート調査を実施。アレルギー疾患と生活環境の関連性を探った。

(画像はイメージ)
(画像はイメージ)
この記事の画像(7枚)

そうしたところ、子どもが乳児期(生後12カ月未満)に、親の唾液によるおしゃぶりの洗浄を介した唾液接触、食器の共用による唾液接触をしていると、学齢期(6~15歳)での発症リスクが低下したという。

分析結果の詳細(研究グループのプレスリリースより)
分析結果の詳細(研究グループのプレスリリースより)

統計学的な分析では、おしゃぶりでの唾液接触があると、アトピー性皮膚炎の発症リスクが約65%、アレルギー性鼻炎の発症リスクが約67%低下したほか、食器の共用での唾液接触でも、アトピー性皮膚炎の発症リスクが約48%低下したという。

こうした結果から、唾液接触とアレルギー疾患の発症リスクには関連が見られたとして、アレルギー予防法の開発につながる可能性があるとしている。研究結果は2023年4月、アレルギー科専門ジャーナル「Journal of Allergy and Clinical Immunology Global」に掲載された。

研究の考察・結論(研究グループのプレスリリースより)
研究の考察・結論(研究グループのプレスリリースより)

親の唾液でアレルギーを抑制できるなら興味深いが、なぜ、これらの関連性を調べたのか。虫歯などのリスクとどう向き合えばいいのかも気になるところだ。研究グループの中心で歯科医師でもある、和歌山県立医科大学の久保良美博士研究員に聞いた。

免疫刺激が関係しているのではないか

――唾液接触とアレルギー疾患の発症リスクを研究したのはなぜ?

この研究は、思いがけないきっかけとタイミングで始まりました。重度の小児喘息であった私は、父の影響で歯科医師になってからも、アレルギー予防の研究ができたらと願っていました。

2010年に医学部大学院で、児童と保護者の歯科健康意識調査をさせていただいた時、むし歯に関係する質問として、唾液接触である噛み与え(食べ物を噛んで柔らかくして子どもに与える)と口腔衛生知識の質問を作り、そこに、その調査の目的ではなかったアレルギーの質問を加えていました。分析の結果、口腔衛生知識とアレルギーは相反する傾向が見られ、不思議だなと思っていました。

(画像はイメージ)
(画像はイメージ)

その後、2013年に、スウェーデンで“親の唾液でおしゃぶりを洗浄すると1歳半の時に、小児のアレルギー疾患の発症リスクが低下する”という研究結果を発見し、2010年の調査の時の噛み与えとアレルギー疾患についてのデータを分析してみたところ、乳児期に噛み与えをしていた方が、児童のアトピー性皮膚炎が少なくなる傾向が分かりました。

2015年に、それを見られたハーバード大学医学部の教授から、日本で、更に唾液接触とアレルギーについて、大規模な調査の必要性のアドバイスをいただいたことがきっかけです。

免疫刺激が関係か(研究グループのプレスリリースより)
免疫刺激が関係か(研究グループのプレスリリースより)

――唾液接触がリスクを低下させるかもしれないのはどうして?

これからの研究になりますが、口腔細菌による免疫刺激が関係しているのではないかと思います。人間の免疫システムは生まれた時は未熟で、赤ちゃんの頃から、菌に触れつつ、成熟すると言います。乳児期に、唾液を通じて口腔内の菌に触れることで、免疫の成熟が促され、アレルギー発症リスクが低下する可能性が考えられます。


――結局、唾液接触はさせたほうがいいの?

現時点では、短絡的な推奨はしていません。アレルギー予防と虫歯予防、ピロリ菌などの感染症予防を両立させるために、唾液接触のタイミングや口腔内細菌と免疫について、さらなる研究が必要です。

虫歯予防のためには、生後19~31カ月は避けるべき

――仮に接触させるなら、唾液はどんな状態がいいの?

これからの研究になりますが、歯科的な観点ですと、保護者様の口腔内の状態が健全であることが望ましく、ピロリ菌などの感染症のリスクがある場合は避けるべきであると考えます。


――時期やタイミングはどうすればいい?

こちらも、これからの研究になりますが、今回の研究は、免疫システムの未熟な生後12カ月未満の唾液接触を調べており、その中で、どのタイミングが良いかさらに研究していく予定です。

生後19~31カ月での接触は避けるべき(画像はイメージ)
生後19~31カ月での接触は避けるべき(画像はイメージ)

――唾液による、虫歯のリスクはどう考える?

虫歯はミュータンス菌(虫歯菌)が主な原因ですが、菌の感染や定着は生後19~31カ月の時期に集中すると言われています。この時期は避けるべきです。最初の乳歯が生える時期は、生後6カ月ごろであるため、それ以前であれば、むし歯のリスクは少ないのではと予測しています。

アレルギーの連鎖を予防できるかも

――今回の研究はどんなことに活用できそう?

アレルギー症状がある子どもは“アレルギーマーチ”と言って、成長と共に違ったアレルギー症状が出る・併発することもあります。アトピー性皮膚炎は小さな頃から発症しやすいので、乳児期の唾液接触で予防できるなら、連鎖のように起きる、アレルギーの予防にもつながる可能性があります。


――唾液とアレルギーに関連した、今後の目標は?

今回の結果をもとに、今後、妊娠期、乳児期からの親子の口腔内細菌叢、腸内細菌叢と免疫システムに焦点をあて、これらの小児アレルギー発症リスク低減のメカニズムを解明し、安全で効果的な小児アレルギー疾患発症予防法の開発につなげていきたいと考えています。



唾液の状態や接触のタイミングは今後の課題で、現時点では唾液接触を推奨しているわけではないことに注意が必要だ。口腔内細菌叢とアレルギーの関係性のこれからの研究を注視したい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。