「金沢を日本イチのコーヒーの街に」。2023年5月に石川県金沢市で開催された、「金澤コーヒーフェスティバル2023」で掲げられた目標だ。夢のような目標だが、イベントの熱気を肌で感じると、まんざら現実離れした話ではないかもしれないと思えた。コーヒーの祭典は金沢の街にどのような余韻を残しただろうか。

コーヒー好きが憧れるロースタリーカフェが金沢に集結

「金澤コーヒーフェスティバル」は5月27日と28日の2日間、金沢駅にあるもてなしドーム地下広場で開かれた。豆の焙煎から手がけるロースタリーカフェ10店舗が東京や京都、熊本など全国から集結した。どの店もコーヒー好きにとっては一度は訪れたい名店だ。開場とともにコーヒー好きが大勢押し寄せ、2日間で合わせて約5000人が来場した。

この記事の画像(11枚)

金澤コーヒーフェスティバル実行委員会 山本史弥さん:
みんな待ち望んでくれていたんだと思いました。日本のトップの店が集まってくれて、彼らががっかりして帰ったらどうしようとプレッシャーを感じていたので、本当にほっとした。

山本史弥さん
山本史弥さん

近年、“コーヒーフェスティバル”という名前を冠するイベントは全国各地で数多く開催されている。コーヒーの“サードウェーブ”で注目され、コーヒーならではの酸味を味わえることから人気となった、浅煎りコーヒーが主に提供され、来場者は様々な店を回って飲み比べを楽しむことができる。

しかし金澤コーヒーフェスティバルの魅力はそれだけに留まらなかった。

ドリップコーヒーの腕前ナンバーワンを決める大会

会場奥に設置されたステージで始まったのはドリップの腕前を競うトーナメント大会だ。超人気店のバリスタから熱狂的なコーヒー愛好家まで県内外から18人が参加した。指定されたコーヒー豆と水、ペーパーフィルターを使用し、各々が用意した抽出器具で、制限時間内にコーヒーを抽出する。3人の審査員が、豆が持つ魅力をより引き出せた一杯を選ぶ。

大勢の前で行われた大会
大勢の前で行われた大会

大会の光景はとても新鮮だった。一杯のコーヒーを抽出するというゴールは同じだが、人によって使用する器具も抽出方法も結構、違う。中には通常雑味の原因とされるため取り除かれるコーヒー豆の微粉を取り分けておいて後から追加するというトリッキーな方法も披露された。ステージ前には多くの観客が集まり、和やかな雰囲気ながらも出場者の一挙手一投足に熱い視線が送られた。 

3人の審査員がジャッジ
3人の審査員がジャッジ

山本さん:
大会への出場が決まるとバリスタは自分の抽出方法を改めて考え直すことになるので、スキルアップにつながります。人前で淹れることになるので手を抜くことはできないわけです。

バリスタの高い技量を間近で見て刺激を受けた人もいた。

金沢市内のカフェ店員 田中理菜さん:
この日のためにレシピを考えて臨んでいるんだなと思って見ていました。コーヒーを淹れる姿がかっこよくて、いつか私も大会に出てみたいです。

田中理菜さん
田中理菜さん

「コーヒーの2050年問題」を啓発する試みも

このまま地球温暖化が進めば高品質なコーヒーの実をつけるアラビカ種の産地が、2050年には半減すると予測されている。この問題を知ってもらおうと、イベントでは様々な取り組みが行われた。

金沢工業大学の宮下研究室が製作したテーブル
金沢工業大学の宮下研究室が製作したテーブル

中でも好評だったのが、金沢工業大学の研究室で製作された特注のテーブルだ。実行委員会から研究室に注文されたのは「釘やネジを使わない」「簡単に組み立て、解体ができる」「何度も使える」という条件。学生たちは試行錯誤の末、会場の柱にピッタリとハマり環境にも配慮した木製のテーブルを完成させた。

さらに学生たちは一目見てカップの量が分かるごみ箱も製作した。

金沢が“コーヒーの街”と呼ばれる未来

コーヒーフェスティバルの発起人である山本さんは、2018年から1年半、カフェの街として世界的に知られるオーストラリアのメルボルンで腕を磨き、バリスタの腕を競う大会で優勝を果たした。2020年に金沢市内でロースタリーカフェ「Nonstop Coffee Stand & Roastery」を開いたが、オープン当初から「金沢をコーヒーの街にしたい」と話していた。

山本さん:
首都でもないメルボルンがカフェの街と言われるまでになったのだから、金沢もイケるでしょうと思っています。コーヒーを楽しんで飲んでくれる人たちがもっと増えてほしい。

「Nonstop Coffee Stand & Roastery」(金沢市東山2丁目)
「Nonstop Coffee Stand & Roastery」(金沢市東山2丁目)

大盛況に終わった金澤コーヒーフェスティバルであったが、特に初日は列が長すぎて1杯のコーヒーに2時間以上の待ち時間が発生する時間帯もあった。しかしそれは一杯一杯を丁寧にハンドドリップするからこそ起きる事態とも言える。多少の待ち時間を含めてコーヒーの新たな文化が金沢でどこまで浸透するのか、可能性は未知数だ。

(石川テレビ)

石川テレビ
石川テレビ

石川の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。