“不朽の名作”が配信停止 各界で表現、慣習を見直す動き

白人警察官による黒人男性暴行死事件に端を発した人種差別撤廃を求める動きは今、芸能、ビジネス、スポーツ、生活など多岐にわたる分野に及んでいる。人種差別を連想させる表現、偏見に根ざす慣習を見直そうという動きが広がっているのだ。

典型的な例が「風とともに去りぬ」だ。動画ストリーミングサービス「HBO Max」は、1939年に公開され、第12回アカデミー賞で作品賞など9部門を受賞したヒット作「風と共に去りぬ」の配信を取りやめた。南北戦争時代の南部の白人の視点で描かれた同作は、これまでも「人種差別的だ」として強い批判の対象となってきたからだ。

映画史に残る“不朽の名作”と呼ばれてきた作品であっても、時流に合わないと見なされた。

街中に設置されている「Black Lives Matter.(黒人の命は大切だ)」の看板

そんな中、日本では、NHKが国際ニュース番組で抗議デモの背景などを説明する際、黒人への偏見を助長しかねないアニメを放送し、公式ツイッターに投稿した。動画を見た時、なんともやりきれない気持ちに襲われた。いくら地球の裏側での出来事といえど、時流に合わない動画が制作されたと感じた。人種差別撤廃に向けて、教育こそが重要だと言われている中でである。

動画については、ヤング駐日米臨時代理大使が「もっと多くの考察と注意が払われるべきだった。侮辱的で無神経だ」とツイッターで批判する異例の事態に発展、NHK側が動画を削除し謝罪するに至った。

動画を見たアメリカ人からも「これは戦前の帝国主義の名残なのか?」と強烈な批判を投げかけられた。この見解への賛否はさておき、人種差別問題は対岸の火事ではない。世界の潮流に取り残されないよう、正しい認識を身につけなければならない。そこで、アメリカの最新の動きをいくつか紹介したい。

「恥じている…」超人気バンドが改名 130年続く食品ブランドも廃止

アメリカの人気カントリーグループ「レディ・アンテベラム」は、バンド名が奴隷制度を連想させるとして「レディA」に改名することを発表した。同バンドは、2006年、南部テネシー州ナシュビルで結成したトリオで、2011年にはグラミー賞で最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞などを受賞した実力派だ。

改名発表した「Lady A」のHP

「アンテベラム」は元来、英語で「南北戦争前の」という意味。南北戦争(1861~1865年)では、奴隷制度存続を掲げた南部の州と廃止を求めた北部の州が戦い、北軍が勝利した。南部は、カントリー・ミュージック発祥の地とされ、南部人の気質は、今も「Southern Hospitality(南部のおもてなしの心)」と呼ばれ、アメリカの古き良き郷愁が息づいている。しかし、「アンテベラム」には、南北戦争前を懐かしむ響きがあることから、奴隷制度を含む文化を美化することになる、というものだ。

グループは、名前の由来について「初めて写真撮影をした場所が南部風の建物だったことにちなんだ」と説明した上で、「この言葉が、奴隷制を含む歴史を指すことに思いが至らず、悔やみ、恥じている。不安や孤独を感じている人々を傷つけることになり、申し訳なく思う」と謝罪した。

影響は大手企業にも及んでいる。

ペプシコ傘下の食品会社「クエーカー・オーツ」は、130年以上続くパンケーキ製品のブランド「Aunt Jemima(ジェマイマおばさん)」を廃止すると発表した。製品のパッケージには、にこやかに微笑む黒人女性のイラストが描かれているが、黒人女性が白人の家庭で使用人や乳母として働いていたことを連想させるとして、批判が集まっていた。

同社は「人種的な固定観念が根底にあった」として、名称やデザインの変更を決定した。

スーパーに並ぶ「Aunt Jemima(ジェマイマおばさん)」の製品

また、医薬品大手「ジョンソン・エンド・ジョンソン」は、多様な肌の色を反映するため、絆創膏ブランド「バンドエイド」に新色を取り入れることを発表した。新色は、黒や茶色になじむ複数のバリエーションとなる。同社は声明で、「目に見える変化をもたらすため、行動をとることを約束する」と表明した

これに対し、「あまりに遅すぎる」との批判が上がる一方、「夢がかなった」「何もしないよりはましだ」などと歓迎の声も寄せられている。

茶色でも明るさを選べる展開となる

IT業界では「ブラックリスト」「ホワイトリスト」が使用禁止

一方、IT業界では、「ブラックリスト」「ホワイトリスト」という用語が差別的だと指摘されている。

「ブラックリスト」とは、特定のユーザーや言葉を拒否するリスト、「ホワイトリスト」とは、逆に許可するリストを指す。なぜこの用語が差別的かと言えば、「ブラック(黒)」という色が、否定的な意味合いに使われることが「人種差別を正当化することになるから」というものだ。

今回の抗議運動を受け、グーグルの技術者は、モバイル端末向け基本ソフト「アンドロイド」の開発プロジェクトで「ブラックリスト」「ホワイトリスト」という用語の使用をやめ、「ブロックリスト」「許可リスト」に言い換えると明らかにした。

また、マイクロソフト傘下の「GitHub」は、奴隷制度を連想させる「マスター(主人)」「スレイブ(奴隷)」といったプログラミングの専門用語を排除する取り組みを進めているという。

ワシントン市長が地元アメフトチームの改名を要求

同様の動きは、全米一の人気を誇るスポーツ、アメフト界にも及んでいる。

首都ワシントンのバウザー市長は、NFL所属の地元アメフトチーム「ワシントン・レッドスキンズ」について、「多くの人々を傷つけてきたチーム名に、ついに対処する時がきた」と発言した。レッドスキンズのチーム名は、アメリカ先住民、ネイティブアメリカンを表す言葉。チームのロゴにも先住民のイラストが描かれていて、長年にわたって差別的だとの批判が集まっている。しかし、チーム側は、現在のところ、名称変更などの対策を発表していない。

論争が続いている「レッドスキンズ」のロゴ

「そこまでやらなくても…」「極論だ」という意見もあるかもしれない。しかし、世界ではこれほどまでに議論が活発化しているし、解決を先送りにするだけの論理はもはや通用しない。一人一人が自分の身に置き換え、人種差別問題に真摯に向き合うべき時が来ていると思う。

【執筆:FNNワシントン支局 瀬島隆太郎】