フランスの大統領府「エリゼ宮」の元チーフパティシエが4月にチョコレート専門店をオープン。お店のシンボルはかわいいウサギ。今回特別に、店内奥のアトリエで新作が生まれる瞬間にも立ち会うことができた。その新作をいち早く紹介する。

“世界一”のパティシエが独立

クリステル・ブリュアさんは三つ星レストラン「プレ・カトラン」でチーフパティシエを務め、2018年には女性として初めて“世界のベスト・レストラン・パティシエ”の栄誉に輝いた。さらに、2022年秋までエリゼ宮のチーフパティシエとして活躍。フランスのお菓子業界で知らない人はいないほどの有名人だ。

「マダム カカオ」のオーナーパティシエ クリステル・ブリュアさん
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そのクリステルさんが念願だった自分のお店「マダム・カカオ」(「MADAME CACAO」)をオープンしたのは2023年4月。当初「マダム・ショコラ」と名付けようと考えていたところ、独立の後押しをしてくれたマクロン大統領の夫人ブリジットさんが「チョコレート」のことを「カカオ」と言うのを聞いて、「響きがいいな」と思い、この名前にしたのだとか。ブリジットさんは、実際に試食もするほどクリステルさんを応援している。

筆者が個人的な旅行中にアポなしで店を訪れ、「日本のネットニュース用に記事を書きたいので店内の写真を撮らせてもらえますか?」と店員さんにお願いしたところ、なんと登場したのはクリステルさんその人!「ボンジュール!」と気さくに出迎えてくれた。

クリステルさんはずっと前から「お客さんに子供の頃を思い出してもらえるような、高齢の方からお子さんまでみんなが気軽に足を運んで、喜んでくれるお店を作りたい」と考えていたそうだ。

店の奥まで見通せる作りの「マダム カカオ」(MADAME CACAO)
店の奥まで見通せる作りの「マダム カカオ」(MADAME CACAO)

その心は店構えにも反映されている。店の奥まで見通せる大きなガラス窓に石畳のパリの街にひときわ目立つきれいなイエローの店構え。どんなお客さんも歓迎する印象を与えている。

シンボルのウサギは「ルシアン」

お店のシンボルはウサギ。「フランスでは子供が最初に仲良しになる動物がウサギなのよ」とクリステルさん。

お店のシンボル ウサギの名前は息子さんの名前をとって「ルシアン」
お店のシンボル ウサギの名前は息子さんの名前をとって「ルシアン」

ウサギの名前は「ルシアン」。クリステルさんの息子さんの名前だ。ルシアンさんは、10歳ながらお店を手伝っている。お店にいたルシアンさん本人に写真を撮っていいかたずねると、チョコウサギを並べてアングルまで指定(これがセンスある!)、にこやかに映ってくれた。

新作チョコはこうして生まれる!

こんな気さくな雰囲気のなかでおしゃべりをしていたら、「新作を作るから見て行ったら?」というありがたいお誘い。「天才パティシエがチョコレートを作る現場を見られるなんて!」と心躍るなか、奥のアトリエにお邪魔すると・・・

奥のアトリエで新作チョコ作りを拝見
奥のアトリエで新作チョコ作りを拝見

こじんまりとした空間で、10歳のルシアン君が真剣な表情で機械に向かっていた。この日作っていたのは、クリステルさんが前の晩に思いついた「アマゾニー」というボンボン。中に詰め物が入った一口サイズのチョコレートだ。

クリステルさんは原材料にもこだわっていて、新作用のカカオを自らエクアドルに出向いて仕入れている。「自分の目で確かめたものでないとね」と見せてくれたのがラグビーボールのような形をしたカカオの樹の果実。

自ら現地に行って仕入れたカカオ
自ら現地に行って仕入れたカカオ

中の粒状のものがチョコレートの原料になるカカオ豆。「食べてみない?」と促され、試食させてもらうと、豆を覆う膜は果実らしい酸っぱさがあった。

ショップの店員さんにも「これがカカオよ」とレクチャー
ショップの店員さんにも「これがカカオよ」とレクチャー

クリステルさんは店のスタッフにも「これが原材料のカカオなのよ」と産地やカカオの樹の種類、栽培する土地の土壌・気候などによって違いがあることを説明。スタッフも筆者同様にカカオを見るのは初めてだったので「これがチョコレートの元なんですか?」とびっくりしていた。

一方でルシアンくんは先輩パティシエに繊細なチョコレートの作り方の手ほどきを受けていた。三つ星レストラン時代からずっとお母さんの姿を見てきただけに、早くも「自分も技を磨きたい!」という積極的な姿勢が印象的だった。

ボンボン作りはまずは中の柔らかい部分を作って、乾かし、その後コーティングをして仕上げだ。

「どんな飾りにしようかしら?」「この間黄色を使ったから、今度はグリーンにしてみる?」その場のひらめきで、新作ができるなんてちょっとした驚きだ。

クリステルさん自ら丁寧に、四角いチョコレートひとつひとつにグリーンのラインを引いていく。

 
 

そしてできあがったのが、新作の「アマゾニー」!

新作「アマゾニー」
新作「アマゾニー」

実はこういう新作は惜しげもなく、詰め合わせボックスにさりげなく入っている。この「さりげなさ」に非常に贅沢な感覚を覚えるのは筆者だけだろうか。

ウサギに新作ボンボン、お土産の宝庫

旅に出ると考えるのが家族や友人へのお土産。「マダム・カカオ」ではお店のシンボルであるウサギが4つ入ったかわいい袋詰めを発見した!

お店のシンボルのウサギが4匹!
お店のシンボルのウサギが4匹!

中はプラリネ味のチョコとローストされたお米のクリスピー。「この日本の玄米茶を使っているのよ」と見せてくれた。カカオだけでなく、チョコレートに入れ込む素材にもこだわっていいる。

チョコの中にもクリステルさんこだわりの日本の玄米茶が!
チョコの中にもクリステルさんこだわりの日本の玄米茶が!

袋入りのウサギチョコを形を崩さずにうまく持ち帰る自信のない方には、同じ組み合わせの板チョコもある。

その他にもミルク、ブラック、ホワイトはもちろん、アーモンド入り、ヘーゼルナッツ入り、ドライフルーツ入り、ローストピーナッツ入りなど、様々な種類の板チョコがショップカラーのイエローの濃淡で違いを出したきれいな箱に入って並んでいる。

板チョコのディスプレーがまたきれい!
板チョコのディスプレーがまたきれい!

試食させてくれるので味を確かめられるが、中身で選ぶのもよし、箱の色で選ぶのもよし、とにかく目移りしてしまう品揃えだ。「MADAME CACAO」と書かれたロゴ面もまた美しい。

どの味にしようか、どの箱にしようか、迷いに迷ってしまう
どの味にしようか、どの箱にしようか、迷いに迷ってしまう
 
板チョコの裏のロゴ面が素敵
板チョコの裏のロゴ面が素敵

ちょっと豪華なお土産を探している人には、オレンジ色の箱に入ったチョコレートの詰め合わせがオススメだ。天才パティシエ・クリステルさんのアイデアが凝縮された一品になっている。

さらに、チョコレートで花びらなどを表現したヒマワリやスズランはもはや「芸術作品」。黄色や赤色のラインがほどこされた大きめのウサギには、遊び心をくすぐられる。

「私は現代アートが大好きなので、いろいろ作ってみたいのよ。かわいいものも大好き」というクリステルさん。チョコボンボン同様に、ウサギもどんどん新しいデザインが生まれるようだ。

奥のアトリエのチョコレート製造機の脇にはフランスの有名ポップアーティストであるリシャール・オルリンスキーさんの作品が無造作に置いてあり、クリステルさんにとってアートが日常であることを証明している。

チョコレート製造機械の隣には有名アーティストの作品が
チョコレート製造機械の隣には有名アーティストの作品が

「パティシエは自分の店にいないとね」というクリステルさんは“世界一”とか“エリゼ宮”といった名声におごることのない、本当に心からお客さんとの絆を大事にするパティシエだった。

とにかくアットホーム
とにかくアットホーム

チョコレートはもちろん絶品だが、それ以上にとにかく居心地のいいお店で、みなさんもパリを訪れたときに足を運べば、きっと楽しいひとときが過ごせるに違いない。

勝川英子
勝川英子

フジテレビ国際局海外広報担当。
報道時代にパリ支局長を経験。
2016年にフランスの国家功労勲章を受章。
2003年からフランス国際観光アドバイザー。
幼少期を過ごしたフランスをこよなく愛し、”日本とフランスの懸け橋になる”が夢。