日本人の2人に1人ががんに罹患すると言われる中、治療をしながら社会生活を送る人が増えている。

治療によって起こる外見の変化をサポートする「アピアランスケア」の重要性は増していて、自治体も支援に乗り出している。

37歳で乳がんをり患…不安抱いた日々

新潟県加茂市に住む塚田真紀さんは、2012年にがんと診断された時のことを振り返った。

塚田真紀さん:
「がん」だと言われた瞬間、動けなくて頭が回らなくて泣いてばかりいて…。家に閉じこもってばかりいた

塚田真紀さん
塚田真紀さん
この記事の画像(18枚)

長男が中学に入学した直後の37歳のときに乳がんを患い、摘出手術を受けた塚田さん。「外に出たくない」という気持ちを変えるきっかけとなったのは、職場復帰だった。

37歳のとき乳がんに
37歳のとき乳がんに

塚田真紀さん:
会社の経営者の方が「籍は残しておくから、体調が良くなってきたら戻っておいで。できる仕事があるから」と言ってくれて、仕事に戻ることを決めた

仕事に復帰する日、塚田さんの心には「ちゃんとやれるだろうか、体力的には大丈夫だろうか」という不安がよぎったという。

そして、もう一つ心配に思っていたのは…。

塚田真紀さん:
そのとき髪の毛がなかったので、そこは大丈夫かな…とか。ウイッグと入れる胸を用意して仕事に行った

抗がん剤治療の影響でまばらになっていた髪。全て摘出した左の乳房。

ウイッグを使用していた塚田さん
ウイッグを使用していた塚田さん

塚田さんは、ウイッグや皮膚の上に取り付ける人工乳房を用意し、仕事に向かった。

外見の変化をサポート アピアランスケア

医療の進歩により、近年、主ながんの入院日数が短くなる一方、外来の患者数は増加。通院しながら治療を受ける人が増えている。

治療と社会生活の両立を叶えるための選択肢の一つが、治療により生じた外見の変化をサポートする「アピアランスケア」だ。

県立がんセンター新潟病院 看護師 泉瑠美さん:
アピアランスの意味は「外見」。治療前の外見に戻るのが目的ではなく、今の姿で社会生活を引け目なく生活していくことが大切

抗がん剤治療によって起こる脱毛や、手術によって生じる体の変化などを補ったりケアしたりすることで、患者の身体的・心理的苦痛を軽減する。

県立がんセンター新潟病院 看護師 泉瑠美さん:
抗がん剤による副作用のほか、乳がんの場合は乳房切除というボディーイメージの変化も大きい。治療が進んで治療方法も増えているが、その分「アピアランスケア」が重要になってくると思う

懸念される経済的不安 自治体から助成も

一方で、治療費に加え、外見を整える道具を揃えることは、患者の経済的な負担となる。

塚田真紀さん:
抗がん剤治療をしているときは、高額療養費制度を使う感じだった。ウイッグとか人工乳房とか、外見に関わるものは、「もっと安くできたらいいのにな…」という思いは当時からあった

「アピアランスケア」にかかる経済的負担について、新潟県内の自治体が支援に動き出している。2022年、いち早く助成制度を設立したのは長岡市だ。

長岡市保健医療課 植村裕 課長:
がんを経験した人から市に手紙をもらった。がん患者がウイッグ・補正具を着けて前向きに治療に取り組めるように、補助制度をつくってほしいという要望だった

がん経験者から届いた要望の手紙
がん経験者から届いた要望の手紙

長岡市では2022年度、医療用ウイッグ・補整下着・人工乳房などに対して、最大2万円を助成する制度を新設。176件の申請を受け付けた。

2023年度は、柏崎市・加茂市・燕市が4月に助成制度を開始し、新潟市は7月から申請の受付をスタートさせる。

新潟市 中原八一 市長:
闘病している方々を少しでも励ましたい。社会参加がもう一度できる新潟市でありたいと思っている

今回、各自治体の助成対象の一つとなっているのが、乳がんで乳房を切除した人が皮膚の上から取り付ける「人工乳房」だ。

失った乳房を再現 そのまま温泉にも

新潟市西区で歯科技工所「協栄デンタル」を経営する帆苅きいさんは、2013年から人工乳房の制作に取り組んでいる。

協栄デンタル 帆苅きいさん
協栄デンタル 帆苅きいさん

自身も49歳のときに乳がんを患い、患者同士の交流の中で人工乳房の重要性を感じていた。

人工乳房の材料となるのは、歯の詰め物などの制作に使う石膏やシリコンだ。

人工乳房
人工乳房

「歯科技工士であり、患者の思いも分かる自分なら良いものが作れる」と、手に入れやすい価格帯の人工乳房の制作に取り組んできた。

肌の色や質感にこだわり、血管などを描くことで、患者が失った乳房を再現する人工乳房。

血管も再現
血管も再現

(Q.帆刈さん制作の人工乳房を着けた人の反応は?)
協栄デンタル 帆苅きいさん:

最初に「え?」と、びっくりする。私の胸が生き返ったという感じで

人工乳房は特別な接着剤で貼り付けると濡れても剥がれないことから、装着したまま温泉やプールに入ることもできる。

協栄デンタル 帆苅きいさん:
患者になると一歩前に出られないところがあるが、人工乳房があれば病気になる前と同じような生活ができる。自治体が「アピアランスケア」に対して補助を出すことで励ましてくれれば、患者の気持ちは違ってくるのではないかと思う

「アピアランスケア」は、治療を受けながら、その人が自分らしく生活するための選択肢の一つだ。

自治体からの補助は選択肢を広げるきっかけになり得る。社会とつながりながら治療を続けるための支援や理解は、その重要性を増している。

(NST新潟総合テレビ)

NST新潟総合テレビ
NST新潟総合テレビ

新潟の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。