厚労省のデータによると、男性の育休取得率は2021年(令和3年)度で13.97%。
2020年度は12.65%、2019年度は7.48%と年々上昇傾向にあるものの、飛躍的に増えてはいないのが現状だ。

そんな中、2022年度の男性職員の育児休業取得率が、前年度比50ポイント増という驚きの数字を達成しているのが、滋賀県の米原市役所だ。

米原市役所では、配偶者が出産した男性職員の育休取得率は、2020年度が12.5%。2021年度は33.3%、そして2022年度には83.3%にまでアップしている。

2020年度の取得率は全国平均の12.65%とほぼ同じだった米原市役所だが、なぜここまで急激に取得率を上げることができたのだろうか。その“秘訣”について、米原市役所にお話を伺った。

一時は取得率「0%」も…

――これまでの男性育休取得率の変遷を教えて

2015年度(平成27年)…33.3%(6人中2人)
2016年度(平成28年)…0%(10人中0人)
2017年度(平成29年)…6.3%(16人中1人)
2018年度(平成30年)…0%(8人中0人)
2019年度(令和元年)…15.4%(13人中2人)
2020年度(令和2年)…12.5%(8人中1人)
2021年度(令和3年)…33.3% (12人中4人)
2022年度(令和4年)…83.3%(12人中10人)


――2023年に入っての取得率はどうなっている?

令和5年度(令和5年5月31日現在)に父となった職員は3人で、3人全員が育児休業を希望し、取得しています。

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――育休取得中の業務については、どのように人員を補充している?

育児休業に伴う人員については、原則として会計年度任用職員により補っています。


――取得率33%→83%の大幅アップの“秘訣”はどんなもの?

平成27年度から、育児休業の対象となる男性職員およびその所属長に対して、市長からメッセージを送り、育児休業の取得を積極的に促してきました。

令和4年度の取得率が大幅に増加したのは、男性職員の育児休業の取得が組織に浸透し、子どもの成長を間近で感じ、育児休業を通じて子どもの成長を支え、感動も喜びも苦労も分かち合い、子育てを楽しむということが、市役所という組織において当然とする職場風土となり、各職員にもそのことが理解され、共感された結果と考えています。


――「市長からのメッセージ」はどんな形で送られている?

育児休業の対象となる男性職員および当該職員の所属長に、書面で渡しています。

「子育てを楽しんで」市長からのメッセージを紹介

米原市長から送られているというメッセージは、以下のもの。
対象職員と所属長宛てのものをそれぞれ紹介する。

市長から対象職員宛てのメッセージ(提供:米原市役所)
市長から対象職員宛てのメッセージ(提供:米原市役所)

市長から対象職員宛てのメッセージ(一部抜粋):
男性の育児参加が当然といわれる時代であっても、仕事のことを考えると、育児休業を取得することに不安やためらいを感じておられるかもしれません。
 
しかし、育児休業を取得することは、子どもの成長を間近で感じることができ、家事や育児に参加することで親子の関係を深め、御家族の絆を更に深めることができます。 
育児休業を取得して子育てに参加すること、とりわけ、1か月以上のまとまった期間の育児休業を取得することは、○○さんにとっても、御家族にとってもかけがえのない時間となります。ぜひ、育児休業を通じて子どもの成長を支え、感動も喜びも苦労も分かち合い、子育てを楽しんでいただきたいと思います。 

そして、家事や育児に参加することで得られた経験を子育てしやすいまちづくりの施策や柔軟な働き方ができる職場づくりに生かしていただくことを期待しています。 

市長から所属長宛てのメッセージ(提供:米原市役所)
市長から所属長宛てのメッセージ(提供:米原市役所)

市長から所属長宛てのメッセージ(一部抜粋):
私は、職員の皆さんにいきいきと働いていただくためには、家庭と仕事の充実が欠かせないものであると思っています。 
職員として、米原市のために仕事上で責任を果たす一方で、子育てや家庭、地域などにかかる個人の時間を持てる健康で豊かな生活スタイルを市役所から率先し、若者が暮らしやすく、子育てしやすいまちにしたいと考えています。

そのためにも、市役所の男性職員が少なくとも1か月以上は育児休業を取得することが当たり前になる職場風土をつくりたいと思っています。 
育児休業を取得することで大切な職員が不在となることは、業務運営に大きな不安があるでしょう。しかし、育児休業は人生の中で限られた時にしか取得できず、かけがえのない貴重な体験を得ることができ、○○さんのためだけでなく、未来の米原市のためにもなるものと思っています。 

上司として、○○さんのキャリアだけでなく、人生も応援してあげてください。所属長が中心となり、所属内で協力して○○さんが育児休業を取得できる環境を整えてください。

――今後も育児休業の取得を推奨していくにあたり、どんな取り組みをしていく予定?

男性職員の育児休業の取得については、組織的な理解が一定進んだものと考えていますが、それでもなお、実際に取得するに当たっては、職場への影響などを心配し、育児休業を取得することに、職員はためらいや不安を感じているものと思います。
今後は、育児休業に対する障壁をさらに下げるため、育児休業を取得した職員の所属をフォローする体制の整備が課題と考えています。

育児休業の取得には職場の理解も必要(イメージ)
育児休業の取得には職場の理解も必要(イメージ)

米原市役所の育休取得率大幅アップの背景にあったのは、市長のメッセージを機に「『子育てを楽しむ』ことを当然とする職場」の雰囲気を作り上げてきた積み重ねだった。

育児休業を取得した男性職員は、秘書室・防災危機管理課・総務課・社会福祉課など、部署や業務などはバラバラだが、各部署の中で「協力し合い、育児休業を取得しやすい環境が醸成されてきた」という。

職場の理解を得るために、トップからのメッセージというのは力を発揮するだろう。
米原市役所の取り組みをひとつのモデルとして、今後育休を取りやすい環境作りが広がっていくことを期待したい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。