衆議院の解散と総選挙は年内に行われることが予想される。政権選択選挙を前した現状は、与野党対決ではなく与党内・野党内の対立だけが浮き彫りになっている。BSフジLIVE「プライムニュース」では識者を迎え、その背景や今後の展望について考察した。

東京での自公対立の裏には、組織力が低下する公明の焦り

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竹内友佳キャスター:
自民・公明両党間の亀裂が表面化した。改正公職選挙法により「10増10減」となり、次の衆院選から東京の選挙区は5議席増える。このうち東京28区への候補者擁立を公明が自民に伝達したが、自民は容認しないと回答。これを受けた公明は28区での候補者擁立を断念すると同時に、東京で自民の候補者を推薦しない方針を正式決定した。その後、両党の党首会談と幹事長会談が行われ、自民の茂木敏充幹事長は、公明が先んじて候補者の擁立を表明していた埼玉14区と愛知16区では自民の候補者を擁立せず、公明の候補者を支援することを伝えた。これに公明の石井啓一幹事長は謝意。一方で東京での状況は変わっていないが、このゴタゴタはまだ続くか。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
続く。深刻な状況になったのは、両党ともにパイプ役がいなくなったから。自民は菅前総理がパイプ役になってきたが、今は党執行部にいない。公明には井上義久元幹事長がいたが引退。支援団体も含め意思疎通が成り立ちにくい状況。

反町理キャスター:
公明の石井幹事長が「東京における自公の信頼関係は地に落ちた」と発言。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
強烈なブラフ。また、石井幹事長は紙を見て喋っており、支持母体の創価学会の幹部の話では、と言われる。組織の高齢化で得票数が落ちており、組織力低下への危機意識がある。さらに維新の躍進により大阪の4議席が危ない。その焦りがこの言葉に集約されている。

先﨑彰容 日本大学危機管理学部教授:
創価学会・公明党は戦後の高度経済成長期に躍進してきた。その中で公明党の支持者になった人たちが高齢化した。時代背景を見ると、東日本大震災前後に民主党が政権を取ったのは政治イデオロギーによる自民との対立の結果だった。だが今は、立憲や公明が衰退して維新が躍進し、政治イデオロギーとは違う形で戦後体制の地殻変動が起き始めていると言えるのでは。

公明、維新、自民の間の複雑な構図を読み解く

竹内友佳キャスター:
日本維新の会は、公明党が大阪都構想に協力することを条件に大阪と兵庫の6選挙区で独自候補の擁立を見送ってきた。だが、維新の馬場代表は「公明党との関係は一度リセットする」と発言。この維新の方針転換が、東京の選挙区をめぐる自公のゴタゴタにも影響を及ぼしている?

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
そう。公明は関西で議席を失う可能性が高く、その分を東京で取り戻したいので東京で攻めている。大阪・兵庫で公明が戦わずして負けることはまずない。維新としては、6選挙区に何人の候補者を立てるか。兵庫の2選挙区は候補者を決めた。大阪は、立てれば4つ取れる見通しだが、全てに立てると公明党との全面戦争になる。どうするか。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏
政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
公明は、次の選挙では東京で自民党の候補を推薦しないと言ったが、これまでも、推薦といっても個別の選挙ごとに支持母体である創価学会の中で濃淡を付けていた。だから、東京の小選挙区では背を向けたのではなく個別交渉になる。これから公明党や創価学会から、「人物本位」という言葉が頻繁に出てくるのは間違いない。場所によっては維新の候補に票を乗せることも。

反町理キャスター:
自民候補がいる選挙区で、公明が維新を応援?

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
そうなる選挙区が出てもおかしくない。田﨑さんがおっしゃったように大阪で「のりしろ」が残っていれば、東京における濃淡の部分を使って取り引きする動きが確実に出てくると思う。どこまでうまくいくかはわからないが。確かに維新の強みは独立独歩という点にあり、どこかと組んだ瞬間に自損行為になる。だが、大阪や近畿の外での戦いはまだ空中戦が主軸であり、本音では創価学会票が欲しい部分があると思う。

反町理キャスター:
その構図が本当だとすれば、自公連立にひびが入るのでは。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
自民の議員が公明の推薦がないために東京でボロボロ落ちたとなればそうなり、別の局面を迎える。だが、連立がなくなるという最悪の事態にしないために、ブレーキが働くのでは。自民は票が欲しい。公明は権力、大臣ポストが欲しいという打算の関係だから、やはり打算を働かせて数週間以内に決着すると見ている。

維新は立憲から野党第一党の座を奪えるか

竹内友佳キャスター:
野党の中で最も期待する政党についてのFNNの世論調査の結果、野党第一党の立憲民主党が15.7%、日本維新の会は29.2%と倍近くに。維新の馬場代表は党大会で「衆議院選挙で野党第一党の議席を預かることが次の目標」と述べた。これが実現する可能性は。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
現状で立憲が衆議院に持つ議席数は97。そろえた候補者が現段階で150人ほどだと思うが、そのうちで勝負になりそうなのが最大110人程度とされる。単純計算で(半分が勝利するとして)2で割ると55。比例当選者数が今までの流れ通りに20人程度とすると、合わせて75人当選となる。他方、維新の今の議席数は41。立憲から減った約20が単純にそのまま維新に行くとすれば、60台。そう簡単に維新が野党第一党となるかはわからないが、非常に微妙なラインになるかもしれない。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員
久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員

反町理キャスター:
維新にとって解散総選挙は早い方がいいのか、秋またはそれ以降の方がいいのか。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
今の勢いのうちにやればいいという意見もあるが、選挙には準備が必要。そのための手足がないことが維新の弱みでもある。支持率に伴って維新の議席が伸びていくかは、やはり選挙の時期によると思う。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
だが、今の維新に期待する声は3カ月経てば消えるものではない。維新の幹部に見方を聞くと、立憲が今の97議席から2~30議席落とし、70議席台になる。維新も伸ばして、70台での野党第一党争いになるのでは、と。そして、これは立憲の人が言っていたのだが、立憲が野党第二党になれば、国会運営で自民党と交渉する立場でなくなり、党が溶けていくだろうと。

竹内友佳キャスター:
その立憲の泉代表は、最大の支持団体である連合の芳野会長と会談し、国民民主党との選挙協力に向けた関係修復の仲介を要請。芳野会長は国民民主党の玉木代表と会談し候補者調整を要請したが、玉木代表は「現段階では擁立作業を加速していかなければならない」と回答を保留。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
選挙運動の基盤の部分を考えると、連合がバラバラであることは自民にとって最高の状態。連合の必要性を誰よりもわかっているのが、おそらく立憲の岡田幹事長。だからこうして一生懸命やっている。個別の選挙区では、連合が一緒にやると言ったときに必ずしも全てが一枚岩にならないことが問題となるが、主軸はどうしても連合を触媒とした選挙協力にならざるを得ない。

衆院解散は7月か、それとも人事の後の9月か

反町理キャスター:
お決まりの質問だが、解散はいつになるか。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
一貫して私が言っているのが、7月。ただ、以前は「早くやらないと岸田さんはまずい」という意味だったが、この3月以降はもっとアグレッシブな意味。つまりウクライナ、日韓首脳会談、サミットと成果を出した。選挙は勝つときにやるのが常道。愛知と埼玉の選挙区で公明党に推薦を出したり、岸田翔太郎秘書官の更迭もあった。明らかに7月にロックオンしている印象。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
私は、たぶん8月上旬に行われる人事の後、9月解散・10月選挙だと思う。今の支持率を維持できるかという議論もあるが、もうひとつ支持率を上げるカードとして人事がある。前回は上がらなかったが、例えば女性をたくさん入れる、若い人を揃えるなどで上がる可能性も。

反町理キャスター:
与党間や野党間でそれぞれぶつかっていて、政権選択選挙が間近なのに与野党激突の機運が見えない。先﨑さんはこの状況をどう見るか。

先﨑彰容 日本大学危機管理学部教授:
冷静に見れば、次の選挙で何か体制が変わることはおそらくない。ただ少し理念的な話で言うなら、維新が野党第一党になると「2つの保守」という状況になる。維新がより右寄りにも見えるが、ここには「リベラルか保守か」のイデオロギーと違う新しい動きが出てきていると思う。新自由主義的なるものにある程度限界を感じて、成長と同時に分配をと言って登場したのが岸田内閣で、今回のG7では成長と分配を外交理念としてさえ掲げた。対して、真っ向から改革だと言ってより過剰な競争主義を出してくるのが維新。これが解決する構図になるなら、この国はまた違った国作りをしていくことになると思う。

反町理キャスター:
なるほど。

先﨑彰容 日本大学危機管理学部教授
先﨑彰容 日本大学危機管理学部教授

先﨑彰容 日本大学危機管理学部教授:
ただ、その手前の話をすると、自民は菅前総理の後に乾いた雑巾を絞ったら4人の異なるタイプの候補が出てきた。僕に言わせると、立憲、国民、維新が全部くっつくぐらいの大きな力にならないと野党は勝てない。絞ったときに、立憲の中から立憲的なるものしか出てこなかったら、やっぱり勝てない。

(BSフジLIVE「プライムニュース」5月31日放送)