子どもは「国の宝」と強調し、子育て支援を最重要課題と掲げる岸田首相。しかし日本の合計特殊出生率は「1.3」と6年連続で低下している。そんな中、育休取得率ゼロだった企業が81%までに上昇させ、さらに子育て社員をサポートする取り組みを始めている。

職場の空気を変えた「管理職の育休」

岸田文雄首相(2023年3月17日・記者会見):
子どもは国の宝です!2030年までのこれから6年から7年が少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスです

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男性の育児休業の取得率を2025年度に50%、2030年度に85%に引き上げると具体的な数値目標を掲げた岸田首相。

国内の「育休取得率」は2021年の時点で女性が85.1%、男性が14%。男性の取得率は10年間で10ポイント以上上昇したものの、取得した人は7人に1人程度だ。

男性社員の「育児休業」の取得率が8割を超えている会社が福岡市にある。新築住宅の分譲を手がける「よかタウン」だ。

2020年までは男性社員の育休の取得率は、ほぼゼロだったが、この3年で81%まで一気に上昇させた。

「よかタウン」総務部・吉浦和人次長:
社員の平均年齢が30歳なんですが、いまから子どもが生まれてくる世代というのがどんどん増えてくるので、最初は「取りにくい」「育児休業は聞いたことがない」みたいな感じだったが、「管理職の社員からやっていきましょう」というふうに。1人ずつ声をかけて育休を取りやすい環境作りから取り組み始めた

まずは「管理職が率先して育休を取る」これが、職場の空気を変える大きなきっかけになったという。

育休をとれることで社員も安心

2019年、この会社に同期入社した伊藤哲朗さん(26)と菜々弥さん(22)。2年に及ぶ社内恋愛を経てゴールインした2人。いま、菜々弥さんのお腹の中には、近く(取材日翌日の5月19日)出産予定日の赤ちゃんがいる。

菜々弥さんは、すでに産休に入っていて、夫の哲朗さんは5月下旬から17日間の育休を取る予定だ。

夫・哲朗さん:
いま、妻のお腹も大きくなって、動きずらかったりというのもあるので、なるべく僕が動けるところは僕が動いていけたらなって。積極的に僕も一緒にやっていけたらなと

妻の菜々弥さんはすでに2人目のことも考えている。

妻・菜々弥さん:
これから、もし2人目とか生んだときも、安心してこうできるなっていうのはありますね

育休を取得した会社の先輩パパたちにも話を聞いた。

「よかタウン」吉原聖人さん(26):
僕は、妻が一番大変な時期に取れてよかった。奥さんを心の面でサポートできたかなと思います。自分が育休を取らせてもらったから、ほかの人が取ることに関してはサポートしようかなという思いになりますし

「よかタウン」丸田逸平さん(38):
育児休暇を頂いて、育児に携わることによって、仕事をさせてもらっているんだなという感覚にはなりました。育児の方がきついなという感覚が正直あったので、良い経験です

この会社は育児休業の取得を積極的に推進することが、「有能な人材」の採用にも直結しているという。

「よかタウン」総務部・吉浦和人次長:
将来設計が立てやすいというか、イメージしやすいという理由で、面接のときだったり、内定者のときから、「それで応募しました」とか「それで知りました」とか。会社にとっても良かった。それは間違いないです

育児休業の取得は会社にとって、「一時的に労働力が減る」という「マイナス面」よりも、企業の価値を向上させる「プラス面」がはるかに大きいようだ。

社員は無料で預けられる保育園も

着実に成果を出す中、会社は、さらに「強力な一手」を打っていた。

「よかタウン」総務部・吉浦和人次長:
実際、運営が始まったらすごいいろんな社員が預けているので、すごく需要があるなと感じています

会社の2階にあったのはなんと保育園だ。さらに驚いたのはその「保育料」だった。

子どもを預けている社員・吉原聖人さん(26):
経済的な面でも心の面でも安心感があるなと思います

安心感を与えてくれるのは本社の2階に設置された保育園。社員が子どもを預ける場合、「保育料」は無料で、多くの社員が子どもと一緒に通勤する。

「よかタウン」総務部・吉浦和人次長:
自宅近くの保育園に預けて出社というと、正直なところ、就業するのが難しい方であったりとか、辞めたくないのに辞めたりしてしまう方とか、そういう方々の手助けにはなったかなという

会社の中にある保育園は、キャリア採用の場面でも貴重な即戦力を得るアピールポイントになっているという。

「よかタウン」総務部・吉浦和人次長:
合同説明会をしたときに、実際にベビーカーを押して説明会に来られた方がいて「良かったらお話を聞きたいです」って言って下さって、それから、いま5月に入社して実際に働いてくれている社員もいます

過去の風潮が女性の育児負担に

子どもは「国の宝」と強調し、子育て支援を最重要課題と掲げる岸田首相。しかし日本の合計特殊出生率は「1.3」と6年連続で低下している。

アメリカのハーバード大学の教授が行った日本とアメリカ、そしてスウェーデンの比較研究で、家事・育児に関する「男女の分担割合」と「出生率」の関係性を示したデータによると、スウェーデンは自宅での家事・育児の40%以上を男性が行っていて、出生率は1.66%。

日本は男性が家事や育児に関わる割合が15%程度で、出生率は1.33%と低い。研究では分担が男女間で均等に近いほど出生率が高くなることが確認されている。

これまで日本では男性の長時間労働を当然と考える風潮が少なからずあったが、その風潮が女性の育児負担の重さにつながっているところもある。少子化の傾向を食い止めるためには、より多くの企業が子育て支援に本腰を入れるように国からのより具体的なサポートが必要といえそうだ。

男性育休「待ったなし」だ。

(テレビ西日本)

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