2023年6月以降、電力大手7社の電気料金(規制料金)が値上げされることが決まった。東北電力の値上げ幅は平均で「25.47%」。電気料金は一気に高騰すると思われた。しかし、新たに東北電力が示した試算で、6月の請求分の料金は、去年より安い価格に留まるという。7月に至っては、その6月よりも安くなる見通しだ。いったいなぜなのか。背景には「燃料費調整制度」と「国の補助金」の存在があった。
この記事の画像(13枚)いまさら聞けない「電気料金の仕組み」
電気料金は、料金単価や使用量だけで料金が決まるものではなく、「基本料金、電力使用分の料金、燃料費調整額、再生可能エネルギー発電促進賦課金」という4つの要素で構成されている。
「基本料金」は、1ヵ月単位で決められている料金のこと。契約するアンペア数で変わってくる。多くの家庭が契約している「従量電灯B」の契約で見てみると、20アンペア契約は739円20銭、30アンペア契約では1108円80銭といった具合で設定されている。認可前と比べると、最大で200円ほど高くなっている。
「電力使用分の料金」は、電力料金単価に1ヵ月の使用量をかけあわせたもの。使用量によって単価は変わり、こちらも値上げの対象。東北電力では、1キロワットあたり7.66円上がった。
「再生可能エネルギー発電促進賦課金」は、再生可能エネルギーを普及させるための「固定価格買取制度」を運用するために徴収されているもので、経済産業省が年に1度金額を決めている。そして残るのが「燃料費調整額」。これが毎月の料金の変動に大きく関わっているという。
料金の変動生む「燃料費調整制度」
「燃料費調整額」とは「燃料費調整制度」に伴って算定される金額だ。原油・LNG(液化天然ガス)・石炭の火力燃料の価格変動を料金に反映させるもので、燃料価格が上がれば、電気料金に上乗せされる一方、燃料価格が下がれば料金から減額される。利用者にとって、プラスにもマイナスにも働く可能性があるというわけだ。
「燃料費調整額」の計算は、以下の流れで行われる。
1.火力燃料の直近3カ月間の平均価格をもとに、各電力会社の火力発電の熱量構成比を
掛け合わせて「平均燃料価格」を算定する。
2.「平均燃料価格」と、国が定める「基準燃料価格」と比較し、
差額を基に「燃料費調整単価」を算定。
3.燃料費調整単価と使用電力を掛け合わせて「燃料費調整額」を算定する。
ちなみに、基準燃料価格には「上限価格」が設定されている。この上限価格まで平均燃料価格が高騰したとしても、燃料費調整額として消費者から徴収することができる。一方、平均燃料価格が上限価格を上回ると、超過分は全て電力会社が負担しなければならない。つまり、燃料購入価格より売却価格が安くなる、いわゆる「逆ザヤ」の状態となる。ウクライナ情勢などに伴う燃料価格高騰などでこの状態が長らく続いたため、各社今回の値上げ申請に踏み切ったワケだ。
「6月より7月の料金が少ない?」燃料費調整額が影響
東北電力は、毎月、使用量が一般的なモデル世帯(契約電流30A、使用電力量260kWh)の電気料金を公表している。これによると、6月のモデル世帯の電気代は7833円だった。5月と比べて1621円の増額となっていて、料金値上げの煽りを受けていることがわかる。
一方で、5月に東北電力が発表した、7月のモデル世帯の電気料金は7537円と、6月と比べ296円の減額となっている。これはまさに燃料費調整制度の影響で、燃料費の下落を受け6月の燃料費調整額が「-2309円」だったのに対し、7月は「-2605円」と6月を上回るマイナス調整となったことが影響している。
この2000円を超えるマイナス調整は、認可前にはなかった数字だ。
以前は、調整額は±1000円に収まる形で推移していた。
原因として挙げられるのが、今回の値上げ申請で上がった基準燃料価格と上限価格だ。昨今の燃料価格の高騰を反映させ、基準燃料価格は3万1400円から8万3500円に、上限価格は4万7100円から12万5300円まで上がった。これに伴い、燃料費調整額の増減幅が大きくなっているというワケだ。6月、7月のマイナス調整のように、これまで多くても「+900円ほど」だった燃料費調整額は、最大で「+2140.9円」になる可能性があるという。
去年より安い6月電気料金 理由は「国の支援策」
東北電力の2022年1月から2023年7月のモデル世帯の電気料金の推移をみてみると、2023年5月から6月にかけて、今回の値上げを受けて大幅に料金が高くなった。一方で、6月、7月の料金は、2022年のどの月よりも低い金額となっている。
2022年で一番低かった月は1月で7852円と、2023年6月の7833円、7月の7537円よりも高くなっている。ちなみに2023年6月から2023年1月までは電気料金に変化がなく、8565円となっている。これはロシアによるウクライナ侵攻などで燃料価格が高騰した影響で、前述した燃料費調整額が上限に達し、電力会社側がこれ以上料金を上げられない事態となったためだ。
現在、去年よりも価格が下がっている理由は、2023年2月から適用された国の支援策が影響している。政府は高騰する電気代に歯止めをかけようと、2023年9月請求分まで1kWhあたり7円、10月請求分は3.5円の支援策を講じた。モデル世帯の使用電力量は260kWhで計算されているので、1820円の減額となっている形だ。支援策が無ければ6月は9653円、7月は9357円と9000円台に到達していた。政府の支援策が10月で終了となれば、この高騰する電気料金が11月には訪れる見通しだ。
値上げにあたり東北電力の樋口康二郎社長は、「徹底した経営効率化に取り組み、お客さまに安定的に電力をお届けするとともに、少しでも負担軽減につながるよう、電気の効率的なご利用方法などのご提案に取り組んでいく」とコメント。
国の支援策が途切れるのは10月以降。来るべき「本当の値上げのタイミング」に向けて、節電対策を無視できない夏がやって来る。
(仙台放送)