黒人少年の絵を描く画家「これが私流の抗議」

ニューヨークの街角で、女性の画家が似顔絵を描いていた。モデルには会ったことがないのか、スマートフォンの写真を見ながら、絵の具を重ねている。描いているのは黒人の少年。そして筆を動かしているのは、キャンバスではなく、店の窓を覆うベニヤ板だ。

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新型コロナでストップした小売業は、ようやく経済再開の第一段階に進んだところだが、ここにきて、黒人男性ジョージ・フロイドさんを警察官が殺害する事件が発生。これに端を発した、人種差別と警察の“横暴”に反対する抗議デモが全米に拡大した。

6月第一週にはニューヨーク市内で略奪が横行し、多くの店が窓ガラスを割られたり、商品を奪われたりする被害にあった。このため、営業再開を目前にしたほとんどの店が、略奪行為を防ぐため窓ガラスを覆う「板」を設置した。街並みは、見渡す限り板、板、板、と一変した。

ニューヨークの街は略奪防止の為、見渡す限り、板、板、板・・・

冒頭の女性画家が絵を描いていた場所は、ニューヨークでも有数のファッションエリアSOHOで、キャンバスは略奪防止対策用の「板」だ。モデルは、一体誰なのか?

女性画家:
「警察によってここ数年で、死亡した(とされる)子供たちを描いているの。この子たちを、直接知っているわけじゃないわ。『黒人の命は大切だ(Black Lives Matter)』運動で名前があがっている子や、ニュースを見て知ったの」

ジョージ・フロイドさんの事件で、「黒人の命は大切だ」がデモの合い言葉になっているが、一方で、「ほかにも警察によって死亡した人はいる」と主張する人は多い。

全米に拡大した人種差別への抗議デモ 掲げられたメッセージは「Black Lives Matter」

絵を描いている彼女に、道行く人が声をかける。
「すばらしい絵だ」。

しかし、ここはあくまで洋服店。“落書き行為”にあたる恐れはないのか?女性に聞いてみると・・・

女性画家:
「店の人が、『続けてください』と言ってくれたわ。でもこの店がいつ再開するかわからないわね。そしたら板が撤去されてしまうけど、今この瞬間、人々にこの絵を見てほしい。これが今、私ができる抗議の方法だから」

女性画家は「これが私流の抗議」と語る

インタビューを終え、SOHOをぐるりと歩いてみると、この女性のほかにも、人種差別に抗議する意味を込めて、絵を描いているアーティストを何人か見かけた。

ある男性も、店の許可を取った上で絵を描いていた。
「あと2日で店は再開だって。すぐ絵はなくなっちゃうんだけどね」
と笑いながら。店側も絵を描くのを認める、というのがニューヨークらしい。

街角に数々のアート「片膝をつくアメフト選手」

SOHOでは同じモチーフの絵に、何度も出くわした。
アメフト選手が片膝をついている絵だ。

人種差別への抗議の象徴となったポーズ

2016年、当時NFL(プロアメリカンフットボールリーグ)のスター選手だったコリン・キャパニック氏が、警察官による黒人男性への暴行問題に抗議するため試合前の国歌斉唱時に膝をつき、このポーズをとった。するとトランプ大統領が、「国家に敬意を払っていない」と激しく非難し、波紋を呼んだ。

今回起きた一連の抗議活動ではデモ隊だけでなく、警察官も片膝をつくポーズを取り、共感を示したことが話題を呼んでいる。ジョージ・フロイドさんの棺を乗せた霊柩車を前に、地元警察の幹部が片膝をついて敬意を表する場面もあった。

「人種差別への抗議」を象徴するこのポーズがアートとなり、街のあちらこちらの「板」に描かれていた。絵の端にはこう書かれていた。「Do you understand yet?(もう、わかったか?)」

絵の上部には「Do you understand yet?」の文字

警察批判の実情「背中にいきなり銃」

何度か抗議デモを取材したが、日に日に警察への怒りが強まっているように感じる。プラカードには「警察への予算を打ち切れ」という文言が増えてきた。

南部ジョージア州アトランタでは12日、黒人男性が警察官の発砲により死亡した事案も発生した。こうしたケースは後を絶たないが、実際に「黒人をターゲットにした捜査」というのは行われているのだろうか?

アメリカ人の同僚が、5年ほど前にこんな現場に出くわしたという。友人の黒人男性とともに夜、街を歩いていて、黒人男性が自分の車に戻ろうとしたところ、私服警察官がいきなり、背中に銃を突きつけてきた。実は、その直前に、付近で車の窃盗事件の通報があり、警察が捜査していた最中だったという。もちろんこの黒人男性は無関係だが、警察は黒人というだけで容疑者だと思ったのだろうか。おそらく、今回のデモの根柢には、こうした人種に対する偏見にもとづく「捜査」や、「職務質問」などで嫌な思いをしてきた多くの有色人種の怒りがあると言えるだろう。

コロナ禍のデモ「命のリスクがあっても・・・」

新型コロナウイルスの第2波が問題となっているアメリカで、“密なデモ”を危惧する声もある。私が見たデモ現場ではほとんどの人がマスクはしているが、「ソーシャルディスタンス」はとられていない。コロナ感染リスクを考え、群衆の真ん中に行くことを避け、それでも抗議を支援したいという気持ちから、少し離れたところでデモ隊にスナック菓子を配布するカップルもいた。

「コロナリスクは怖いがデモを支援したい」マイカーでお菓子を配るカップル

また、デモに初めて参加するという別の女性は「少しナーバス。でも、この抗議は重要、命のリスクがあっても参加する」と語った。

トランプ大統領は16日、首を絞める拘束手法を禁止する指針を盛り込んだ警察改革に関する大統領令に署名した。各自治体も続々と対策を打ち出している。アメリカは、今度こそ変わるのだろうか。

【執筆:FNNニューヨーク支局 中川眞理子】
【撮影:森田アンドリュー/リサーチ:ディエゴ・ベラスコ】