自民党の小野寺五典安保調査会長(元防衛相)は21日、フジテレビ系『日曜報道 THE PRIME』(日曜午前7時30分)に出演し、ウクライナのゼレンスキー大統領が出席したG7広島サミットについて「歴史的なサミット」だと評価した。「広島でサミットをする意義は核の問題について正面から議論すること。(ロシアの)核の脅威にさらされているウクライナのゼレンスキー大統領がここでメッセージを発し、世界の注目が今ここに集中している」と話した。

元外交官の宮家邦彦氏は「日米韓首脳会議があり、クアッド(日米豪印)首脳会合があり、ゼレンスキー大統領がグローバルサウスのインドと対話をする。今世界が置かれている状況で必要なものが広島から生まれていく。広島サミットは歴史的な分岐点になるぐらい重要な会議になるのではないか」と指摘した。

この日の番組は「G7広島サミット拡大版スペシャル」として、広島市に残存する被爆施設「旧陸軍被服支廠」から放送。「旧陸軍被服支廠」は財政上の問題から一部が取り壊される可能性があり、その岐路に立たされている。橋下徹氏は全国の「戦争遺産」が次々と消えていく現状に「日本政府の対応には怒り心頭だ」と述べ、国の責任で戦争遺産を保存するよう求めた。

これに対し、小野寺氏は「旧陸軍被服支廠は原爆の悲惨さを伝えるものだ。広島県と国が協議をしていると聞いている。後押しをしていきたい」と表明。施設の保存に前向きな姿勢で臨む考えを示した。

以下、番組での主なやりとり。

梅津弥英子キャスター(フジテレビアナウンサー):
ロシアの侵攻開始からウクライナは核の脅しにさらされ続けている。核の恐ろしさを物語る建物では、原爆ドームを想起する人が多いと思う。私たちの後ろの建物も実は被爆建造物だ。爆心地から2.7km離れたこの場所にも爆風が押し寄せた。爆風にさらされ、このかなり厚い重厚な鉄の扉が変形しているのがわかる。110年前の大正二年に竣工。陸軍兵士の軍服などの製造や保管を行っていた「旧広島陸軍被服支廠」。78年前の8月6日、焼け野原となった広島で、被服支廠には多くの被爆者が治療や水を求めてたどり着いた。臨時救護所となったこの施設で3000人以上の人が命を落とした。当時は診療所や託児所などの施設を含め100ほどの建物があったが、現在は4棟の建物を残すのみ。赤レンガ造り、基礎部分には鉄筋コンクリートが使われ、110年前の建物としては非常に珍しいという。特別に許可を得て建物内に入る。建物は3階建て。戦後は一時、広島高等師範学校の校舎や民間企業の倉庫として使われていたこともあったが、ここ約30年は手つかずのままとなっていた。原爆が投下されたあと、多くの人が建物2階に収容された。手の施しようのない状態の人が多く、3000人以上が亡くなった。

けさの日曜報道はG7サミットが開かれている広島市にある「旧広島陸軍被服支廠」からお伝えする。

松山俊行キャスター(フジテレビ政治部長・解説委員):
78年前の8月6日、広島に投下された原子爆弾により、その年の終わりまでに約14万人が亡くなったと推計されている。私たちがいるこの建物でも3000人以上の被爆者がなくなった。ロシアによる核の威嚇を受けているウクライナのゼレンスキー大統領が、ロシアによる侵攻後初めてアジアを訪問、来日した。G7や招待国などのリーダーらの前で話をする。ゼレンスキー大統領がこのタイミングで広島に来た意義は。

小野寺五典氏(元防衛相・自民党安全保障調査会長):
日本にとっても今回のG7サミットは平和のメッセージを出すとても重要なもの。ここにゼレンスキー大統領が加わることは、世界に大きな意義を発信するとても重要なことだ。広島でサミットをする意義は核の問題について正面から議論をするということ。今、その核の脅威にさらされているウクライナのゼレンスキー大統領がここでメッセージを発することで世界の注目が今ここに集中している。歴史的なサミットだ。

橋下徹氏(番組コメンテーター・弁護士・元大阪府知事):
欧州諸国とゼレンスキー大統領は外交で緊密な関係があるが、重要なのはインドやインドネシアなどグローバルサウスと呼ばれる国々の首脳と対話すること。これらの国々はロシアへの制裁に舵を切っていない。ゼレンスキー大統領がインド、インドネシアをはじめグローバルサウスの国々と対面で話をする、支援を訴える、ロシアに対し制裁を、厳しい姿勢を取ってくれと直接訴える。この場は今回のG7で最大の意義がある。

宮家邦彦氏(元外交官):
隔世の感がある。私が外務省に入ったのは1978年。翌年に一回目の東京サミットがあった。サミットを40年ぐらい見ていることになるが、今回ほどてんこ盛りの、これだけ歴史的な意味のあるサミットはちょっと思いつかない。普通、サミットというのは7人集まって、シャンシャンとは言わないが、比較的予想の範囲内でものごとが動くものだ。しかし、今回、様々な要素が絡まったせいもあるが、日米韓があり、クアッドが入り、さらにゼレンスキー大統領がやってきてグローバルサウスのインドと対面で対話をする。当然時間はかかるが、いま世界が置かれている状況で、必要なものがこの広島から生まれていく。こういうサミットを見たのは初めてで非常に重要だ。(ウクライナへの)F-16戦闘機供与等々の流れがあるが、もちろんこれも時間がかかる。(パイロットの)訓練が始まっても数か月はかかる。しかし、この戦争がまだまだ続くことを考えると、おそらく将来振り返ってみた時に広島サミットは歴史的な分岐点になるぐらい重要な会議になるのではないか。

橋下氏:
G7サミットで岸田総理は「核なき世界」を目指すと。被爆地・広島出身の政治家だから、「核なき世界を」というメッセージを伝えたいとの思いはわかる。これは理想だ。世界各国が一斉に核兵器を放棄するのであれば、「核なき世界を」ということになると思うが、一方的に放棄することほど危ないことはない。だから今回の広島ビジョンでも、核兵器の抑止力の意味合いを認めている。原爆資料館を見たG7首脳は即時、核兵器の放棄とは誰も言わない。将来的な核兵器なき世界をということを言っているだけで即時放棄を言わない。すなわち、今のこの現実の国際情勢を見れば、今回のG7サミットのもう一つ大きな意義は「核抑止力は必要」ということ。日本も核兵器を持てるかというと、これは現実持てないと思う。持てない以上は、韓国と同じように米国の核に頼る必要がある。1970年、1980年に教育を受けてきた僕らの世代は、核兵器なんかとんでもない、核兵器なんかすぐ廃絶せよ、という教育を受けてきた。しかし、今回のG7サミットではっきりしたのは現実、ロシアも中国も核兵器を持ってる以上は、やはり核兵器の抑止力は必要なのだということ。これはもう全国民が認識をしなければいけない。そういうサミットになったと思う。(米韓同様に)日米間でも核についてしっかりと協議して、日本の立場も発言できる、また、運用のあり方についても透明化を図る。核という物が必要だという前提での政治をやってもらいたい。

松山キャスター:
今回のサミットの一つの大きなテーマとして岸田首相は「核のない世界」を目指すということを主張している。G7首脳が初めて広島に集まり原爆資料館を見学し、慰霊碑に献花を行った。歴史的な出来事だ。核に対してG7首脳の今後取り組みは変わっていくと思うか。

小野寺氏:
G7の国で自国に核をおいてないのは日本とカナダぐらいだ。ほかの国は自国で保有するか、米国の核を置いてもらっている。現実的にはどの国も核を意識しながら抑止力を上げている。私ども安全保障を専門とする立場からすると、核は絶対使ってはいけない。核という兵器を開発した人を忌まわしくさえ思う。地球を何十回も破壊するほどの力がある。核などないほうがいい。でも、ないほうがいいといってもなくならないとすれば、日本が次にできる選択肢は二度と核を使わせないこと。もっと強く言えば、絶対に二度と日本に核を使わせない、落とさせないこと。そのためのことをやっていくことが最大の仕事だ。今は抑止力を上げるために米国の核の傘をしっかり見える形でやっていく。ただ、将来的にはこんな兵器あってはいけない。人類がいなくなってしまうような兵器だ。岸田首相としては、それを長期的な視点で、現実問題として、G7各国に見てもらう。これを世界に発信する。それも今回のサミットのもう一つの大きな意義だ。

梅津キャスター:
この旧陸軍被服支廠は現存する4棟のうち3棟を広島県が所有しているが、その一部が解体されるかもしれない岐路に立っている。3年前の調査で震度6強でも倒壊しないことが確認されたが、建物を保存するためには、レンガの壁などの安全対策が必要であることも判明した。問題になるのが1棟あたり5億8000万円という費用。広島県では重要文化財を目指す調査や活用法についても広く意見を求めていて、建物の保存と安全対策の実施を検討している。

松山キャスター:
戦争の悲惨さ、原爆の被害を伝える建物であると同時に、当時日本軍が遂行していた戦争の拠点ともなっていた施設で複雑な背景を持っている建物だが、こうした戦争の遺産をどう残していくか。保存が自治体に委ねられている現状がある。

橋下氏:
僕は戦争遺産に対する日本政府の対応には怒り心頭だ。1970年代、1980年代はまだ街中に戦争遺産が結構残っていたが、次々と撤去されてなくなってしまっている。戦争遺産は被害を表すもの、加害を表すもの、いろんな考え方があるが、もう一つ重要なことはその当時の国民に対して祈りを捧げる、感謝の念を申し上げること。そういう対象が戦争遺産だと思う。日本の国会議員は特に靖国神社に対してはものすごい熱がある。靖国神社も大切だ。兵士に対して尊崇の念を表わすというのは非常に大切なことだ。それと同等のものが戦争遺産だ。ここに当時の国民の魂が込められている。いろいろ聞いたところによれば、1兆円もあれば、日本の各地にある戦争遺産をきちんと保存して内部を公開できるぐらいにはなるという。沖縄のガマ、自然の洞窟、も本当に大変な悲惨な歴史があるが、これも今立ち入り禁止状態になっている。日本政府は何やっているのか。日本各地に陸軍墓地がある。雨風にさらされて悲惨な状況だった。でも、安倍総理と菅官房長官(いずれも当時)が予算をつけて整備にとりかかった。僕の地元にも高射砲陣地跡地というものがあったが、全部撤去されてしまった。防衛予算5年間で43兆円。国防は装備だけではなく国民の気持ち、思いというものも重要だ。当時の国民に感謝の念を示して祈りを捧げ、我々も国民を守っていく、政治家も国民を守る、将来世代を守るという、そういう強い決意を表すために戦争遺産を保存する。この陸軍被服支廠も1棟5億円ほど。3棟、4棟で20億円ぐらいだ。広島県に出させるのではなく、こんなの国の予算からしたら大したことないではないか。政治の決断でぜひ戦争遺産の保存に舵を切ってもらいたい。

小野寺氏:
私は全国の戦争遺産、旧軍の墓地・施設などを見て回ることもある。地元の皆さんが保存会を作って自ら募金を集めて保存しようとやっていることがたくさんある。頭の下がる思いだ。戦争がいかに悲惨なものか、二度とあってはならない、そういう思いで後世に残すものは残すべきだと思っている。この建物は被爆建物ということで、原爆の悲惨さを伝えるものだ。保存については広島県と国が協議を始めていると聞いている。できるだけ後押ししていきたい。戦争は二度と起こしてはいけない。そのための歴史的なものとして、全国にあるものもしっかり見直していきたい。これは安倍総理、菅さんの熱い思いでもあったので、私どももそれをしっかり受け継いでいくことが大事だと思っている。

日曜報道THE PRIME
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今動いているニュースの「当事者」と、橋下徹がスタジオ生議論!「当事者の考え」が分かる!数々のコトバが「議論」を生み出す!特に「医療」「経済」「外交・安全保障」を番組「主要3テーマ」に据え、当事者との「議論」を通じて、日本の今を変えていく。
フジテレビ報道局が制作する日曜朝のニュース番組。毎週・日曜日あさ7時30分より放送中。今動いているニュースの「当事者」と、橋下徹がスタジオ生議論。