大阪の水族館「海遊館」で開館以来初めてとなる巨大水槽のリニューアルが始まった。飼育スタッフの誰もが経験したことがない巨大水槽の水を全部抜くプロジェクトを密着取材した。
巨大水槽をリニューアルへ 水族館の「水」全部抜く
開館33年目を迎える大阪の「海遊館」。階をまたぐ圧巻の巨大水槽がおなじみだが、この水槽を巡る一大プロジェクトが始動した。
1990年7月に開業した海遊館。水槽の中にある展示品が老朽化したことなどを受けて、一部の水槽をリニューアルすることになった。
今回その対象になったのが、「グレートバリアリーフ」水槽。オーストラリアにある世界最大のサンゴ礁を模したものだ。
4階から6階までまたがり、25メートルのプール1杯分に相当する海水に、大小72種類、800匹の魚たちが展示されている。リニューアルのためにはわずか3日間で全ての魚を捕まえた上で、水を抜かなければならない。
水槽の魚を確保へ…「ウツボ」と格闘
5月8日（リニューアル作業「初日」）。この一大プロジェクトを指揮するのが、魚類チームの喜屋武樹さん（30）。
（Ｑ.一番の難しい課題は？）
魚類チーム 喜屋武 樹さん：
魚を捕るところですね…いっぱいおるんで。できるだけ、きれいに捕りたいなと思っていて、それを捕るのが一番大変です
その通り、喜屋武さんはこの後、悪戦苦闘することに…まずチームは大きめの魚の捕獲から取り掛かったがなかなか進まない。一体何があったのか。
魚類チーム スタッフ：
今、ニセゴイシウツボっていうウツボを捕まえています。サンゴの隙間に隠れちゃうので3人がかりで捕まえています
この水槽の主…体長2メートルのウツボがなかなかおとなしくしてくれない。棒で穴を突き、隠れているウツボを追い出そうとするが…また奥へ引っ込んでしまった。
水中で格闘すること10分経過…
魚類チーム 喜屋武さん：
アカンわ…違う魚からやっていきましょか
ウツボにかかるストレスを抑えるため、サンゴトラザメなど、いったん他の魚の捕獲に取り掛かった。
30分後、水槽の主・ウツボに再び挑戦…ウツボが出てきた。左側から棒でつつき、強引に穴から追い出す。
魚類チーム 喜屋武さん：
一回警戒されると、そこからなかなか出てこなくなるので、できるならちょっと無理してでも捕った方が、この後のウツボのためにもなるので頑張りました
そして、ついに…捕獲に成功した。
魚類チーム 喜屋武さん：
捕れました！
ウツボを安全にバックヤードへ運ぶ。
続いて、小さな魚を取り逃さないために用意したのがこの大きな網。壁に沿って下に広げ、水槽の底から魚を一気にすくい上げる作戦だ。一度警戒した魚は穴から出てこなくなる。強引に引っ張り出すと、傷付けてしまう…元気なまま捕獲するために繊細な作業が続く。
魚類チーム スタッフ：
結構入ったね
大きな網ですくい上げた後は、おけに入れて移動させる。
これを何度も何度も繰り返し、2日間でようやく6割の魚を捕獲できた。
そして作業3日目（5月10日）。
海遊館 スタッフ：
落水開始！！
ついに開館以来初めて水槽の水が全て抜かれる。
それにあわせて魚類チームは残りの魚の捕獲を急ぎます。
魚類チーム 喜屋武さん：
魚たちがサンゴの隙間とかに一匹も取り残されないように見守ってます
水を抜き取った水槽の利用法
水を抜き始めてからおよそ6時間。水槽の中からほとんどの水がなくなった。
魚類チームはサンゴの隙間に入り込んだ魚を次々と捕獲。水抜き後、およそ2時間で、最後の魚を捕まえることができた。
魚類チーム 喜屋武さん：
うまく捕れましたね。水槽の底に水たまりができてくれてたので、魚が干上がらずに泳いでいたので…本当は（魚に）負担もゼロで行きたかったんですけど、一匹残らず捕れたと思います
スタッフの奮闘で、すっかり空になった水槽。
リニューアル工事は、2024年9月まで行われるが、空っぽの水槽は「意外なこと」に活用されている。
プロジェクト5日目の5月12日、巨大水槽には服を着た8体のマネキンが並んでいて、まるで特大のショーウィンドー。「サンゴショーウィンドウ」と題されたこのイベントの準備には、魚捕獲と水抜きに3日間かけた後、さらに2日間かけて準備がされた。
このマネキンが着ている服は、ただオシャレなだけではない意味がある。海遊館では、海洋ゴミ、海洋プラスチックなどの問題を知ってもらおうとこれまでも展示などを行ってきたが、今回もその取り組みの一環で…実はこの服は海洋プラスチックを再生した素材でつくられている。「海洋保全」につながるSDGs取り組みを知ってもらえればと、アパレルブランド３社とコラボレーションした。
空っぽな水槽を有効活用できて、海洋保全について知ってもらう機会に「一石二鳥」のアイデア。この展示は5月12日から14日まで開かれた。
そして、2024年9月には新しい巨大水槽がお目見えの予定だ。
（関西テレビ「newsランナー」2023年5月12日放送）
