2023年4月15日、アフリカ・スーダンで始まった正規軍と準軍事組織の武力衝突。それに伴い、スーダンで長年医療支援してきたNPO法人が日本に緊急帰国した。「命を失うかもしれない」状況から無事帰国した男性を取材した。
スーダンの医療状況を見てNPO法人立ち上げ
2023年4月29日、戦闘が続くアフリカ・スーダンから無事に帰国した北九州市のNPO法人「ロシナンテス」の理事長で医師の川原尚行さん、57歳。

NPO法人「ロシナンテス」川原尚行さん(羽田空港2023年4月29日):
おかげさまで、われわれスーダンにいました日本人、そしてその家族、総勢48名が、ただいま日本に帰ってくることができました。飛行機から富士山を見たときに、涙がこぼれそうでした
5月2日には、地元の北九州市で帰国を報告した。

NPO法人「ロシナンテス」川原尚行さん:
帰って参りました
武内和久・北九州市長:
ご無事で本当によかった

NPO法人「ロシナンテス」川原尚行さん(記者会見北九州市役所2023年5月2日):
「命を失うかもしれない」と思っていて、母の顔を見て本当に安堵(あんど)しました。北九州の方々からの多くの励ましの声が、妻を経由して私の耳に届いておりましたので、その応援の声が励みとなって「なんとか頑張ろう」と耐えることができました

2023年4月15日、アフリカ・スーダンで始まった正規軍と準軍事組織の武力衝突。川原さんは自宅から出ないよう忠告され、急いで、1カ月分の水や食料を準備。首都ハルツームの自宅から緊迫した町の様子を伝えていた。

NPO法人「ロシナンテス」川原尚行さん(ハルツームの自宅・2023年4月23日):
散発的な爆発音と攻撃する音が聞かれますし、実は窓から外を見上げると爆撃機が飛んでいたということもあります。みなさま方に生きてお会いできることを楽しみに、いまの籠城生活を送っているところです

川原さんは北九州市出身。小倉高校、九州大学を経て、外務省の医務官としてスーダンに赴任。現地の厳しい医療状況を目の当たりにし、2006年にNPO法人「ロシナンテス」を立ち上げ、長年、医療支援などに取り組んできた。

NPO法人「ロシナンテス」川原尚行さん(2007年取材):
マラリアが一番多い。それから母子問題もありまして、婦人科的な問題も多くあります。また水の問題も…、やればやるほど課題が多くなりますね
「車で行くと的になるから注意」寝ずに運転
これまで紛争が続く不安定な情勢の中で、水道整備や学校建設を進めてきたが、今回、衝突の激化で緊急帰国を決断した。
日本政府は4月23日、スーダン在住の日本人の退避計画を決行。

岸田文雄首相(2023年4月23日):
安全確保、退避に全力を持って対応していく

川原さんはスタッフと小さな子どものいる家族、合わせて5人を乗せ、ハルツームを出発。自衛隊機の待つ約800km離れた沿岸部のポートスーダンを目指した。

NPO法人「ロシナンテス」川原尚行さん(ジブチ・2023年4月26日):
(スーダン人の友人から)「町中を車で行く時は攻撃の的になるのでとにかく注意をして」と。「撃たれる可能性もあるぞ」と。「銃口を向けられたときはお金を渡せ、そして逃げてくれ」と(言われた)

砂漠の道なき道を極度の緊張に包まれながら運転。睡眠もほとんどとらないまま、約30時間後に目的地に到着。その後、自衛隊機で周辺国のジブチに移動し、チャーター機で帰国を果たした。
「スーダンに和平を…」川原さんの思い
5月2日に地元の北九州市で開いた記者会見で、川原さんが何度も口にしたのは和平への思いだった。

NPO法人「ロシナンテス」「川原尚行さん(記者会見北九州市・2023年5月2日):
1日も早く停戦が実現して、日本政府は、岸田総理がアフリカ歴訪してますし、今年はサミットの議長国もありますので、何とか国際協調をお願いしてスーダンの和平に働きかけてほしいなと

激しい戦闘が始まって3週間余り。停戦期間中も銃声が鳴りやまず、依然、不透明な情勢が続くスーダン。今も戦火にさらされている人たちのためにも1日も早い和平が求められている。
(テレビ西日本)