新型コロナと戦う医療現場を下支えした「宿泊療養施設」。その任務も5月8日で終わりを迎えた。100件近い結婚式の予約をすべて断り、約2年間、新型コロナ感染者を受け入れてきた広島市内のホテルを取材した。

100件近い結婚式を断る決断

オリエンタルホテル広島・引原史博 総支配人:
最初はコロナというものが怖くて、われわれもスタッフも全員ビクビクしながらやってて…

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広島市中区、平和大通り沿いにある「オリエンタルホテル広島」。2023年5月8日までの約2年間、新型コロナ感染者の宿泊療養施設として協力してきた。

広島で初めて新型コロナの感染者が確認されたのは2020年3月。その後、感染者は増減を繰り返しながらも全国的には増加の一途をたどった。そして、県から初めて連絡を受けたのは東京や大阪などに3度目の緊急事態宣言が発出された2021年4月末。「明日からでも貸してほしい」という依頼だった。

オリエンタルホテル広島・引原史博 総支配人:
びっくりしました。その場で全部決めないとというか、その場ですべてが決まっていきましたね。われわれが受けなかったら、亡くなる方が何人も出るんだろうと思ったので

引原総支配人は、「宿泊療養施設」として協力することを決断した。すでに受け付けていた100件近い結婚式の予約を断ったほか、宿泊や宴会、レストランの受け入れをすべて休止した。

「宿泊療養施設」になった後、臨時休館が続いた
「宿泊療養施設」になった後、臨時休館が続いた

オリエンタルホテル広島・引原史博 総支配人:
一番早い結婚式が2週間後に控えていたので、その方々にお断りしないといけないことは一瞬考えました。社内から「総支配人、何を考えてるんですか!お客さんを何だと思っているんですか!」という反発は当然あったんですけど、人の命には代えられない…そこが判断した一番大きな理由です

ホテルの宴会場は輸液センターに、廊下にも医療器具などが並び、ホテルは様変わりしてしまった。

輸液センターとして使われたホテルの宴会場
輸液センターとして使われたホテルの宴会場

ホテルからスタッフへ“粋な計らい”

ホテルに宿泊する療養者を直接支えたのは、県が委託した医療班や生活支援班と呼ばれるスタッフたち。

ホテルに滞在する医療班と生活支援班のスタッフ
ホテルに滞在する医療班と生活支援班のスタッフ

生活支援班スタッフ:
コロナに対する意識は今と全然違って、まだ未知のウイルスだという感じがありました。スタッフの中には、家族に言えない人もいました

感染者数が増えると宿泊療養者の数も増える。療養者が1日40人近く入る日が続いたこともあった。生活支援班のスタッフは、その合間に140人分の弁当を配らなくてはいけない。

生活支援班スタッフ:
数日で辞めるスタッフも多々おりましたね。最初の1年は戦々恐々とやっていたところがあります

泊まり込みで家にも帰れないスタッフの力になればと、ホテル側は粋な心配りを見せた。感染者への対応が少し落ち着いた2021年のクリスマス。運営スタッフへの感謝を込めて、全員をクリスマスランチに招待したのだ。

ホテル側がスタッフへ用意したクリスマスランチ
ホテル側がスタッフへ用意したクリスマスランチ

生活支援班スタッフ:
思いもよらないことで大変うれしかったです。それ以降は声をかけやすくなって、ホテル側といろんなことが通じるようになりました

生活支援班スタッフ:
ホスピタリティが違うなっていうか、すごいなって。ホテルの対応を参考にして療養者さんにも接したいなと思いました

オリエンタルホテル広島・引原史博 総支配人:
ごはんがおいしかったら仕事もしっかりしてもらえるし、頑張ってもらえるかなという思いは大きかったですね

“持ち出し”で療養者へ特別メニューも

ホテル側の心配りは宿泊療養者へも向けられていた。宿泊療養者に提供された食事は、療養中の7日間、同じ料理にならないように和食、洋食とバラエティに富んだメニューを構成。ある日の夕食は、さわらの甘酢あんかけ、煮込みハンバーグの温野菜添えなど全7品が詰められた弁当だった。

煮込みハンバーグの温野菜添えなど全7品の夕食とお品書き
煮込みハンバーグの温野菜添えなど全7品の夕食とお品書き

「お品書き」の最後の一行には、毎回、違うメッセージが添えられている。「1日も早く元気になりますように」「よい睡眠がとれますように」など、いつも療養者を気づかう内容だった。

ホテル側の“持ち出し”で、特別に用意したメニューもある。クリスマスにはチキンとチョコレートケーキ。お正月には田作りや黒豆の煮物、栗きんとんなど、新年の健康を祈って小さなおせち料理を添えた。

ホテル側の“持ち出し”で療養者へ提供された特別メニュー
ホテル側の“持ち出し”で療養者へ提供された特別メニュー

オリエンタルホテル広島・岡竹正和 総料理長:
療養者が少しでも元気になれるメニューを考えて、温かい料理やおいしいものを作ろうといつも心掛けてます。普通のお客さんと一緒なんですね

食後に届く感謝の手紙

オリエンタルホテル広島・引原史博 総支配人:
お弁当の後によくお礼のお手紙をいただいておりました。おいしかったとか、うれしかったと書いてくれた方もいました。療養されている方は基本的にずっと部屋にいて、お弁当を取りに行く時しか部屋の外に出られないので、楽しみは本当にお食事だけだと思うんですよね。お弁当1つでも何かおもてなしができないかと、ホテル側で試行錯誤して考えました

ホテルマンの矜持である。

新型コロナの法律上の扱いが5類へ移行した5月8日、宿泊療養施設としての役割は最終日を迎えた。

生活支援班スタッフ:
やっとコロナが終わるっていう安心感もありますが、個人的には寂しいなって気持ちもあります。もうずっとここに住んでたので

生活支援班スタッフ:
本当にあっという間でした。やっぱり、やりがいがあったと思います

新型コロナと闘った約2年の日々。そのブランクを経て、ホテル再開に向け動き出している。

オリエンタルホテル広島・引原史博 総支配人:
楽しみにしている方たちの期待を裏切らないように、精一杯準備してオープンしたいと思います

誰かが引き受けなければならなかった大役を終え、本来の姿に戻った「オリエンタルホテル広島」は7月1日にリニューアルオープン予定だ。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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