福岡県は、暴走族のバイクなどによる騒音苦情の110番通報が毎年2,000件前後と、全国ワーストレベルの多さだ。迷惑な暴走族に向けて福岡県警が公開したSNS動画が、今話題になっている。
迷惑な暴走行為にストップ
最大9連休のゴールデンウィークが幕を開けようとしていた、4月28日の金曜日の夜。世の中が浮き足立つ中、福岡市では福岡県警本部長立ち会いのもと、事故を未然に防ごうと交通取り締まりが行われた。

中でもGW中に毎年強化しているのが、爆音走行の取り締まりだ。福岡県では、暴走族が爆音をとどろかせながら道路を我が物顔で走っていて、県民は平穏な生活が乱される現状が続いている。
そんな迷惑な暴走族に向けて福岡県警が公開したSNS動画が、今話題になっている。

◆『STOP爆音走行!』(制作・福岡県警)
*「バイクを走らせている本人は『気持ちのいい音』だと思っていても、あなたが走ってる周囲の住人にとっては、ただの騒音でしかないのです」
*「違法改造は本人が罰せられるだけではなく、全く関係ないさまざまな人々に多大な迷惑をかけてしまいます」
*「STOP爆音走行!」

眠たげな猫が驚く様子や、暴走音を「ズドドドド!グォン!グォン!」と表現するなど、暴走行為をからかっているかのようにも見える啓発映像。制作意図について福岡県警に尋ねた。

福岡県警交通指導課・井上秀晴警部:
正直、暴走族をイジってるとは明確には言えないが、一般の県民の方が思っているところを表現できているのではないかなとは捉えている。1月から3月までで500万回以上の表示回数。非常に反響を頂いている。暴走族というのは迷惑な集団でしかない
福岡県警と暴走族…闘いの歴史
福岡県内の暴走族の数は2022年の時点で5グループ、合わせて368人。現在下げ止まりが続いているが、この状況に至るまでには長きに渡る福岡県警と暴走族の闘いの歴史があった。

◆『テレポートTNC』(当時のニュース特集 1980年7月放送)
アナウンサー「全国的な暴走族の動きは、この夏に入って一層凶暴化し、昨日、政府は警察の取り締まりだけでは限界にきたとして、緊急対策会議を開いて対処しています。福岡県警では、昨年取り調べ中の警察官がはね殺されて以来、取り調べを強化。今年に入って昨年並みの1,748人を検挙、うち222人を逮捕しています」

1970年代、全国的に暴走族が急増するなか、福岡でも次々に暴走グループが誕生。1979年には58グループ、合わせて約2,600人が県内で暴走行為や勢力争いを起こし、社会問題となっていた。
◆県警取り締まり(当時のニュース特集 1979年9月放送)
警察官「名前は何ていうとか?」
暴走族「(警察官に)お宅、名前なんていうと?」
◆県警取り締まり(当時のニュース特集 1981年7月放送)
警察官「これ(凶器)は絶対いかん、押収しない(といけない)」

福岡県警は「暴走族根絶」を掲げ、取り締まりを強化。1980年代には大規模な暴走族グループを次々に解散へと追い込んだ。
◆暴走族解散式(当時のニュースから 1980年1月放送)
「このグループを解散することはもちろん、安全運転に務めることを誓います」
◆暴走族解散式(当時のニュースから・北九州市 1989年12月放送)
「この度、警察から強いご指導を受け心から反省し…」
ところが1990年代に入ると状況が変わる。

◆『捜査最前線』(当時のニュースリポート 1998年11月放送)
アナウンサー「数年前、暴走族といえば数十台が長蛇の列を作り、猛スピードで走るのが主流で、また、警察の取り締まりも封鎖ネットやバリケードを使った強制的な手法が主でした。しかし最近の暴走族は少人数でゲリラ的に現れ、身軽な暴走を繰り返すのがほとんどです」
1990年代に、暴走族は警察から動きがつかまれやすい大人数の暴走から、少人数でゲリラ的に暴走するスタイルが主流になった。

さらに暴走に使用するバイクの大半が、いざとなれば乗り捨てて逃げやすい盗難車。警察の取り締まりが強まれば別の場所で暴走を開始するなど、暴走族はより悪賢いものに変貌していったのだ。
◆ゲリラ暴走族インタビュー(当時のニュース 1998年11月放送)
記者「走るのは、だいたい土曜日?」
暴走族「土曜日やね」
記者「なんで土曜日?」
暴走族「警察が多いけん」
記者「警察多かったらどうするの?」
暴走族「面白いけん、それだけ対抗できるけん」

このゲリラ暴走族に対して福岡県警は地道なカメラ撮影などで対抗。暴走行為の証拠を押さえ、摘発につなげていった。

こうした地道な捜査が実を結び、2000年に入ると暴走族の人数は一気に減少。グループの数は2017年から一桁にまで減少した。
「イジってるわけではないですね」
しかし、暴走族根絶を目指す福岡県警は手を緩めない。取り締まるだけではなく、暴走族の気持ちを揺るがす「あるメッセージ」を届ける作戦に打って出た。2020年、福岡県警は「暴走族=かっこわるい」のメッセージを込めてポスターを制作した。

*「かっこわるい!!」
*「暴走族を見て思うことあるある」
*「地元しか知らないのに地元最高」
*「大勢だと音出すくせに1台だとおとなしい」
*「人生という道に迷っている」

県警が暴走族に対して大真面目に届けたメッセージは大きな注目を集めた。

福岡県警交通指導課・井上秀晴警部:
これもかなり反響を頂いていて、「核心をついている」とか、「本当のことを言うのはかわいそうだ」とか、そういったところもあります。批判的な意見もありましたけど、おおむね「暴走行為は悪い」と「カッコ悪い」という評価につながっている。イジっているわけではありません。結果としてイジってる可能性はありますけど、イジってるわけではないですね
このポスター作戦の成功から福岡県警は「暴走族=かっこわるい」のPR戦略を継続して採用。その最新作がVTR「STOP爆音走行!」だった。

しかし、県警から再三「暴走族はかっこわるい」と言われ続けながらも、なかなか減らない暴走行為。SNSでみられる「ナイツーやりませんか?」との書き込み。この「ナイツー」とは『ナイトツーリング』の隠語で「夜に集団暴走をやろう」との呼びかけだ。これまでは、地域や学校単位、先輩後輩の関係で集まって行われていた暴走行為だが、いまでは、たとえ面識がなくても若者同士で集まり、即席の暴走グループを結成する。警察への騒音の通報はいまだゼロになる気配がないのが現状でもある。

福岡県警交通指導課・井上秀晴警部:
県民の方々からは、日夜「暴走族がうるさい」とか、そういった苦情、取り締まりに関する要望も多々寄せられている。県警としては県民の方々の生活を守るため、平和な睡眠を守るためにしっかり取り組んでいきたいと考えています

長きに渡る暴走族との闘いの歴史。福岡の街から騒音がなくなるその日まで、福岡県警は歩みを止めることはない。
(テレビ西日本)