祝賀ムードの陰に危機説
英国王チャールズ3世の戴冠式が5月6日行われ、英国は祝賀ムードに包まれていると伝えられるが、その陰で英王室の危機説が広がっているのも確かだ。

英王室危機説はかねて取り沙汰されていたが、ここへきてその風評に火をつけたのが4月16日の英紙「サンデー・エキスプレス」の記事だった。
「英王室、崩壊寸前」
一面の全面に大きな見出しを掲げたその記事は英国のシンクタンク「キビタス」の調査分析に基づくもので、英王室の公務への従事が著しく減っておりこのままだと「存在感を失ってひっそりと崩壊してしまう」というものだ。

「キビタス」の調査によると、英王族がテープカットや国民との握手などをする公務に従事したのは昨年は2079回に過ぎず、2014年には3338回に上ったのが40%近くも減ってしまった。
その背景にはエリザベス女王やフィリップ殿下の死去、ヘンリー王子の米国への移住さらにヨーク公(アンドルー王子)がスキャンダルで公務を離脱していることなどが挙げられるが、それだけでなく王族の高齢化も公務従事を妨げていると「キビタス」は指摘する。
事実、エリザベス女王の従弟のケント公は87歳、その妹のアレクサンドラ王女は86歳、やはりエリザベス女王の従弟のグロスター公夫妻はそれぞれ78歳と76歳で、このままだと王族の公務への従事は「10年後には1000回に減るかもしれない」と「キビタス」は予想する。

「その存在を目にすることこそが信頼につながる」
エリザベス女王はこう信じて公務に励んだと伝えられるが、王族の公衆との接触がなくなれば「王室の終焉にもつながる」という王室問題の作家マーガレット・ホールダーさんの談話も「サンデー・エキスプレス」紙の記事は紹介している。
エリザベス女王時代にはほとんど見られなかった反王室運動も盛んになり、チャールズ国王が公務で訪れる先々で反対派グループによるデモが起き「ノット・マイ・キング(私の王ではない)」と書かれたプラカードを掲げて抗議するのが常態化した。(米ワシントン・ポスト紙)

さらに2日には、バッキンガム宮殿へ散弾銃の薬莢を投げ込んだ男が取り押さえられるという事件も起き、犯人の男は「国王を殺してやる」と叫んでいたと伝えられた。
世論調査会社Ipsosの最新の調査でチャールズ国王に対する英国民の信頼度は49%で、昨年9月王位を継承した時の61%から大幅に下落している。
キャサリン妃の人気が鍵を握る?
こうした英王室に対する反感を鎮める役割に、今期待をかけられているのがウイリアム皇太子夫人のキャサリン(愛称ケイト)妃だ。

「ケイト(キャサリン)・ミドルトン無くして王室は崩壊する」(デイリー・ミラー紙電子版3月15日)
英国の大衆紙ミラー紙の記事は、ダイアナ妃の執事だったポール・ブレル氏の言葉を引用して「王室の将来はケイト(キャサリン)妃の双肩にかかっており、すべては彼女しだいだ」とする。
そのキャサリン妃はウイリアム王子が王位法定推定相続人の「ウェールズ公」となったのに伴って、「ウェールズ公妃」と義母のダイアナ妃と同じ称号で呼ばれることになり、今なお根強いダイアナ妃の人気を継承することになった。

「かつて英王室の将来はダイアナ妃しだいだと言われた。そして今もう一人のウェールズ公妃が王室の将来を決すると期待をかけられている。しかしそれは決して羨むようなことではないのだ」

ブレル氏はこうキャサリン妃の責任が重いことを指摘するが、キャサリン妃もそれは重々承知しているように見える。

6日の戴冠式で、キャサリン妃は冠ティアラの代わりに銀とクリスタルで葉を模した髪飾りをつけたのが注目された。王室の権威をなるべく示さないよう配慮したものと言われたが、これも王室と国民の隔たりを埋める努力の表れだったのだろう。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】