自民党の茂木幹事長は、4月30日から5月6日まで、アメリカ、メキシコ、キューバの3カ国を訪問する。アメリカの首都ワシントンDCでは、ブリンケン国務長官などと面会。将来の「総理・総裁」を見据えて、アメリカの政府関係者らに対し、「ポスト岸田」の有力な候補者として、自身の存在をアピールしたい考えだ。

「首相候補者」のワシントン訪問は、菅前首相が官房長官時代に訪米した1年後に首相に就任するなど、“後継としての顔見せの場”としての意味合いを持つだけに、存在感を示せるかがカギとなりそうだ。

中華で幹事長室の議員を慰労 きめ細やかな仲間作り

外遊出発前の4月27日の夜、港区・麻布十番の中華料理店には、茂木氏や梶山幹事長代行のほか、幹事長室の議員が集った。乾杯の音頭をとった梶山氏は、「幹事長のもとで、皆でまとまってやっていこう」と語り、茂木氏も直前に行われた衆参5補選の結果について「3勝2敗だと思っていたが、4勝できたのは大きい」と仲間を労った。

この日は党4役と会合を行った(26日夜・都内)
この日は党4役と会合を行った(26日夜・都内)
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会合は前半国会や衆参補選の慰労会との位置づけで行われたものだが、この前日にも、萩生田政調会長や森山選対委員長ら党4役と、さらに前々日には茂木派の幹部らとの慰労会を行うなど、自身を支える仲間との会合を定期的に行っている。

こうした茂木氏の姿勢に「面倒見がよく、一生懸命気配りをしている」と評価する声も上がる。

「『ポスト岸田』の待望論広がっていない」

1955年(昭和30年)栃木県足利市に生まれた茂木氏(67)は、アメリカのハーバード大学を卒業後、大手戦略コンサルティング会社を経て、1993年に初当選。これまでに、外相、経済再生相に加えて党の選対委員長、政調会長などを歴任してきた。現在は、平成研究会(旧竹下派)・茂木派のトップとして、54人の所属議員を束ねる立場にある。

2021年に幹事長に就任して以降、「ポスト岸田」の最有力候補と言われるようになった。岸田首相や安倍元首相とは当選同期だ。

茂木氏は幹事長就任後、2022年の参院選での勝利や旧統一教会をめぐる救済新法成立に向けた与野党との調整など、その手腕が評価され、次第に茂木氏の動向に注目が集まるようになった。しかし現在の「茂木評」について、茂木派に所属する議員からは「幹事長就任時のような『ポスト岸田』の待望論は広がっていない」との指摘も出ている。

少子化対策が摩擦材料に…

岸田首相が「次元の異なる少子化対策」を打ち出す中、1月25日の衆院本会議で代表質問に立った茂木氏は、中学生以下の子どものいる世帯に支払われる児童手当について「所得制限を撤廃すべきだ」と主張。さらに3月20日、視察先の福島県では「小中学校の給食費無償化」を打ち出した。実は、少子化対策は、茂木氏にとって自身の政権が実現した際に柱に据えたい「政権構想」そのものだ。

視察先の福島県では「小中学校の給食費無償化」を打ち出した(3月20日)
視察先の福島県では「小中学校の給食費無償化」を打ち出した(3月20日)

岸田政権の少子化対策のたたき台には盛り込まれなかった「N分N乗」の税制政策を主張したのも積年の思いによるもので、こだわりが強い。

茂木氏の周辺は「維新と国民を取り込んだ上での発言だ。舞台回しの課題について、自らアジェンダを作った」と評価するものの、それが「裏目」に出る副作用も生まれた。

茂木氏の「少子化対策」の突然の打ち出しに対して、首相周辺は「どうしちゃったのか。茂木氏が何を考えているのか分からない」と話すほか、党の政策調整の責任者である萩生田政調会長も「領空侵犯だ」と周囲に不満をこぼすなど、摩擦が起きている。

幹事長続投かが焦点に

茂木氏がトップを目指す上で焦点となるのが、“1期1年・連続3期”といわれる幹事長を続投するかどうかだ。現在茂木氏は2期目で、任期満了まであと1年。岸田首相が次の人事でも幹事長をこのまま続投させれば、来年の秋に行われる総裁選には出馬しづらくなる。

首相周辺は「幹事長を辞めさせれば自由に動く」と牽制しているが、茂木氏が続投の打診を断る可能性もゼロではない。

岸田内閣の支持率は8カ月ぶりに5割台を回復(FNN世論調査より)
岸田内閣の支持率は8カ月ぶりに5割台を回復(FNN世論調査より)

FNNが4月22・23日に行った世論調査では、岸田内閣の支持率は、8カ月ぶりに5割台を回復。「支持する」理由のなかで最も多かったのが「他によい人がいないから」の46.8%。岸田政権の継続を求める声が大きいことを裏付ける結果となった。茂木派の議員の1人は「今は時を待つ時期だ」と言うが、「茂木氏は“待つ”タイプではない。仕掛けるタイプだ」との声もある。

1月の世論調査では、「岸田首相の次の首相にふさわしい人」について、茂木氏は1.1%と、河野デジタル相(19.7%)などと比べ知名度の低さが数字にあらわれた。茂木氏はこの結果について、周囲に対して「(総裁選に)出ないと(数字は)上がらないよね」と語った。総理の座をうかがう茂木氏が、どうするのか。今日から始まる外遊で、存在感を示せるか。勝負の時を見極めている。

(フジテレビ政治部)            

政治部
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日本の将来を占う政治の動向。内政問題、外交問題などを幅広く、かつ分かりやすく伝えることをモットーとしております。
総理大臣、官房長官の動向をフォローする官邸クラブ。平河クラブは自民党、公明党を、野党クラブは、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会など野党勢を取材。内閣府担当は、少子化問題から、宇宙、化学問題まで、多岐に渡る分野を、細かくフォローする。外務省クラブは、日々刻々と変化する、外交問題を取材、人事院も取材対象となっている。政界から財界、官界まで、政治部の取材分野は広いと言えます。