対ロ・対中でアフリカの「グローバル・サウス」と連携強化へ

岸田首相は、大型連休の4月29日から5月5日まで、7日間の日程でアフリカ諸国などを歴訪する。訪問先は、アフリカのエジプト・ガーナ・ケニア・モザンビークと、帰路に立ち寄るシンガポールの5カ国。このうちのアフリカ各国は、「グローバル・サウス」と呼ばれる新興・途上国で、経済規模の拡大などを背景に、今、注目度の増している地域だ。

岸田首相は歴訪に先立ち、「G7広島サミットが5月に迫る中、議長国として法の支配に基づく国際秩序の維持と強化にリーダーシップを発揮する」ため、「グローバル・サウスの声に耳を傾け、関与を強化していくことが重要だ」と強調している。

5月19日から21日まで広島市でG7サミット(主要7カ国首脳会議)が開催される。岸田首相はサミットで、ウクライナ侵攻を続けるロシア、力による現状変更を試みる中国に対し、“法の支配と民主主義の重要性”を確認する方針だ。

2022年6月 ドイツ・エルマウにて開催されたG7サミット
2022年6月 ドイツ・エルマウにて開催されたG7サミット
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首相周辺は、「アフリカのような民主主義基盤の弱い国に対して、法の支配や民主主義が『自分たちを守るプロテクションになる』ことを理解してもらうことが重要だ」と話す。今回の歴訪は、日本やG7の方針に対し「グローバル・サウス」の理解を得ることが狙いだ。

日本が支援続けるも…アフリカの「微妙なバランス外交」

日本は、1993年から「TICAD(アフリカ開発会議)」という開発がテーマの国際会議を主導し、投資や支援を通じて、アフリカとの関係強化につとめてきた。

2022年にチュニジアで開催された前回の会議で、岸田首相は、日本が「アフリカとともに成長するパートナー」として「持続可能な成長に向けて協力をしていく」方針を示している。

しかし、外交で“法の支配と民主主義”でアフリカ諸国と連携できるかと言えば、一筋縄にはいかない。ある政府高官は「微妙なバランスで成り立っている国々がグローバル・サウスと言えるかもしれない」と話す。つまり、米欧と中ロの双方と「バランス外交」を展開し、中間的な立場をとる国々が多いということだ。

経済で影響力強めるロシア・中国 「金銭支援合戦」になっても…のジレンマ

例えば、最初に訪問するエジプトは、ウクライナ侵攻には当初から反対の意を示しつつも、ロシアと経済的なつながりが深い。

パン食が主流のエジプトは、世界有数の小麦輸入国だが、その約6割をロシアやウクライナに依存している。ウクライナ侵攻を受けて小麦価格が高騰し、深刻な食糧危機に直面している中、ロシアは「エジプトへの小麦輸出」を外交カードにしているとの指摘が出ている。

また、「エジプトがロシアへのロケット弾供与を極秘裏に進めていた」との疑惑が米メディアによって報じられた。エジプト政府はこの疑惑を否定しているが、政府関係者は「ロシアにべったりの姿勢ではないが、軍事的協力関係にある国と言える」と話す。

エジプトと経済的なつながりが深いロシア、中国は巨額資金でアフリカへの影響力を拡大
エジプトと経済的なつながりが深いロシア、中国は巨額資金でアフリカへの影響力を拡大

一方、一帯一路構想を掲げる中国は、エジプトに巨額の資金を投入し、アジアとアフリカを結ぶ鉄橋建設計画をはじめ、大規模なインフラ開発に力を入れている。このような中国の動きは、エジプトにとどまらず、今回岸田首相が訪問する東側の沿岸国、ケニアやモザンビークにも及んでいる。中国は、莫大な資金力を背景にアフリカへの影響力を拡大しているのが実情だ。

こうしたロシアや中国の動きに対し、日本政府は、「グローバル・サウス」に対し、食料安全保障を強化するための資金援助や、G7と連携してインフラ整備を進める新たな投資枠組みの創設などの対応を取っている。

政府関係者は「金銭的な支援合戦になっても仕方がない」と本音を口にする。その上で、「単にお金を配るだけではない、成長に資する協力ができることが日本の強みだ」と強調する。技術協力をはじめ、文化・教育・保健の分野などでの長期的支援が日本の特長だというのだ。

「説教でなく寄り添う」サミットに向け日本の強み生かせるか

首相周辺は、アフリカ諸国を「一朝一夕にG7や欧州側に引き込むことはできない」とする一方、重要なのは「説教をしに来たと思われることを避けること」で、「寄り添う姿勢」を示すことだと説明する。

また、別の関係者は、日本の欧米との歴史的な立場の違いが強みになると指摘する。つまり、侵略と占領の歴史が繰り返されてきたアフリカ諸国は、G7をはじめ欧米に対しては良い印象を持っていないが、日本はそうした歴史のないG7唯一の国であるため、「アフリカと欧米の懸け橋になってほしいというG7の期待感も大きい」というのだ。

欧米との歴史的な立場の違いが強み。日本は「寄り添う」外交でアフリカ諸国との懸け橋になれるか
欧米との歴史的な立場の違いが強み。日本は「寄り添う」外交でアフリカ諸国との懸け橋になれるか

今回の歴訪は、エジプトやケニアというアフリカの大国を訪れる一方、国連安全保障理事会の非常任理事国を務めているガーナやモザンビークも訪問する。首相周辺は「アフリカを東西南北の面で抑えることを意識したチョイスになった」と話す。

日本の「寄り添う」首脳外交で、ロシア・中国に対抗する“法の支配による国際秩序の維持・強化”への協力を取り付けることができるのか。来月のG7広島サミットの成否を占う上でも重要な歴訪となりそうだ。

(フジテレビ 政治部官邸クラブ 亀岡晃伸)

亀岡 晃伸
亀岡 晃伸

イット!所属。プログラムディレクターとして番組づくりをしています。どのニュースをどういう長さでどの時間にお伝えすべきか、頭を悩ませながらの毎日です。
これまでは政治部にて首相官邸クラブや平河クラブなどを4年間担当。安倍政権、菅政権、岸田政権の3政権に渡り、コロナ対策・東京五輪・広島G7サミット等の取材をしてきました。