地元に親しまれている寺でプロジェクションマッピングをしたら、街が盛り上がるのではないか。新型コロナで名物の花火大会の中止が続いた頃、高校のパソコン部が考えた。大人たちも応援して2023年4月に実現し、街の四季などの映像は観客を魅了した。
始まりは高校生「袋井を元気にしたい」
この記事の画像(25枚)空間や建物などに映像を映し出すプロジェクションマッピング。
2023年4月9日、厄除け観音として知られる静岡県袋井市の「法多山尊永寺」の本堂に幻想的な映像が投影され、訪れた人たちを魅了した。
袋井高校パソコン部・永井駿矢副部長:
開催日の4月9日まで、残り日数は25日となりました
プロジェクションマッピングの制作に向けて、3月中旬 袋井高校パソコン部の生徒たちが話し合っていた。
始まりは、「袋井を元気にしたい」と声をあげた1人の高校生。
袋井高校パソコン部副部長の永井駿矢さんだ。
新型コロナウイルスの影響で、袋井市の一大イベント「ふくろい遠州の花火」が、3年連続で中止になったことがきっかけだった。
袋井高校パソコン部・永井駿矢副部長:
袋井市の魅力が伝わる機会が減少してしまったと思って、学生として地域を盛り上げられるような企画をやっていきたいと思い、今回のプロジェクトを立ち上げた
永井さんは袋井の魅力を伝えるイベントをしたいと思っていた時に、YouTubeで見たプロジェクションマッピングに惹かれた。
2022年8月 9枚にわたる企画書を作成し、その思いを袋井高校パソコン部の顧問や校長に伝えた。その情熱は、部員はもちろん、大人たちも動かした。
高校生の夢を大人が応援
「高校生の夢を応援したい」と、環境問題に取り組む地元の一般社団法人が支援を約束してくれた。生徒たちが映像制作に集中できるよう、学校や市と連携して、資金集めや広報活動などを引き受けた。
一般社団法人ペイフォワード静岡・鈴木功三理事:
すごいなと思って、自分たちが高校の時にそんなことを考えられたかと思うと。コロナの中でたまってきたエネルギーが(永井さんに)提案させたのかと思って、ぜひ形にしてあげたいと思った
会場は生徒の希望で、袋井市を象徴するお寺の1つの法多山尊永寺に決まった。
法多山尊永寺・大谷純應住職:
僕も袋井高校のOBだけど、高校生が街のみんなと一緒に頑張って、自分たちの夢を実現しようということを、この法多山でやってもらえるのが一番うれしかった
ふるさと納税を活用したクラウドファンディングに加え、約100の企業や団体が協賛し、あわせて300万円ほどが集まった。
パソコン部員も“挑戦”を楽しむ
袋井高校のパソコン部は部員21人で、ふだんはパソコンの資格取得にむけた活動などをしている。最初は不安を感じていた部員たちも挑戦への意欲が高まってきた。プロジェクションマッピングは初めてで、インターネットや本で作り方を調べた。
部員:
何か挑戦できることが増えておもしろいし、うれしい
部員:
永井副部長の願いが強かったから、叶えてあげたいと思ってやる気になった
近藤優樹部長:
部員のみんなが頑張っている姿に後押しされて、絶対できると確信した
映像で表現するのは、花火や桜といった「袋井の四季」だ。
永井副部長:
(花火は)一定のパーン、パーン、パン、パンよりも…
部員:
パーン、ズッタン、ダッタ、みたいな感じ? 同じ25フレームでも構わない?
永井副部長:
大丈夫
タイミングや色の調整に試行錯誤する生徒たち。
映像は本堂の模型に投影して確認する。パソコン部顧問の教師が、写真をもとに木と段ボールで精巧な模型を作ってくれた。
パソコンの画面上ではきれいに見える映像も、投影する物の形や色で見え方が変わる。
部員:
(藤の花なのに)いまの色だと南国のハイビスカスみたい
永井副部長:
もうちょっと、紫を濃くした方がいい?
目指す作品に近づけるには、時間がかかる。
本番前日の8日、会場では設営作業と最終調整が行われた。作品はなんとか仕上がったようだ。
永井副部長:
本番ギリギリまでの調整にはなってしまったけど、皆さんに感動を届けられるような作品になったと、実感している
8分間の映像が2000人を魅了
4月9日 本番当日だ。市の広報でも紹介してもらい、会場には2000人以上が集まった。
本堂の形に合わせて浮かび上がった幻想的な映像。「袋井の四季」をテーマに作られた約8分間の映像だ。
9月の新月の夜に、法多山で行われる「星満夜(ほしみつよ)」。照明を落とした本堂前で美しい星を観賞するイベントを再現した。
色の調整に苦労していた藤の花も、きれいに本堂の屋根に飾られた。
そして袋井の自慢「ふくろい遠州の花火」。
新型コロナによる中止を経て、2023年は4年ぶりに開催される。大会テーマは、「全国から花火名人が再集結!ふくろいの夜空に再点火」と決まった。
観客:
きれいで、一年間 法多山に来たことを全部思い出して、すごくたのしかった
観客:
嫌なことも忘れて、あすからまた頑張ろうという気になった
袋井高パソコン部・永井駿矢副部長:
多くの方々が来てくれて、終わった後に拍手してくれた時に心の底からありがたいという気持ちがあり、本当に感動した。私たちだけではできない部分を地域の方々がサポートしてくれて、ありがたかった。高校生活には二度と戻れないし、その高校生活の中で一番の思い出となりました
1人の高校生の思いから始まったこのプロジェクト。
地域を巻き込みながら自分たちの思いを実現させた経験は、生徒たちにとって人生の糧となっていくはずだ。
(テレビ静岡)