23日投票の東京都区長選挙で3人の女性候補が当選し、女性区長は過去最多の6人となった。これに先駆け昨年12月、東京・品川区で初の女性区長となったのは、元都議会議員の森澤恭子さんだ。森澤さんに今回女性が躍進した背景や女性の政治参加を阻む壁、そして新たな区政への取り組みについて聞いた。

「多くの女性候補が挑戦し有権者の選択肢に」

「今回多くの女性候補が挑戦し、有権者の選択肢となったことが大きな一歩だと感じます」

こう語るのは品川区で女性初の区長となった森澤恭子さんだ。今回都内では豊島区、北区、江東区のほか東大和市でも女性の首長が誕生した。

森澤さんはこう続ける。

「そして、様々なバックグラウンド持つ女性がリーダーとなることで、また後に続く女性が出てくる。その好循環で女性の政治参画が進み、多様な視点が政策に反映され、より良い社会へとつながっていくのではないかと思います」

品川区で女性初の区長となった森澤恭子さん
品川区で女性初の区長となった森澤恭子さん
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なぜ都内では過去最多の6人の女性区長が誕生したのか。その理由を森澤さんはこう話す。

「東京都の場合は小池知事がいらっしゃって、女性がリーダーになることに一定の理解があると感じます。また数年前に森元首相のあの発言もあって、ジェンダーギャップについての世論が盛り上がってきたということもあります。そうした流れの中で昨年6月に杉並区で女性区長が誕生して、女性が区長になるっていう選択肢もあるのを、​有権者の方々が認識してきたと思うんですね」

「子育てママの声を都政に反映できたら」

森澤さんに初めて取材したのは、都議に当選したばかりの2017年8月。都民ファーストから出馬した森澤さんは、元日本テレビ政治部の記者でベンチャー企業などを経て都議になった。当時森澤さんは「子育てママの声を都政に反映できたら」と語っていた。そして2期目は無所属として再選したが、任期途中で品川区長選に立候補を決めたのだった。

森澤さんは都議2期目の選挙を無所属で闘った
森澤さんは都議2期目の選挙を無所属で闘った

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昨年の区長選を通して女性の政治参画が難しいと感じた点を聞くと、森澤さんは「早朝から夜遅くまで政治活動をするのが前提となっている」ことだと答えた。

「都議時代から言っているのですが、女性はまだまだ子育てや介護を担う部分が多く、さらに体力的な面で難しい点もあります。私自身も小学生の子どもが2人いて、朝早くから夜遅くまで活動することはできませんでした。ですから有権者の皆さんには活動量だけではなく、政策や考え方で判断してもらえたと思っています」

「無所属なので自分で工夫しながら選挙をできた」

森澤さんは区長選に政党の支援は受けずに立候補した。選挙戦で政党や組織の支持支援を受けられないのは圧倒的に不利である。ただ森澤さんには逆転の発想があった。

「私は無所属なので、特に誰かから活動について指示されることが無く、自分で工夫しながらやることができました。自分なりのやり方が有権者にどう判断されるかは自分の責任なので、割り切ってできる部分があったと思います」

品川区長選には無所属で立候補した
品川区長選には無所属で立候補した

選挙中は特に若い世代や女性からの応援が大きかったという。

「20代の若い人たちを中心にボランティアが日に日に増えて、すごくありがたかったです。これまで政治に関わったことがない人も多かったかなと思います。また区政を担ってから感じるのは、これまで社会のあり方に疑問を感じていたご高齢の女性や地域で活動している女性たちが、女性のリーダーに期待してくれていて『頑張ってね』と言われることが多いですね」

「女性は勇気をもって政治に踏み出してほしい」

品川区では今年度、0歳児のおむつ宅配や小中学校の給食費無償化、第二子の保育料無償化、そして高校生までの医療費無償化を始める。

「私が掲げているのが、『誰もが生きがいを感じ、自分らしく暮らしていける品川』です。『区民の幸福(しあわせ)』のために様々な政策を進めていきたいと思っています。そのためにも区職員が『自分らしく』働くことができる環境を整えていくことも大切で、働き方を柔軟にしていくこともひとつの課題です。また、区民のみなさんに日常的に区政に関心を持ってもらうために、月一回程度の定例記者会見を行ったり、SNSでも積極的に発信するなど取り組んでいます」

品川区では子ども子育てのため様々な取り組みを行っている
品川区では子ども子育てのため様々な取り組みを行っている

女性の政治参画について森澤さんは「選択肢が増えることは重要」だと語る。

「逆に言うとさらに多くの女性がもう一歩踏み出さないとその選択肢になり得ない。だから子育てとの両立など大変な部分もあるのですが、勇気を持って踏み出してほしいと思います」

ジェンダーギャップ解消が最も遅れている日本の政界を、勇気ある女性たちが変えていく。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。