どの職場にも必ず1人は「嫌な人」がいる。

そんな職場の“嫌な人”から頭のいい切り返し方で、人間関係の悩みをスッキリ解消させる弁護士・後藤千絵さんの著書『職場の嫌な人から自分を守る言葉の護身術』(三笠書房)。

本書では、職場でも見られるケースを26個取り上げ、それぞれのケースで有効な「言葉の護身術」を伝授。今回は、その中から「不機嫌な上司からネチネチ絡まれたら?」「うざい自慢話につかまったら?」を一部抜粋・再編集して紹介する。

改正労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)が施行され、大企業は2020年6月から、中小企業は22年4月から「ハラスメントへの防止措置」が義務づけられました。

しかし、パワハラやモラハラなどのハラスメントは完全になくなっているわけではありません。

パワハラは優越的な地位や立場を利用し、主に上司から部下へ、モラハラは地位や立場に関係なく、同僚や後輩からも行われます。

無視する、陰口を言う、人格を否定する、ミスをしつこく責めるなどは「精神的な嫌がらせ」であり、「大人のいじめ」です。

法律が施行されてもハラスメントがなくなったわけではない(画像:イメージ)
法律が施行されてもハラスメントがなくなったわけではない(画像:イメージ)
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私の言う「言葉の護身術」はそんな彼、彼女らに対して正面から戦わずに賢く勝つ方法です。

そもそも「言葉の護身術」は、相手と直接対決することを目的としていません。職場の嫌な人と正面から張り合っても、メリットはないですし、正論を言っても通じません。

ますますヒートアップするだけで、時間と労力のムダに終わる可能性があり、何もいいことはないのです。

ここからは実例を挙げて、それらに対する護身術に触れていきます。

不機嫌な上司からネチネチ→あえて沈黙

【実例】
大卒で大手ゼネコンに就職して7年目のCさん。希望が通り、適切な部署に配属されるなど、仕事自体には満足しているCさんを悩ませるのが、直属のD課長。

一見温和そうな人物ですが、じつは気分屋で、突然キレて八つ当たりをしてきたり、言いがかりをつけたりすることがよくある。

ある日、D課長はよほど機嫌が悪かったのか、Cさんに「入社何年目だっけ?」「結婚の予定は?」「最近、仕事に身が入ってないよね?プライベートで何か問題でも?」などと、小声でネチネチと絡んできたのです。

本来の仕事とは関係のないことをしつこく聞かれ、Cさんの頭の中で何かがプチッと切れたそうです。

元来、男勝りの気の強い性格ということもあり、Cさんは「さすがに、もう許せない」と覚悟を決めました。

D課長は「職場の嫌な人7つのタイプ」のうち、「自分の思い通りにしたい」という「自己中」タイプ。

つまり、典型的なモラハラタイプの上司なのです。ストレスを他人にぶつける「八つ当たり」タイプにも該当するかもしれません。

最終的には、「これってモラハラですよね」「人事に言いつけますよ!」と全面対決をすることもありでしょう。ただ、客観的な証拠がない状態でそれをするのは、Cさんに不利だと言わざるを得ません。

「モラハラだと言うなら証拠を出せ」と言われますし、最悪の場合は、ますますひどくなる可能性もあります。

そんなときに有効なのが「あえて言い返さずに沈黙する」という護身術。

言いがかりをつけてきたり、理不尽なことを言って侮辱してくる相手には、あえて何も言い返さずに、沈黙する方法が思いのほか効果的なのです。

「積極的な沈黙」は大きな武器

「何も言い返さない」ことも立派な意思表示であり、護身術でもあるのです。

言葉の暴力に対し、あえて言い返さずに沈黙を貫けば、上司の言葉だけが宙に浮いて、空回りすることになります。

すると、上司は焦り始め、大声で怒鳴りつけるかもしれません。ただ、そんなことを気にする必要はありません。

「沈黙」は一見、消極的に思えますが、相手から「主導権」を取り戻すことができる強力な方法です。何も言葉を発しない分、揚げ足を取られることもありません。

一方的に攻撃を受けて沈黙している部下を見て、周囲は何事かと思いますし、場合によっては味方につけることもできるでしょう。

怒られたり、嫌なことを言われたから、しゅんとなって黙ってしまうのとは違い、「積極的な沈黙」は、時にはモラハラ上司を撃退する大きな武器にもなるのです。

「沈黙」の効果を十分にわかったうえで実践できれば、強力な武器を手にしたのも同然。

突発的な相手の攻撃にも大変効果的ですので、ぜひ「沈黙」という武器を手に入れ、使いこなせるようになってください。

「自慢話」につかまったら→教えを乞う

自慢話ばかりしてくる上司に辟易している人も多いでしょう。

「営業成績抜群で、若い頃は“営業部のエース”と言われていた」
「学生の頃は、若気の至りで“やんちゃ”をしていた」
「子どもの頃は秀才と言われていて、中学受験では御三家に合格した」

そんな困った上司から自分を守る言葉の護身術を紹介します。

【実例】
自慢話ばかりする上司に悩んでいたGさん。H部長は、現場を離れて5年以上経ち、現場の苦労など何ひとつわかっていません。

にもかかわらず、最前線で頑張っているGさんたちに口を出してきて、現場をひっかき回します。飲み会に参加するのはいいのですが、酔うと必ず自慢話が始まり、誰かが相手をしなくてはいけなくなります。

まだ現場や部下を支配下におきたいという圧をH部長からは痛いほど感じます。Gさんは、部内では比較的若手の部類に属するため、H部長の自慢話の相手となる役目が回ってくることが多く、いつも対応に苦慮しているそうです。

自慢話をする上司は、承認欲求や自尊心を満たしたいという強烈な自己愛がベースにあることがほとんど。

まさに「かまってちゃん」タイプで、「もっとほめられたい」「もっと認められたい」といった気持ちが強く、他者からの評価を人一倍気にします。

このタイプは、承認欲求が満たされないと不機嫌さを露骨に表したり、八つ当たりをしてきたりするので注意が必要です。

結局のところ、上司は「俺って、私ってすごくない?」と部下に認めさせたいだけ。

このタイプには、上司が言ってほしいことをそのまま言ってあげる。つまり、「ほめ言葉で相手の承認欲求を満たす」言葉の護身術が一番効果的。

実際にこの方法でH部長の承認欲求を満たした結果、H部長はいつも上機嫌になり、あまり現場にも口出しをしてこなくなったそうです。

結果的に時間と労力の節減に一番つながるのが、「ほめ言葉で承認欲求を満たす」という護身術なのです。

思いつくまま質問し、相づちは「さしすせそ」

まずは、ほめ殺しの必殺技と知られている「会話のさしすせそ」を意識してみましょう。

ここで、上司に対する効果的な言い回しを紹介します。

さ=「さすがですね。すごいとしか言いようがないです」
し=「信じられないですね。そんな短期で売り上げを伸ばしただなんて」
す=「素晴らしいですね」
せ=「せっかくなので、今日は部長のお話をお聞かせください」
そ=「それは知りませんでした!教えていただき、ありがとうございました」

ただ、「会話のさしすせそ」は多用すると嘘っぽく思われる可能性があるので、注意してください。

相手に「ほめ殺し」だと思われてしまったら効果は激減どころか、「調子のいいやつ」と思われて、マイナスに作用します。

そこでおすすめは、どんどん質問して「教えを乞う」方法。

「かまってちゃん」タイプには思いつくまま質問すると効果的(画像:イメージ)
「かまってちゃん」タイプには思いつくまま質問すると効果的(画像:イメージ)

「かまってちゃん」タイプの承認欲求が強い人は、他人に興味を持たれることが大好き。そこで、「相手のことを知りたい!教えてほしい!」という気持ちを相手に率直に伝えるのです。

思いつくまま相手に質問してみてください。

実例のH部長は、営業部の大口の取引先はすべて開拓したと言われ、それなりの手柄や実績を残している人だそうです。

例えば、H部長が今の実績を築いたルーツについて質問をするといいでしょう。

「どうやって一から取引先を開拓したのですか?」
「営業のやり方はどこで学ばれたのですか?」
「どうすればH部長のようになれますか?」
「H部長にも失敗談はあるのでしょうか?ぜひお聞きしたいです」
「はじめて部下ができたのですが、部下に慕われる秘訣を教えてください」

H部長の話の相づちは、「会話のさしすせそ」を意識してみてください。

「ほめ言葉」で承認欲求を満たす方法の最大の注意点は、ほめ殺しだと相手に悟られないようにすることだけ。それだけを注意すれば、人間関係を円滑にするためには本当に効果的な方法だと思います。

今回は正面から向き合うことなく勝つ方法でした。次は、グサッとくる一言で切り返す方法を紹介していきます。

『職場の嫌な人から自分を守る言葉の護身術』(三笠書房)
『職場の嫌な人から自分を守る言葉の護身術』(三笠書房)

イラスト=さいとうひさし

後藤千絵
後藤千絵

京都生まれ。大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社に入社するも、5年で退職。大手予備校での講師職を経て、30歳を過ぎてから法律の道に進むことを決意。派遣社員やアルバイトなどさまざまな職業に就きながら勉強を続け、2008年に弁護士になる。荒木法律事務所を経て、2017年にスタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所設立。離婚・DV・慰謝料・財産分与・親権・養育費・面会交流・相続問題など、家族の事案をもっとも得意とする。近年は「モラハラ」対策にも力を入れている。