G7広島サミットまであと1カ月を切った。被爆地広島でのサミット開催に被爆者の中には特別な思いを抱いている人がいる。ある被爆者のその思いを取材した。

被爆直後、亡くなった人たちを近くの公園で火葬

被爆者・小倉桂子さん: ≪「平和の灯のつどい」での講演 2022年7月≫
きのこ雲の下では誰も生き延びられないということを感じなくちゃいけない。来年G7がありますね。皆さんで知恵を出して、どうやってこのリーダーたちに心の底深くに絶対核はいらない使わないと思わせるか、それは広島の心意気だと思いますよ。一緒にやりましょう

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G7広島サミット開催が決まった2022年、力強く呼びかけていたのは、被爆者の小倉桂子さん。小倉さんは8歳のとき、広島市東区の自宅で被爆した。

原爆投下後、小倉さんが住んでいた牛田町周辺で撮影された写真は一面焼け野原。家族はみな無事だったが、そのとき見た光景は忘れられないという。

小倉桂子さん:
毎日毎日人が亡くなっていく。本当にひどいその状況を私が見たこと

「神社の石段に押し寄せる人々とそれを治療する兵士」は、小倉さんが近くの神社で見た光景を聞き取って描かれた絵だ。

当時、小倉さんの父親は、近くの公園へ亡くなった人の遺体を運び火葬し続けた。

小倉さんは久しぶりに、その公園を訪れた。
小倉桂子さん:
ここだ…。うちと割と近いのね、だから毎日毎日、火葬した煙がうちのほうまできて、においが毎日すごくひどかった

当時の様子が、公園の案内板に残されている。
「不眠不休の救護のかいもなく、多くの人が苦しみ死んだ。死臭はその年の末まで消えなかった」

公園にある当時の説明
公園にある当時の説明

小倉桂子さん:
原点はここなんですよね。私に染み付いた煙

小倉桂子さん:
今、ここに来ると亡くなった人がどんな悲惨な状況で、無念な感じで亡くなったか思い出すとともに、父を思い出しますね。どんな大変な仕事をしたかと。戦争っていろいろな局面があるからね。戦地に行った人じゃなくても、いろんなつらい目にあったなということを思います。ここに来ると父を感じます…ね…

被爆体験を34年間自身で封印 夫の死が転機に

トラウマと差別への不安。25歳で結婚し主婦になった後も、被爆体験には口を閉ざし続けた。

しかし転機が訪れる。英語が堪能で、市長の通訳や、原爆資料館の館長など平和行政に携わってきた夫が小倉さんが42歳の時、突然他界。

図らずも、亡き夫に代わり被爆者の通訳をする機会が増えた。

左が小倉さん
左が小倉さん

そんなとき外国人から言われたのは…。
小倉桂子さん:
桂子、自分の話をしてくれないか。そうすると通訳の時間がない分だけ僕たちは聞きたいことを、いくらでも聞けるからということで、見えない苦しみを伝えられるんじゃないかな、という風に思うようになった

小倉桂子さん
小倉桂子さん

独学の英語で、被爆体験を語ると依頼が続き、気が付けば、40年以上、国内外で伝え続けてきた。85歳を迎えた2022年もアメリカへ。

小倉桂子さん:≪英語での講演≫
私たちに何ができるかどうか、どうか一緒に考えましょう。今はいい答えは見つからない。でも、一緒にやりとげなくてはいけません

アイダホ大学での英語の講演
アイダホ大学での英語の講演
聴衆からはスタンディングオベーションが…
聴衆からはスタンディングオベーションが…

「対話をすれば理解しあえる」と平和の想いを広げてきた。それは、各地で小倉さんの話を聞いた人たちの行動につながってきている。

折鶴を折るアメリカの子どもたち
折鶴を折るアメリカの子どもたち

年間2000人のペースで外国人に伝えてきた経験から、G7広島サミットの意義を感じているという。
小倉桂子さん:
サミットは核兵器を持っている方たちが集まるわけですから、リーダーたちがそれを決断する時に必ず思い出すところね。自分は広島の地を踏んだということ、すごく小さな核を使われたのでも、このようなことが起きたということ。たとえ10分でも資料館にいらしたら、必ず人間であるならば、これは何を意味するものかということを考えられると思いますね

小倉桂子さん
小倉桂子さん

広島の役割「戦争は嫌だ。最も悪いのは核」と思ってもらう火打ち石

一方で、楽観視できないのが今の世界の現状。
2月に原爆資料館で行われた核軍縮に関する国際セミナーに小倉さんの姿があった。
小倉桂子さん:
きょうは勉強するために来ました

元国際原子力機関 検証安全保障政策課長 タリク・ラウフ氏:
安全保障は今ぜい弱で、第2次世界大戦以降のさび付いた状況は大きくなり、止める手立てはありません

マイクロソフト社 マイケル・カリミアン氏:
紛争のデジタル化が進み、戦争の新しい技術が非常に複雑な状況を生み出しています。これまでにない兵器を使うハイブリッド戦争が起こっている。国際法のもとに新しい秩序を作ることが大切です

国と国との争いがデジタル化し、電力や通信・金融などのインフラが脅かされるサイバー攻撃や、生物化学兵器の脅威など、ロシアのウクライナ侵攻でも繰り広げられている恐ろしい世界の現状がセミナーで報告された。

小倉桂子さん:
一番最初、絶望した。大変だなと思うけど、ほんの少しだけどカギはあるなと。広島の役割って「私は、戦争は嫌だと、それからもっとも悪いものは核なんだと、徹底的に世界の人に思ってもらう」そういうなんか一つの小さな火打ち石

小倉桂子さん
小倉桂子さん

小倉桂子さん:
ちかっと火花が散って、その火花から火が燃えていくようなものかもしれないけど、とりあえず行ってみようかな、という気持ちを想い起こさせるような場所として、世界に知れたら、サミットの第一歩はね、成功であると思うのね

ロシアのウクライナ侵攻の今の世界情勢は、サミットを前に、平和を求める被爆者の声を世界に届ける小倉さんの活動に一層重みを加えている。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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