ロシアによる軍事侵攻で平穏を奪われ、異国の地・広島で避難生活を続けるウクライナ人の母と娘。来日して1年、日本語の習得やアルバイトに挑戦する一方で、不安に駆られながら戦争終結を願う2人の姿を見つめた。

キーウから広島へ避難して1年

「われらは自由のために魂と身体を捧げよう」
ウクライナの国歌を歌う2人の女性。2023年2月26日に廿日市市で開かれたチャリティイベントで披露した。

チャリティイベントでウクライナの国家を歌う親子
チャリティイベントでウクライナの国家を歌う親子
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歌っているのは歌手のヤーナ・ヤノブスカさん(41)と娘のゾリアナ・ヒブリッチさん(20)。歌で観客と気持ちを分かち合える喜びを、ヤーナさんはできる限りの日本語で話してくれた。

ヤーナさん:
私がいつもうれしいとき、違う人うれしい

ヤーナ・ヤノブスカさん(左)と娘のゾリアナ・ヒブリッチさん(右)
ヤーナ・ヤノブスカさん(左)と娘のゾリアナ・ヒブリッチさん(右)

ウクライナの首都・キーウで暮らしていた2人。2022年2月24日、その暮らしは一変した。

突然、鳴り響いた爆発音。恐怖を感じた2人は着の身着のまま国境を越え、2022年4月、広島の知人を頼って遠く離れた異国にたどり着いた。

ヤーナさん:
戦争前は普通の暮らしをしていたのに…。話すと涙が出ます。平穏な生活が一瞬で奪われました

2年目に突入したロシアによるウクライナへの軍事侵攻。国連人権高等弁務官事務所によると、4月2日までに少なくとも2万2607人の民間人が死傷した。そのうち死者は8451人。激しい戦闘が続く国境付近の実態は正確に把握できず、実際の被害はそれを大きく上回るといわれている。

アルバイトで難しい接客用語に挑戦

日本に来て1年、広島の暮らしにも慣れ始めた親子。娘のゾリアナさんは祖国に思いを馳せるとともに、何か新しいことをしたいと飲食店でアルバイトを始めた。

ゾリアナさんがアルバイトをする広島市中区の飲食店
ゾリアナさんがアルバイトをする広島市中区の飲食店

日本語を早く習得できるようにと、ゾリアナさんが選んだのは接客の仕事だ。テーブルへ料理を運び、「前菜の盛り合わせです」などと日本語で接客。やりがいを感じているという。

ゾリアナさん:
このお店は大好き。ちょと難しい日本語だけど、「ご注文お決まりですか?」「ジャケットかけますか?」「お皿おさげしましょうか?」…毎日毎日、話して覚えた

慣れない日本語を話し、一生懸命働く彼女の姿を店長も温かく見守っている。

店長:
働いているときの笑顔がすごくいい。日本語もどんどんうまくなってきている。この店を最初から気に入ってくれていたので楽しく働いてもらえたらいいなと、シンプルにそれだけです

大好きな故郷に戻れる日がいつか来るのだろうか…先の見えない状況に不安を抱えながら、ゾリアナさんは広島の今の生活に向き合っている。

ゾリアナさん:
みんな優しい人です。お店はいつも楽しいしおもしろい。頑張りたいです。頑張ります

核の不安とG7サミットへの期待 

3月、親子の姿は広島市の平和記念資料館にあった。

広島平和記念資料館(広島市中区)
広島平和記念資料館(広島市中区)

資料館で原爆の被害を伝える写真や展示を見つめる彼女たちの目には、涙が浮かんでいた。核兵器の使用をほのめかすロシアや先行きの見えないウクライナの現状と重なるという。

音声ガイドを聞き、展示に胸を痛める親子
音声ガイドを聞き、展示に胸を痛める親子

ヤーナさん:
再び同じことがこの時代に起こるかもしれないと思うと心配…

そして、平和記念公園の原爆死没者慰霊碑に手を合わせる2人。広島から遠く離れた祖国を思い、戦争の終結を願う。

原爆死没者慰霊碑に手を合わせる2人
原爆死没者慰霊碑に手を合わせる2人

5月、広島で開かれるG7サミットには、ゼレンスキー大統領もオンラインでの参加を表明している。

ヤーナさん:
ほかの国々はウクライナを支援してくれてゼレンスキー大統領に賛成してくれています。G7サミットではより強力な支援につながるように、いい方向に議論が進められることを期待しています

平穏な暮らしを一瞬で奪ったロシアによる軍事侵攻。国際社会は、いまだその暴挙を止める“すべ”を見いだせず手をこまねいている。被爆地・広島で開催されるG7サミットが戦争を終結へ導けるのか。世界が…そして2人は注目している。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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