3年前にオープンした福岡・北九州市戸畑区の駄菓子屋「いぬまる商店」。土間には駄菓子がずらりと並ぶ。その隣の居間では、小さな子どもや赤ちゃん、そして母親がくつろいでいる。さらに店の2階の和室をのぞくと、子どもたちに勉強を教える高校生が...。駄菓子屋のいまを取材した。

交流の場でもある“駄菓子屋”

高校生:
4、5、6、7..…

子ども:
8?

高校生:
そう8!

駄菓子屋の2階で、月に3回ほど高校生ボランティアによる勉強会が開催されている。

勉強会に参加した子ども:
お母さんよりお姉ちゃんのほうがいい

――どうして?

勉強会に参加した子ども:
お母さんだとすぐに怒っちゃうから

この記事の画像(20枚)

この駄菓子屋では、店内の和室を地域の人たちに開放していて、勉強会のほかにもヨガやピラティス、地元の絵画教室に通う子どもたちの作品を飾った展覧会も行っている。地域の人たちの交流スペースにもなっているのだ。

いぬまる商店・犬丸優子さん:
学校が終わったら、駄菓子を食べて、自転車で公園に行くんよね。子どもたちはルーティンが決まっている

子ども:
きょう「ペペロンチーノ(パスタ風の駄菓子)」ない? 「ペペロンチーノ」早く取り寄せて

いぬまる商店・犬丸優子さん:
今度の30日にしか入らん

子ども:
30日?えー!

いぬまる商店・犬丸優子さん:
そのくらい我慢し

店主は犬丸優子さん(61)。この店は、かつて犬丸さんの祖父が営んでいた和菓子屋。父親の代になって駄菓子屋へと代わったが、その父親が高齢になり閉店。優子さんは、そのあとを継いで店を再開させたのだ。

店の近くを案内してもらうと、あちらこちらシャッターに閉ざされている。人通りもほとんどない。

いぬまる商店・犬丸優子さん:
このシャッターが閉まっているところが、お米屋さんだった。その隣が、先日辞めちゃった八百屋さん。この店も“シャッター”だった

経済産業省によると、駄菓子屋など菓子小売業は1970年代、全国に13万軒以上あったが、現在はその10分の1程度に激減している。理由は、少子化や店主の高齢化、コンビニの台頭など。昔ながらの駄菓子屋は姿を消しつつある。

いぬまる商店・犬丸優子さん:
物を買うところはあるけれど、私みたいなおばちゃんと話すとか、お菓子を買ってしゃべって帰る場所が、いまはない。子どもたちの居場所がない。だから駄菓子屋が心のより所になればいいかなと思って再開した

小学生:
いっぱいお菓子があって、近くてすぐ買えるからめっちゃいい

小学生:
おばちゃんが優しい

“子育ての孤独”和らげたい

駄菓子屋にやってくるのは、子どもだけではない。

高齢者の客:
サクランボの味がするキャンディー、ある?

いぬまる商店・犬丸優子さん:
大丈夫?食べられる?

高齢者の客:
食べられる!これは何?

いぬまる商店・犬丸優子さん:
スライム!スライムは食べられんよ

さらに、赤ちゃんや小さな子ども連れの母親たちも店を訪れる。おもちゃが置かれた店の奥で、子どもを遊ばせながらゆっくりと過ごせるスペースをつくっている。

子ども連れの母親:
友だちと約束すると、子どもの体調もあるし、行けるかどうか分からないけれど、ここは開いているから、そのとき自分のタイミングで来ることができる。実家も遠いので、ここが第二の実家みたいな。子どもたちのことも見てくれるし

いぬまる商店・犬丸優子さん:
子育て中で、孤独が一番苦痛なんですよね。大人と話す時間がないと、大人は息が詰まっちゃうから。子育てをしているときに、ガス抜きできる場所が絶対に要るので

「何かのために、誰かのために」

地域で子どもたちの居場所の役割を担う駄菓子屋は、少しずつ広がりを見せている。

福岡・飯塚市の東町商店街もシャッターが閉まったままの店舗が目立つが、そんな空き店舗を活用して2022年6月、駄菓子屋がオープンした。店内にはおもちゃも置かれ、子どもたちを中心に地域の大人も一緒に楽しんでいる。店の名前は「だがシステム」。システムエンジニアの犬丸勤さん(58)が商店街の空き店舗を利用した店だ。

来店客(高齢女性):
こういう店ができると楽しい。毎日来ている。ここが開いている限りは来ます。子どもから年寄りが元気をもらっています

来店客(女の子):
お菓子とかもあるし、いろいろ遊べるから楽しい

来店客(母親):
商店街に子どもたちがいっぱい来るので、にぎやかになって楽しい。商店街がおじいちゃん、おばあちゃんばかりではなくて、子どもたちもおじいちゃんおばあちゃんとお話しできるし、駄菓子屋ができて良かった

だがシステム・犬丸勤さん:
(もともと商店街なので)最初から誰もお客さんがいない状態ではない。商店街のお客さんがいるところからのスタート。そういう良さはある

商店街にある48店舗のうち、現在13店舗が閉まっていて、空き店舗率は約27%。犬丸さんは、空き店舗対策に取り組む飯塚商工会議所の支援を受けて店を構えた。商業施設に出店するよりも家賃が安い上、福岡県と飯塚市から家賃補助を受けられるメリットもある。

会社を早期退職し駄菓子屋を開いた犬丸さんは、12年前に大腸ガンを患い、ガンはリンパにまで転移。一命はとりとめたものの、同じ時期に白血病で闘病していた友人の子どもが3歳で亡くなった。そのことが大きなきっかけとなった。

だがシステム・犬丸勤さん:
「何かのために」ってなりましたよね。「誰かのために」、「何かのために」。自分が死ぬことをリアルにイメージしたときに、「何て言ってほしいかな」と思うと「ありがとうね、あんたがいて良かったよ」と言ってもらえるほうがいいなって。「会社で昇進した」とか「予算を達成した」とかいうことよりも…

犬丸さんは病気の子どもやその家族を支える活動もしながら、商店街の中で地域の子どもたちを見守っている。

子どもの“居場所づくり”などについて研究している筑紫女学園大学の大西良准教授によると、「居場所」に大切な条件は「何よりも入りやすいこと」、「自分のタイミングで立ち寄れること」などで、駄菓子屋はまさにこれにあたるという。

だがシステム・犬丸勤さん:
「子どもって地域の宝だな」と思うし、話したいことがあるとか悩んでいることとかを話に来てくれるような場所が理想。そうなればいいなと思いますね

(テレビ西日本)

テレビ西日本
テレビ西日本

山口・福岡の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。