愛知県大治町の松葉堂は、80年続く老舗の和菓子店です。看板商品は、皮にもあんにもこだわった「上用饅頭」。3代目の現在の店主は、めったなことでは「よし」と言わない職人気質の父の背中を見て学び、その味を引き継ぎました。
「上用饅頭」が看板商品 創業80年の老舗和菓子店
この記事の画像(40枚)松葉堂(まつばどう)は、愛知県大治町(おおはるちょう)の国道302号線から一本入ったところにあります。
看板商品の「上用饅頭(じょうようまんじゅう)」(130円)をはじめ…。
大福の両面をこんがり焼いた「大治太鼓」(120円)に…。
サツマイモがたっぷり入った鬼まんじゅうや…。
いちご大福。
プリプリした歯ごたえと、焦がしきな粉香る「わらび餅」(350円)が人気です。
創業して80年。3代続いています。
現在の店主は3代目の山本益司(ますじ)さん(57)。
2代目の文隆(ふみたか)さん(86)は、すでに店を譲りましたが、今も忙しい日は3代目をサポートしています。
3代目の山本益司さん:
昔はよくケンカしましたけどね。怒られました、ケンカしたと言うより。だけどそれは親子なんで
2代目の山本文隆さん:
自分で食べて「これがおいしい」と思ったら(売って)お金にするけど、「これまずいな」って思ったら、私はほかれ(捨てろ)って(怒った)。私はそういう考えだったから
松葉堂は、初代の奈良男(ならお)さんが三重県の御浜町(みはまちょう)に開いたのが始まりですが、若くして亡くなり、店は一度途絶えました。
2代目の文隆さんは復活させるべく、さまざまな店で一から修業しました。
山本文隆さん:
名古屋へ出て来て5年目ぐらいに、ここ(大治町)で商売始めた
1回目の東京オリンピックが開かれた昭和39年(1963年)、大治町に松葉堂を復活させました。
その当時から変わらない看板商品が、上用饅頭です。
昔は、高価な砂糖や小豆を使うことから、位が高い人しか食べられなかったため、「上用」と呼ばれ、今では冠婚葬祭などの贈答用に使われます。
手間暇かかる自信の皮と餡
饅頭の皮になるのが、愛知県大府市で栽培された、強い粘り気が特徴の木の山芋(このやまいも)です。
山本益司さん:
通称は伊勢芋って言っています。自然薯(じねんじょ)の次ぐらいに粘り気がある
手作業で皮をむき…。
すりおろしたあと、砂糖と合わせます。
山本益司さん:
やっているのを教わったというより、見て覚えたのが多いですかね。(父は)「見て覚えろ」って人なので
親であり師匠である文隆さんの技を、益司さんは必死に学びました。
山本益司さん:
皮がおいしければおいしいんですけど、簡単な分だけ水分割合を調整するのが難しいのかなって、今なら思います
ポイントは、生地の水分量です。材料がシンプルなだけに、入れる量やタイミング、混ぜ具合まで、微妙な差が味に大きく現れるといいます。
こしあんは、益司さんがすべて仕込みます。
十勝産の小豆は水に浸してアクを抜いた後、釜で煮ます。
山本益司さん:
(小豆が)指でつぶせばつぶれる。こうなるまで煮ないと“こしあん”にならない
小豆をこしたあとは、袋に入れて水分を抜き…。
釜に戻して砂糖を加えます。
気温や湿度によって前後しますが、この日は4時間かけ炊き上げました。
手間暇がかかる工程は2代目から全く変えていません。
「こんなもんじゃない?」が褒め言葉 3代目の息子を厳しく育てる父親
釜からすくったこしあんが、山のようにピンときれいに立っています。これが理想的な柔らかさ。2代目から受け継いだ技です。
山本益司さん:
「あんこが立ち上がるように炊け」ってよう言われましたね。柔らかいとぺちゃってなっちゃうんですよ
3代目が炊いた“こしあん”を、2代目がチェック。
山本文隆さん:
こんなもんじゃない?
山本益司さん:
「こんなもんじゃない」が良い褒め言葉なので
「合格のセリフ」をもらうと、ふたりでこしあんを皮で包み、せいろに並べ10分蒸せば完成です。
老舗の顔である「上用饅頭」。柔らかい皮の中に、たっぷりのこしあん。ひとくち食べれば、優しい口当たりと、甘すぎず風味のある“あん”が口の中に広がります。誰かに贈りたくなる、上品な味です。
女性客A:
お遣い物にも何回させてもらったことありますし、食べ飽きない。本当においしいです
跡継ぐ気がなかった3代目…今は自販機販売など新しい取り組み
老舗を継いだ3代目の益司さんですが、当初は店を継がず、大学進学を考えていました。そこで文隆さんは益司さんが店を継ぐように仕向けたといいます。
山本文隆さん:
私の方からやるようにやるように持っていったんだね。サラリーマンだとこんだけだよと、商売だと自分の努力次第で上がるよと
山本益司さん:
「どうする?」って言われましたけど…。(店を)やるか、大学行ってやらないかっていう2択だったから、ウチやった方が楽しいかなって思って
父の絶妙な語り口で、和菓子の道を選びました。
益司さんは店を引き継いでから、新たに「自動販売機」で和菓子の販売を始めました。
並ぶのは飲み物ではなく、和菓子です。
山本文隆さん:
初めは「え~!」って思ったよ。「自販機でまんじゅうを売る?」って。よく考えたら時代の流れだね
女性客B:
習い事が近くにあって、いつも行こうかどうかって言って、やっと今日
男の子:
わらび餅(を買った)、うれしい
1つだけでは店頭で買いづらいという客や、営業時間外でも買えることが評判になり、多い日は30個以上売れ、好調だといいます。
父の出身地の名物のミカンを和菓子に…続く3代目の挑戦
新しい挑戦は続きます。この日は、新作和菓子の2回目の試作会です。
文隆さんは三重県熊野市の出身。益司さんには、その熊野市の名物であるミカンを使った和菓子を作り、父に喜んでもらいたいという思いがありました。父から受け継いだ上用饅頭の生地に、ミカンの粉末を混ぜます。
山本益司さん:
和菓子でフレーバーってやっているのは抹茶ぐらいなのかなって思うと、他のバリエーションが多少あっても 受け入れられるのかなと思って、やってみようかなと思ったんですけど…
蒸した生地に、こしあんを巻いてカット。
「ミカンじょうよう(仮)」の完成です。
審査員は、もちろん2代目。その反応は…?
山本益司さん:
皮にミカンの粉末を入れた量を、(前回から)変えてみたんだけど、(小声で)皮だけで食べた方がわかりやすいかな…?皮だけ食べるなら(ミカンの)風味が出る
山本文隆さん:
それじゃ意味ないんだよな~。入れるんなら、もう少し入れた方がええと思う
山本益司さん:
まぁ、まだ考えます。ちょっと無理ですね、これだとね
今回も合格は出ず、やり直し。そう簡単にはうまくいきません。しかし益司さんは楽しそうに見えます。
山本益司さん:
親の跡の仕事をやっているってことに関しては、良かったなってありますけど、ウチの父に教わったことをベースにしていろいろチャレンジしていきたいですし、それでおまんじゅう好きが増えてくれるとありがたいです
今回は不合格でしたが、次のミカンの季節に間に合わせるべく、益司さんは改良に励んでいます。
2023年1月16日放送
(東海テレビ)