思わず見惚れてしまう職人の手さばきに称賛の声が寄せられている。

創業77年の製本会社「渡邉製本株式会社」(東京・荒川区)が、公式Twitterアカウント(@booknote_tokyo)に投稿したのは、職人が竹ベラを使って、流れるように束見本用の紙を折りたたんでいく様子を撮影した動画。

「束見本」とは、本の厚みや重さなどを正確に把握するため、本製作時と同じ紙やページ数、製本仕様で作られたサンプルのことをいう。

スーッと竹ベラを滑らせるようにして折る
スーッと竹ベラを滑らせるようにして折る
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職人は、1枚の大きな紙の端を合わせ、竹ベラを滑らせるようにしながら半分に折っている。スーッと滑らせる手に迷いやためらいは一切感じない。

正確な作業で折りたたんでいく
正確な作業で折りたたんでいく

半分からさらに半分、そしてもう半分と折りたたまれた紙は、ずれている様子はなく、作業の正確さがうかがえる。

折りたたんだものを1つにまとめる キレイにそろっている
折りたたんだものを1つにまとめる キレイにそろっている

折りたたんだ紙を1つにまとめても紙の幅はそろっており、きれいな折り目も確認できる。紙折り機械がない時代は全ての量をこのような手作業で行っていたのだそう。思わず見惚れてしまう職人業だ。

これにはTwitterでも「美しい…職人の技は時間を忘れて見入ってしまうね」「キッチリ揃っていて見惚れる〜」「熟練の技を感じます」などと称賛の声が多く寄せられている。

手作業で紙を折る機会は少なくなっている

流れるような作業だけでなく、折りたたまれた紙の美しさにも感動する職人技だったが、このような作業ができる人はやはり減っているのだろうか?手作業だからこその良い点はあるのだろうか?

渡邉製本株式会社の広報・商品企画担当の河合枝里子さんに話を聞いてみた。


ーーなぜ束見本用の紙を折りたたむ様子をTwitterへ投稿したの?

弊社noteに製本道具の記事をシリーズで投稿しており、竹ベラを紹介するにあたり、写真のみでは用途が伝わりづらいため、動画を撮影することにしました。

動画でも使用している道具「竹ベラ」
動画でも使用している道具「竹ベラ」

ーー現在、この作業ができる職人は何人いる?

弊社では従業員10名中、3名が作業にあたっております。


ーー職人は減っているの?

製本業界全体としては、量産するための本製造では紙折り機が導入されているため、手作業で紙を折る機会は少なくなっております。弊社は製本の中でも書籍製本専門です。書籍製本会社では束見本制作の際に竹ベラで本文用紙を折りたたむ作業がございます。なお、小部数を手掛ける手製本専門の製本会社では、現在も竹ベラを日常的に使用されているのではないかと思います。

製本会社は年々数が減少しており、ピークの昭和50(1975)年比で7割減、2000年当時は都内に1000社ほどありましたが、現在は半数程度となっております。それに伴い、竹ベラ作業のみならず手加工ができる職人も少なくなってきています。デジタル化も浸透しペーパーレスの風向きも強いため、やむを得ないと理解しつつも、残念さや寂しさ、不安感はつきまとい複雑な心境です。

折り機での作業風景
折り機での作業風景

ーー「美しい」「見惚れる」との声が投稿に寄せられているが?

日々当たり前に行っている仕事ですので、「こんな動画、地味だし面白いのかな?」と疑問に思いながら動画を投稿しました。多くのいいねやRTをいただけたことが意外すぎて、ひたすら驚き、コメントに感激しました。

また、感想を社長に聞いたところ「嬉しかった」と一言。「それだけ?」と聞いたら「だって本当に嬉しかったんだもん」とのことで、相当嬉しかったようです。

折る回数で異なる“力加減”と“竹ベラの角度”

ーー普段どれくらいの頻度や量を折りたたんでいるの?

必ずしもすべての書籍製本で束見本制作を行うわけではなく、表紙の設計図(展開図)を書く必要がある場合や本を入れる外箱を作る必要がある場合などに、束見本を作ります。弊社では平均して毎月1、2件程度となります。

束見本は数冊あれば十分ということがほとんどで、クライアントの希望に応じた数量を制作いたします。竹ベラで折る枚数も書籍のページ数次第で変わりますが、最近では厚みが約6cmもある本(約1500ページ)の束見本を制作しました。その場合、折る紙の枚数は1冊につき約100枚、それを束見本の必要冊数分繰り返します。

他社比較については分からないのですが、大きな製本会社では見本制作室を持ち、専門的に束見本制作にあたる職人を抱えているところもあるようです。

折る回数によって竹ベラの角度と力加減を変えているそう
折る回数によって竹ベラの角度と力加減を変えているそう

ーー折りたたみ作業での注意している点やこだわりを教えて。

折りたたんでいくと内側の紙にシワが生じやすいため、シワにならないように注意しています。紙の厚みや性質により、折り方の加減を変える必要があるので、経験値と慣れは必要です。厚い紙はシワになりやすいため折りにくく、薄い紙は一枚ずつ取る時に重なって複数枚取れてしまいやすいといった難しさがあります。

また、1折目、2折目、3折目で竹ベラの角度と力加減と変えています。内側がシワになりやすい3折目は強く押し付けずに、空気抜きを行うようなやさしめの力加減で折っています。最後に体重をかけて押しつぶして、空気を逃がしながら折り目をキチッとつけています。

最後につぶして折り目をしっかり入れている
最後につぶして折り目をしっかり入れている

ーー職人による作業での注目ポイントはどこ?

紙を直角に折る正確性を心がけています。スピードに関しては自然のリズムで行っていますが、今回は撮影用にいつもの8割程度の速さでゆっくり折ってもらいました。通常のスピードで折るとあっという間に終わってしまうためです。

「実はここを見てほしい」という点につきましては、前項と重複いたしますが
・力加減と竹ベラの角度
・最後に潰して折り目をしっかりと入れる
という点となります。

完成した束見本
完成した束見本

ーー手作業ならではの良い点とは?

100枚程度の少量の折り作業であれば、機械を使うよりも早くロスなく完了できます。機械だと作業を始める前の合わせなどの調整に時間がかかるためです。

完成した束見本 開いたところ
完成した束見本 開いたところ

ちなみに、投稿動画のその後の作業として、折り上がった紙束をとじる、糊で背中を固める、表紙を作るなどなど…、さらにいくつもの工程を経て1冊の本の形にしていくという。

今回の投稿動画は、1冊を作るたくさんある工程のうちの、ほんの一部分で発揮される職人技をのぞき見できたものだった。

渡邉製本では、“手加工”を大切にしていて、機械加工と手加工を掛け合わせることで、機械だけでは作れない特殊な本を完成させる手伝いを得意としているという。

そのため若手職人にも、刷毛での製本作業や機械トラブル時の代替として対応できるよう、手加工のトレーニングを行っているとのことだ。「技術の伝承と言うと大げさですが、職人の手技は残していきたいと考えております」と話していた。

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。