防衛増税は国民に対するだまし討ちか

防衛力強化のための財源を確保する法案の審議が国会で始まった。野党は安易な防衛増税の撤回を求め、一致して対決姿勢を鮮明にしているのだが、そもそもこれって本当に「防衛増税」なのか?

政府の財源案は年間4兆円増加する防衛費のうち3兆円弱は使われなかった予算の剰余金や税外収入などでまかない、残り1兆円強を増税するというもの。内訳は法人税が8000億、所得税が2000億、たばこ税が2000億円だ。

所得税は復興税から一時的に「借りて」きて、その分2037年に終わるはずだった復興税の徴収を延長するというわかりにくいやり方だ。だから4/6の衆院本会議で立憲の議員が徴収の延長について「国民に対するだまし討ち的な流用」と批判したのも一理ある。

「国民に対するだまし討ち的な流用」岸田首相を追及する立憲・末松義規議員(6日)
「国民に対するだまし討ち的な流用」岸田首相を追及する立憲・末松義規議員(6日)
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だが増税が延長される2037年には僕は78歳、ほぼ所得税は払っていない年齢だ。今のほぼ50歳以上の人(2037年には65歳超で年金受給年齢)にとってこれは増税と言えるのだろうか。しかも2000億円というのは防衛費増加分の5%にすぎない。

防衛増税のメインは8000億円の法人税なのだがこれについて面白いことを言っている人がいる。

西田昌司氏の指摘は鋭いと思う

自民党の西田昌司参院議員が「月刊Hanada」4月号の「防衛増税は100%必要ない」という記事の中でまず、安倍政権の法人税減税は大企業の内部留保が増えただけで、「自民党税調の現場の議論では失敗だったというのが共通認識」と暴露している。

自民・西田昌司参院議員
自民・西田昌司参院議員

このため党税調では「法人税率の引き上げ問題の議論を続けてきた」のであって、「結論から言うと、(今回の)法人税の増税問題と防衛財源は関係ありません」と指摘している。なるほど。

さらに増税以外の3兆円弱の財源に剰余金や税外収入などが挙がっていることについて西田氏は「剰余金の原資は国債発行で得た金でしょ」と財務省に聞いたら「そうだ」と認めたことを明らかにした上で、「それなら不足分のすべてを国債発行で調達すればいいだけではないか」と指摘し、「防衛増税は100%必要ない」と主張しているのだ。僕はこの話は結構スジが通っていると思う。

予算を鷹揚に使ってはいけない

確かに国債を多めに発行して、最初から「ゆるい」予算を組んでおく、その予算を余らせて防衛費に回す、という事をすれば、「防衛国債は発行してません、予算の剰余金を使っただけです」という言い訳ができる。

でも、もしそうならそれは国民に対してフェアではないと思う。防衛力強化のために歳出を見直して、少しだけ増税します、というのが岸田政権の主張なのに、実際はほとんどが国債によるものだ、ということになる。

だから野党は「防衛増税に反対」より「歳出削減しないなら防衛費増やすな」に軸足を置くべきだ。

ただ防衛費についてはこれまであまりにも低く抑えすぎていたので、結果的に国債がある程度使われるのは僕はやむを得ないことだと思っている。問題は岸田政権のもう一つの目玉政策である少子化対策だ。これについては防衛費以上に財源があいまいだ。

少子化対策も年間予算の増加分は防衛費並みの4~5兆円か、それ以上になるのだが、どうやらその財源は1兆円くらいが社会保険料の増額で、残りが「歳出の見直し」らしいのだ。だとしたら、こちらもほとんどが防衛費と同じように事実上国債発行にならないのか。

これはモラルハザードになる恐れがある。「異次元の少子化対策」の「たたき台」が3/31に発表されたが、よく言えば盛りだくさん、悪く言えば「これ本当に少子化対策に効果あるのか」と疑問に思うような「ばらまき」も相当混じっていた。

「異次元の少子化対策」たたき台を発表した小倉将信こども政策担当相(3月31日)
「異次元の少子化対策」たたき台を発表した小倉将信こども政策担当相(3月31日)

その財源が増税や社会保険料の増額、あるいは歳出カットなら国民は痛みを感じるのでムダ排除に敏感になる。だが国債発行で「自然に」出てくる金に対しては使い道に鷹揚になってしまう。それがモラルハザードだ。

国債発行は否定しない。だが予算の使い道に鷹揚になってはいけない。それをやられると政府への信頼がなくなってしまうので、くれぐれも税金はまじめに使ってもらいたい。だから防衛費はやむを得ないとしても、少子化対策の財源はきちんと高齢者向けの社会保障費を削るとかしなければだめだと思う。

【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。