Chat GPTの出現で教育界にも大きな変化が起こるだろうと言われる中、“知の巨人”出口治明氏が学長を務めるAPU立命館アジア太平洋大学では、「第2の開学」として新たな学部を設置した。出口学長にChat GPT からサステナブルな学びのありかたまで聞いた。
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この記事の画像(8枚)シンギュラリティが起こったかは疑問
「シンギュラリティが起こったかは疑問ですね」
世界を震撼させているChat GPTの登場で、いよいよシンギュラリティが起こったのかと聞くと出口氏はこう答えた。そして今の教育制度への影響について出口氏はこう続けた。
「確かに学ぶという点では相当便利になっています。でも僕は1対1の対話を通じて目が開かれていくというのが究極の学びだと思う。大学、大学院において1対1で学ぶ。会話を通して知らないことを学ぶのが究極の人間の学びだと思う。古い考えかもしれないが、知識ある人を訪ねていくことが本当の学びだと思いますね」
AIでは自分が知らないことを学べない
ではAI時代の到来をうけ、これまでの画一で一方通行型の学校教育は、いよいよ“オワコン”になるのか?そう聞くと出口氏は「そうですね」と認めたうえで学びについてこう語る。
「相手のいうことをよく聞いて問いを深く考える中で、自分が何も知らないとわかることがとても大事だと思います」
一方AIで教育はどう変わるのか?出口氏はこう続ける。
「AIでは自分が知らないことを学べず、自分の学びたいことだけを学ぶことになる。だから自分が学びたいことは、学びたい範囲でAIを使ったらいいけど、AIがそれを超える学びを教えてくれることはないと思います」
コロナ禍はやがてエピソードとして語られる
世界はコロナ終焉とともに一気にヒト、モノ、情報の流れが加速している。出口氏は「10年から20年単位でみれば、コロナ禍だった3~4年はエピソードとして語られるぐらいで、大きな影響はなく心配する要素もない」という。
そんな中APUが創設した「サステイナビリティ観光学部」で目指すのは、「社会が持続可能であるために行動できる人材像」の育成だ。出口氏は「どのような人になるかわからないのでワクワクしている」と微笑みながらこう続けた。
“混ぜる”から“解を出す”教育へ
「これまでAPUは“混ぜる”教育を行ってきましたが、これからは“解を出す”にこだわります。社会課題を考え“解を出す”上で、サステイナビリティ~持続可能かどうかを考えることは必須です。4年間かけてそのマインドを定着させ、卒業後もそれぞれの立場で持続可能な社会を実現するために活動していく人材を目指します」(出口氏)
そして持続可能である未来を切り開く1つの鍵が観光だと出口氏はいう。
「観光はこれから日本の産業においてメインになります。APUは“サステイナブルは観光であり、観光はサステイナブルである”という理念を大切にしていきますが、世界はその状況を目にして今後認識してもらえると思います。新1回生350人がどんな想いを持っているか、どんなサステイナビリティ観光学部を作っていくか楽しみですね」
ジェンダーギャップ解消の突破口は
APUは国際学生比率が50%、外国籍教員比率が50%、留学生出身国・地域が50ヵ国を目標に2000年にスタートしすでに開学当初から3つとも達成した、まさに多様性の大学だ。
ではなぜ日本社会にはいまだジェンダーギャップ解消をはじめ多様性が受け入れられないのか、その突破口はどこにあるのか出口氏に聞いた。
「日本人の人口が半分になって、残り半分が外国人になることを考えてみてください。これはまさにAPUの状況です。APUでは多様な考えがあることが前提であり、日本の文化的背景だけで物事を判断しません。だからジェンダーギャップ等の問題は起こりにくいし、問題が起きたときの解決も迅速に行えます」
多様性ある社会に変えるのは時間がかかる
「一方で、日本人が9割以上を占める日本社会においては、問題を解決しようとしても時間がかかります。先進的な人が100を変えようとしても、50にするには時間がかかります」
持続可能性や多様性が流行のように語られる中、我々は出口氏の言葉をかみしめる必要があるのではないか。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】