3月25日、京都の商店街で開かれたのは、その名も「いす-1GP」。“おふざけ”と見くびるなかれ…。キャッチコピーは「椅子が壊れるか、己が壊れるか」。大会発祥の地で4年ぶりに開催のレースには、事務椅子にかける人々の熱い思いがあった。

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4年ぶり 聖地・京田辺で開催 いす-1GPとは?

「いす-1GP」が初めて開かれたのは、2010年。京田辺市の「キララ商店街」の店主たちが、店が次々と閉まっていくことに危機感を覚え商店街を盛り上げようと企画したのがはじまりだ。

いす-1GP・京田辺大会 田原 剛実行委員長:
小学校の時に、先生の事務椅子を借りて、廊下を走って叱られたという苦い経験がありましたので…。きちっと道路使用許可を取って、どなたにも叱られない状態でやれれば、盛り上がるんじゃないかなというところから…

ルールは簡単!3人1組のチームが、交代で事務椅子に座ったまま地面を蹴って進み、2時間でコースを何周回れるか競うだけ。

過酷さや奥深さが反響を呼び、その後、いす-1GPは全国各地のおよそ30カ所で開催。2016年には台湾で開かれるなど、人気は海外まで広がっている。

しかし、新型コロナの影響で、キララ商店街では大会の中止が続いていた。

今回、4年ぶりとなる「いす-1GP」の開催。シャッターが目立つようになったこの“聖地”が熱気を取り戻そうとしている。

“聖地で無冠”の優勝候補 いす-1GPにかける思い

大会に向けて練習しているのは、優勝候補の木津川運輸チーム。「よーいどん!」と勢いよく地面を蹴りながら、驚異的なスピードで椅子を動かす。

木津川運輸は、これまで全国各地の「いす-1GP」に42回出場し、優勝26回を誇る強豪だ。

木津川運輸チーム監督 梶田久史さん:
やっていることは、ものすごくばかげたことだし、見て笑えることなんだけど、実際に2時間走り終わったときには、思いもよらぬ感動が待っているというか

チーム3人とも、100メートルを20秒ほどで乗りこなす。強さの理由は、圧倒的な経験値…。そして、限界まで追い込むトレーニングだ。

しかし、数多くの大会で優勝してきた木津川運輸も、京田辺大会での優勝経験はまだない。

(Q:これだけ賞を持っていても京田辺狙いたいですか?)
木津川運輸チーム 監督 梶田さん:

勝ちたいですね。やっぱり本場ですから

木津川運輸チーム:
今年こそ優勝するぞ!おう!

■念願の初参戦!「椅子男‐chairman‐」の挑戦

一方、こちらは初参戦の大阪の枚方公済病院で働く職員たち。その名も「椅子男‐chairman‐」。

3人は、臨床工学技士で、医師の指示のもと、医療機器の点検や操作を担うスペシャリストだ。

患者の命に携わる3人。3年前は怒涛の日々だった。

椅子男‐chairman‐ 小西宏伸さん:
人工呼吸器も含めて不足しているような状況でコロナの患者さんがですね、搬送お願いしますと。3年前は大変な時期だった。どこの病院もそうだと思うんですけど

当時、出場しようとしていた「いす-1GP」も新型コロナで中止。苦しい時期を一緒に乗り越えたメンバーで、念願の初出場。

椅子男‐chairman‐ 小西さん:
頑張って米90キロ取りに行くぞ!おう!(優勝賞品は90キロの米)

4年ぶりのレース開催に沸く“聖地” 京田辺市の商店街

商店街に帰ってきた、一大イベント。いよいよレース当日を迎え、選手たちも、全国から続々と集まってきた。 

いす-1GP・京田辺大会 田原実行委員長:
4年ぶりの開催ということで感謝申し上げます。京田辺を堪能していただいて、2時間走り切って、ぜひ全国各地のみなさんに感動を送っていただけたらと思います

初参戦の椅子男-chairman-チームは特製のシールを作り気合十分だ。

小西さん、「かっこいいでしょ、これ」とヘルメットに貼った特製のシールを見せてくれた。

一方、木津川運輸は、以前敗れたチームと再会…。

木津川運輸チーム 中村賢一郎さん:
北海道の千歳大会でご一緒させていただいて、同周だけど時間内に先着したのであちらが優勝された。せっかく千歳から来たのでリベンジかなと

強豪ぞろいの総勢33チーム99名が集まり、戦いの火ぶたが今、切られた。

合図と同時に猛スピードで飛び出した木津川運輸!レース序盤から次々とライバルを置き去りにしていく。

一方の椅子男-chairman-チームも懸命にくらいついている。

椅子男‐chairman‐ 小西さん:
これまだ15分…持つかな…

2時間の過酷な耐久レース。キャスターが壊れても走り続ける。まさしく「イスが壊れるか、己が壊れるか…」。

それでも…限界を超えた先にある「走る喜び」が、選手たちを自然と笑顔にする。

制限時間残りわずか…この一周がラストランとなる。

小西さんは子供たちと手をつないでゴール。椅子男‐chairman-チーム、苦しみながらも最後まで走り切った。結果は、84周で20位。

椅子男‐chairman‐ 小西さん:
最初の10分、15分でこれもう完全に2時間持たないって思った。ガチでやるんかこれって思いましたけど、残り30分になったら楽しくなってきたな。ハイになってきて

一方で、優勝候補の木津川運輸チームはどうなったのか。いよいよ、運命の結果発表だ。

栄えある第一位は、木津川運輸。2時間で151周。距離にしておよそ27キロ。見事、木津川運輸が京田辺で悲願の初優勝をかざった。

木津川運輸チーム 中村さん:
ここで走る楽しさ、ここでしか味わえない感動、快感はここだけの、聖地が故のものだと思います

木津川運輸チーム 監督 梶田さん:
来年もこの聖地に戻って来て優勝したい

選手たちの情熱が、街を熱気で包んだ一日。商店街の復活に向けて、再び動き始めた。

(関西テレビ 2023年3月27日放送)

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