岸田政権の「毅然」外交は評価する

フジテレビのニュースを見ていたら、「一連の外交上の成果を受け与党内には、岸田文雄首相が4月解散に踏み切るのではないか、との観測が浮上している」と記者が解説していた。4月ってあと1週間じゃないか。いくらなんでも早くないか。

確かに日韓首脳会談については各社の世論調査で6割の国民が評価し、内閣支持率も5ポイントくらい上がっている。

日韓首脳会談(16日・首相官邸)
日韓首脳会談(16日・首相官邸)
この記事の画像(5枚)

今回の会談の最大の成果は、事前協議では韓国側が例によって日本側に「おわび」を求めたようだが、岸田首相は「おわび」しなかったし、尹錫悦大統領も会談では求めなかった、ということだ。

また終了後の会見でも日本の記者はともかく韓国の記者も「おわび」云々の質問をしなかった。日本政府の毅然とした姿勢に韓国政府もメディアも口を出せなかったのだろう。

国民の多くが会談を評価し、支持率が上がっているのは日本政府が「毅然とした姿勢」を貫いたからだと思う。

日韓関係が改善しない理由

各社の世論調査見て面白いことに気づいた。FNNの調査では徴用工問題で韓国政府が解決策を発表したことにより、日韓関係が「良くなる」は55%で「良くならない」の44%を少し上回った。

FNN世論調査(3月18・19日実施)より
FNN世論調査(3月18・19日実施)より

だが朝日、読売の調査ではFNNの回答項目にはない「今と変わらない」を選んだ人がどちらも60%でダントツ、「良くなる」はその半分で、「悪くなる」はほとんどいない。

つまり国民は日韓関係が「良くなればいい」とは思っているが、心の底では「でも無理だろう」と諦めているのではないか。深読みすれば「無理してまで改善しなくてもよい」と思っている。

自民党の長島昭久代議士の「政権が代わったら元の木阿弥を覚悟の上で、尹政権を抱えてでもこの(安保上)危機的な数年間を乗り切る必要がある」というTwitterの投稿は正論だ。

また西野純也・慶大教授は産経新聞に対し「尹政権は大きな政治的負担を受け入れた」とした上で「日本側の回答が見えなければ、韓国世論の反発は強まる」と指摘した。これも正しい。

だがいくら韓国世論が納得しなくても、そのために日韓の安保協力が進まなくても、岸田政権は韓国に対しこれ以上の「妥協」をすることはないだろう。なぜなら日本の世論を無視して韓国への「妥協」をするほど岸田政権の政治的基盤は強くないからだ。

ウクライナを“電撃訪問”した岸田首相(21日・キーウ近郊ブチャ)
ウクライナを“電撃訪問”した岸田首相(21日・キーウ近郊ブチャ)

さて、もう一つの「外交成果」である「ウクライナ電撃訪問」で、内閣支持率はさらに上がるのだろうか。

「岸田首相ウクライナへ」という速報テロップが出たのは、3/21のWBC準決勝メキシコ戦を観ていた時。日本が1点ビハインドの9回裏、無死1、2塁で今大会不調の村上宗隆選手が登場し、長打が出れば逆転サヨナラか、という最高潮の場面だった。

岸田さんがウクライナ?それどころじゃない、と思った直後に「村神様」がサヨナラタイムリーを放ち日本は劇的な勝利をつかんだ。しばらくして岸田氏のことを思い出し、Twitterをチェックしたら、「キッシー、空気読めよ」という投稿を見て悪いけど笑ってしまった。

岸田氏のウクライナ訪問とWBCはどちらがトップニュースだったのだろう。秋山信将・一橋大学大学院教授は「(日本の)劇的勝利でいくつかのニュース番組はこっち(WBC)が先に来るかもと思ったり。さすがにないとは思うけど」と投稿したが、僕はWBCだと思った。岸田電撃訪問には驚かなかったのだ。

行くだけではニュースにはならない?

なぜなら岸田氏のウクライナ行きはG7首脳の一番最後だ。正直言って「行く」だけではもうニュースにはならないと思う。

確かに中国の習近平主席がモスクワ訪問したタイミングでの岸田氏のキーウ入りは、日本の存在感を強くアピールしたとは思う。だが武器輸出3原則の縛りがある日本はウクライナへの軍事面での援助は明らかに限定的だ。それなのに自国の軍隊や特殊機関による警護もない、情報は事前に漏れる、という危険を冒してまでキーウ入りする必要はあったのか。

モスクワを訪問した中国・習近平主席(20日)
モスクワを訪問した中国・習近平主席(20日)

今回の岸田氏の二つの外交「パフォーマンス」は見た目は派手だったが、実質が伴うのかは疑問だ。

しかし極端なことを言うと政治は支持率がすべてだ。多くの支持を受け、投票してもらうことが勝利なのだ。岸田氏にはまだやらねばならぬことがたくさんある。2本柱である「防衛力強化」と「こども対策の充実」について、予算の規模と具体的な政策はほぼ打ち出したが、財源についてはまだ曖昧だ。

本当は解散よりこっちを決める方が先のはずだ。ただ支持率が上がればそれがすべてだ。4月はいくらなんでも早いが岸田氏は早期解散を考えることになるだろう。政治家というのは勝てる「いくさ」しかしてはいけないのだ。

【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。