3年ぶりに復活した皇居と東京駅を往復する「信任状捧呈式」の馬車列。「動く美術品」をひく馬たちには、天皇皇后両陛下や愛子さまとの意外な接点がありました。

3年ぶり 東京駅前に”馬車列”が

8日午前10時半ごろ、東京駅では、新たに着任したパキスタンの大使を乗せた宮内庁の「儀装馬車」が出発しました。

蹄の音を響かせ、行幸通りを進む荘厳な馬車列。東京駅前には人垣が出来、「初めて見たんですが、どの馬もすごく格好良かった」「伝統的な行事を見られて本当に良かった」などと言った声が聞かれました。

3年ぶりに復活した「信任状捧呈式」の馬車列(8日)
3年ぶりに復活した「信任状捧呈式」の馬車列(8日)
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「儀装馬車4号」は大正2年に製造された
「儀装馬車4号」は大正2年に製造された
左が「咲姫」、右が「岸菖」
左が「咲姫」、右が「岸菖」

馬車列が皇居の二重橋を渡っていく様子を大勢の観光客が足を止め、一斉にスマートフォンを向けています。

宮殿に到着した大使は「快適な乗り心地でした」と話し、馬車の前で記念撮影をしていました。松の間で行われた「信任状奉呈式」では、天皇陛下が大使から信任状を受け取り、握手を交わされました。

「儀装馬車」を降りるパキスタン大使(8日 皇居)
「儀装馬車」を降りるパキスタン大使(8日 皇居)

コロナ禍以降、人が集まるのを避けるため、実施できなかった馬車による大使の送迎。馬車列の運行は2020年3月以来3年ぶりで、先月公道でリハーサルを行うなど再開に向けて入念な準備が進められていました。

「動く美術品」とも呼ばれる宮内庁の「儀装馬車」。大使の送迎に使われる「儀装馬車4号」は大正2年の製造です。新たに作るのは不可能と言われ、修理を繰り返しながら100年以上大切に使用されてきました。

馬車列デビューの馬 あの愛子さまの・・・

そして、馬車列の馬たちには実は特別なエピソードがありました。4歳の「咲姫」は、この日が馬車列デビューだったんですが、去年11月、両陛下の長女・愛子さまからニンジンを与えられていた馬なんです。

動物好きの愛子さまは、21歳の誕生日の映像を両陛下と相談の上、厩舎で撮影されました。

「咲姫」の頭をなでられる愛子さま(去年11月)宮内庁提供
「咲姫」の頭をなでられる愛子さま(去年11月)宮内庁提供

皇室の伝統行事や文化に関心が高いという愛子さま。行事を支える馬たちにも心を寄せ、馬車列の指揮官が乗る芦毛(あしげ)の馬たちの口元に手を添えて優しくふれあい、鼻筋をなでられています。

両陛下も愛子さまも動物や馬がお好きで、皇居内を散策中に厩舎に立ち寄られることもあるそうです。

両陛下は愛子さまの厩舎での撮影に立ち会い、優しく見守られていたそうで、こうしたご一家の愛情が伝わったのか、デリケートな馬たちに警戒する様子は見られませんでした。

馬車列を支える10歳の「岸菖」

芦毛の指揮官馬「月智」なども、馬車のすぐ後ろを走り、役目を果たしていました。そして、咲姫のパートナーは、ひとまわり体が大きい10歳の「岸菖」。

この岸菖が御料牧場から皇居へと移り、3年間特別な訓練を積み重ね、安全に馬車をひくための試験に合格するまでを、フジテレビのカメラは独占取材していました。

2歳の頃の「岸菖」。すでに体重が680キロもあった(2014年 御料牧場)
2歳の頃の「岸菖」。すでに体重が680キロもあった(2014年 御料牧場)
2017年、皇居前広場で訓練を受ける「岸菖」
2017年、皇居前広場で訓練を受ける「岸菖」

訓練を始めた2014年は680キロだった体重も、今は200キロ近く増えて850キロに成長。2020年11月に行われた皇位継承に伴う儀式・立皇嗣の礼では、秋篠宮さまが乗られた馬車をひく大役も果たしました。

岸菖は新人の咲姫をリードし、陛下の大切なお客様を送迎する信任状捧呈式の馬車列を支えています。

「岸菖」が輓く馬車列と秋篠宮さま(2020年)
「岸菖」が輓く馬車列と秋篠宮さま(2020年)

大役終え 厩舎内も安堵

3年ぶりの馬車列運行を無事に終え、デビューを果たした馬たちの様子が気になり、皇居内の厩舎を訪ねました。「動く美術品」や馬の管理を担うのは宮内庁の車馬課にある主馬班。馬を専門とする職員たちが365日24時間体制で厩舎に詰め、馬の世話にあたっています。

愛子さまも訪問されたこちらの厩舎は去年の夏に完成したばかりで、取材のカメラが入るのは今回が初めてです。

去年の夏に完成したばかりの宮内庁内の厩舎(今月8日)
去年の夏に完成したばかりの宮内庁内の厩舎(今月8日)

大仕事を終えた厩舎では職員たちが馬の手入れや掃除などにあたっていて、すでにご褒美のニンジンをもらい、ブラッシングなども終えた咲姫と岸菖は、厩舎から出てくると人なつっこい表情で記者を見つめました。どことなく馬たちもほっとしているように感じました。

コロナ禍で馬車を運行出来なかった3年間。緊急事態宣言下では、交代制勤務を余儀なくされ、少ない人数で馬たちの世話や訓練を続けました。

いつ再開できるか先が見通せない中、馬のコンディションや技術を保っていくのはとても大変だったそうです。音などに敏感でデリケートな馬にとって、車の往来や多くの人がいる公道で走ることが出来ないブランクは大きかったと言います。

”馬車列”の大役を終えた「咲姫」(今月8日)
”馬車列”の大役を終えた「咲姫」(今月8日)

馬車列の責任者である宮内庁の守谷勝己・車馬課主馬班車馬官は、ほっとした表情で「不安はあったが、緊張しても馬に伝わるので、なるべくリラックスするようにした」と明かし、咲姫のデビューを「落ち着いていて若馬にしては大変すばらしい出来栄えだった」とたたえました。

そして先輩・岸菖については「若馬をカバーして大人になった。3年間実践が無かったが、きっと覚えていてくれたんだと思う」と振り返りました。

「馬車列」を終えた「岸菖」(左)と「咲姫」(右)
「馬車列」を終えた「岸菖」(左)と「咲姫」(右)

以前取材に対し、「馬との信頼関係が一番大事」と話していた守谷車馬官。コロナ禍の制約の中、いつでも馬車列が再開出来るよう、工夫しながら皇居内で訓練を重ね、馬と丁寧に向き合ってきたことが伝わってきました。

3年ぶりの復活に 両陛下も感慨

3年ぶりの馬車列をテレビのニュースで見守られたという両陛下。側近によりますと、美しく整った優雅な馬車列の姿に感慨を深め、沿道の人たちが喜んでいる様子をうれしく思われたということです。

陛下も、即位に伴う伊勢神宮の参拝などの際、装束姿で儀装馬車に乗られています。両陛下は馬車列を支える馬と愛子さまが厩舎で触れあわれたことも思い起こし、コロナ禍で地道に準備を重ね、ブランクを経て無事に馬車列を運行した宮内庁や皇宮警察などの職員を労われたということです。

取材に応じる、守谷勝己・宮内庁車馬課主馬班車馬官(8日)
取材に応じる、守谷勝己・宮内庁車馬課主馬班車馬官(8日)
「月智」に乗り馬車列に臨む守谷氏(今月8日 東京駅前)
「月智」に乗り馬車列に臨む守谷氏(今月8日 東京駅前)
芦毛の「月智」をなでられる愛子さま(去年11月)
芦毛の「月智」をなでられる愛子さま(去年11月)

「両陛下や愛子さまが馬や職員のことを気遣って下さるのは、私たちにとって大変ありがたい」守谷車馬官はかみしめるようにこう話し、「馬と人間との信頼関係をしっかり作って、今後も何事も無く大使の送迎を果たしていきたい」と気を引き締めていました。

荘厳な馬車列で皇室の伝統行事を担う馬には、両陛下や愛子さまとの知られざるエピソードや、馬との信頼関係を大切にする職員達の地道な努力がありました。

馬車列の運行予定は宮内庁のホームページで情報発信されており、馬や職員にも注目して馬車列を見てみてはいかがでしょうか。

(フジテレビ社会部・宮内庁担当 宮﨑千歳)

社会部
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今、起きている事件、事故から社会問題まで、幅広い分野に渡って、正確かつ分かりやすく、時に深く掘り下げ、読者に伝えることをモットーとしております。
事件、事故、裁判から、医療、年金、運輸・交通・国土、教育、科学、宇宙、災害・防災など、幅広い分野をフォロー。天皇陛下など皇室の動向、都政から首都圏自治体の行政も担当。社会問題、調査報道については、分野の垣根を越えて取材に取り組んでいます。

宮﨑千歳
宮﨑千歳

天皇皇后両陛下や皇族方が日々取り組まれる様々なご活動をより分かりやすく、現場で感じた交流の温かさもお伝えできるような発信を心がけています。
宮内庁クラブキャップ兼解説委員。1995年フジテレビジョン入社。報道局社会部で警視庁クラブなどを経て、2004年から宮内庁を担当。上皇ご夫妻のサイパン慰霊の旅、両陛下の英エリザベス女王国葬参列などに同行。皇室取材歴20年。2児の母。