「なぜ女性アナウンサーにだけ、飲み物がないのか?」
つい先日、私が担当する政治討論番組『日曜報道THE PRIME』に、視聴者からこんな意見が寄せられました。私にも他の出演者と同じ様に、通常スタジオのテーブルの上にある飲み物は用意されていて、画面に映らない場所に私がよけていただけなのですが、女性がどの様に扱われているのか、そこまで注目されることに驚きました。
3月8日は国連が定めた「国際女性デー」です。性別に関わらず、すべての人が暮らしやすい社会を実現するには、男性も女性も一緒になって、あらゆることを決めていくのが大切なのだと思うのですが、その一方で、日本が世界と比べ男女の差が深刻だと指摘されているのが「政治」の分野です。
女性比率は衆参両院で15%
日本の国会議員の女性割合は衆参両院で15.4%、衆院に至っては9.9%です。
日本の国会における女性比率(2023年2月時点)
衆議院 9.9% 465名(欠員4名)中46名
参議院 25.8% 248名中64名
衆参両院 15.4% 713名中110名
なぜ国会議員に女性が少ないのか、そしてなぜ増えないのかーー。
前編では、子育て真っ最中の女性議員、自民党の松川るいさん、立憲民主党の田島まいこさんに子育てしながらの議員生活の実情を聞きました。
子育て真っ最中に出馬
外務省のキャリア官僚だった松川さんは、2016年の参議院選挙に立候補することが、人生で最も悩んだ決断だったと振り返ります。
自民・松川るい議員:
政治家にならないかと打診された時、私は「今外務省を辞めるなんて、 これからが一番楽しいところなのにありえない」と思いました。そのくらい外務省の仕事が充実していたし、やりたいことも沢山ありました。
親戚に政治家は1人もいない、子どもは7歳と2歳で育児真っただ中、夫は政治家になるなんて「大反対!!」でしたから、最初は断るつもりでした。
じゃあなぜ政治家になったのかと聞かれると、説明が難しいのですが…数カ月悩んだ挙句決断しました。そうすべきだと強く感じたからというか、これが運命ではないかという気がしたからとしか言いようがありません。ただ、日本も世界も歴史の転換期にあるという強い危機感がありました。 とにかく人生で最も悩んだのは間違いないです。
最終的に、大反対していた夫も政治家になることを受け入れてくれました。 でもその代わりに「年に一度は長期休暇を取る」とか「ひと月のうち週末2回は東京にいる」といった家族との約束事をいくつかさせられました。
一方、田島さんは2018年の参議院選挙で、国連の職員から政界に転身し初当選しました。
立憲・田島まいこ議員:
立候補を決めたのは、国連の仕事をしていた時です。 男女共同参画の法律ができたこともあって、政治の世界に呼ばれた気がしました。 それが大きなきっかけです。
国連を辞める時、最後の勤務地の南アフリカで周囲のスタッフから「国連を辞めて政治をやると聞いたけど、日本で何を変えたいの?」と聞かれました。 私が「女性の地位を上げたいんだ」と返すと、皆すんなり納得して応援してくれたのです。
つまり、そのくらい日本は女性の地位が確立されていないというイメージが、彼らの中に強くあったのだと思います。 ジェンダー指数では日本よりもアフリカの方がずっと上位ですから。
国会議員の仕事量は“レべチ”
梅津:
実際に議員の活動が始まりいかがでしたか?
自民・松川るい議員:
外務官僚として東京にいる時は土日は休みでした。 国会議員の大変さは、役人の時ともう“レベチ”です。(レベルが違います) 土日はないですし、本気で取り組もうと思ったら、「24時間365日戦えますか」みたいになります。
私は大阪が選挙区なので東京と大阪を行き来するのですが、それが大体週末です。 世の中の多くの働く親御さんが子どもと過ごす週末の時間を、議員活動に差し出さないといけないのが、すごく辛いです。
もちろん、地元での活動は政治家としての本旨で、それは週末だということは分かっているのです。集会に顔を出して要望を聞いたり、地域のイベントに顔を出して有権者や支援者の皆様と直接触れあう機会は大切です。 たった3分の演説をするために、大阪に帰ることもあります。 本当は、地元に長くいてもっともっと活動したいのです。でも、娘に寂しい思いをさせることもつらい。
そういう訳で「月に2回は週末、東京にいる」という、出馬の時の家族との約束は守れていません。こんなに忙しいとは、正直予想を超えていました。
土曜日の朝に大阪に行って日帰りで戻って、娘の顔をみて、日曜もまた大阪を日帰り往復することも珍しくなく、自分の身体を酷使しながら家族の時間を捻出しています。子育ても永遠ではないのでずっとこんな感じではないと思いますが、まだ小さいのでどうしても娘と一緒にいたいと思ってしまうのですね。
立憲・田島まいこ議員:
地元の愛知で有権者の方に効果的に話ができるのは、朝の通勤時間なんですよね。 そうなると、朝7 時ぐらいから駅などに立つわけです。 でもその間、子どもの世話は誰がしてくれるのだろう? これは、子育て中の議員共通の悩みだと思います。
国会の活動でも朝 8時ぐらいから部会の勉強会が始まりますし、国会議員は人を相手にする仕事なので、夜も一緒にご飯を食べる機会が多いです。 今は、とにかく夫や周りの助けを借りながらなんとかやりくりしているのが実情です。
娘から「ママは3月に空いている週末はあるんですか」
梅津:
お子さんとの時間が十分取れないことで、負い目を感じることはありますか?
自民・松川るい議員:
それはもう、ありすぎて。
上の娘が小学校の時、私は学校からのプリントを見る余裕がありませんでした。 ある日娘が、「ママ、分かってないと思うけど、今週末は遠足なの。持って行くお菓子は500円までで、お弁当もいるから、ちゃんと前日までにスーパーに買い物に行って、お弁当作ってね」と私に伝えてきたんです。 まだ8歳でこんな段取りまで自分で考えさせてしまっているなんて、本当に申し訳ないなと思いました。
下の娘からは最近、「私はスカイツリーに行きたいの。ママは3月に空いている週末はあるんですか」って聞かれています。 週末に私がほとんど家にいないから、そういう聞き方をしてくるんですね。 何とかしたいとは思ってはいますが、統一地方選挙もありますので、忙しくなりそうなんです。まだ小学3年生なのに、ごめんなさいって思っています。
立憲・田島まいこ議員:
出馬した時は息子が2歳半でした。もちろん簡単なことではなかったです。けれども逆に私は、働きながら子育てをすることで感じた障害を、自分が国会で仕事することで改善する糧にしたいと思っています。そういう経験をしているからこそ、国会の場でお父さんお母さんの負担を軽減しなきゃいけないなと思うんです。
息子はこの4月に1年生になります。 保育園では7 時半まで預かってもらえていますが、小学校に行くようになったらどうなるのか。学童は申し込みましたが、入れるのかどうかの通知がまだきていないので、もしも入れなかったら死活問題だなと思っています。
男性議員と女性議員の環境の違いとは
一方で、コロナ禍である変化があったといいます。
立憲・田島まいこ議員:
コロナ禍での変化はありがたかったです。8時半からの朝のミーティングにオンラインで参加できるようになったことで、子供の支度や朝ごはんを作りながら聞くことができるようになりました。 省庁とのやりとりも、私は全部オンラインでやらせてもらっています。超効率化ですよ。 レク(官僚との打ち合わせの時間)も、保育園の閉まる午後6時半になったら「はい!もう終わりにしましょう!」と帰ってもらっていますね。
梅津:
女性議員と男性議員とでは、やはり働く環境が相当違うのでしょうか?
自民・松川るい議員:
多くの人が政治家と聞いて想像するのは、「妻が専業主婦で、子どものことも地元のことも夫に代わって妻が面倒をみている」というものではないでしょうか。実際、多くの男性議員はそういう働き方が可能なわけです。
でも女性議員の場合は、大抵夫も働いています。 そうなると、夫婦二人でどうにかできる仕事量ではありません。第三者、つまり祖父母やシッターさんなど何らかのサポートがないと、今の働き方では続けられないのです。私の場合、夫が丸3年間海外勤務だったこともあり、ワンオペとなってしまいました。だから、決まったシッターさんに、毎日来てもらっています。
この記事を読んだ女性が、「政治家になるなんて無理!」と思ったら困りますね。大丈夫ですかね。
梅津:
正直、「真似できない」と思う人は多いかもしれません。
立憲・田島まいこ議員:
働き方について共感し合える人は、このビル(国会議員会館)の中では数えるほどしかいないです。松川さんは、貴重なその 1人です。いつもママ議員同士、「すごい大変だよね」「大変大変!」って励まし合っています。同じ苦しみを経験して一緒に前に進んでる人達は、政党は違ってもとても気が合います。そういう存在が、増えて欲しいと思います。男性議員の理解者は…そうですね…。増えてきてはいますが、男性の理解者ももっと増やさないといけないですね。
子育てしながらの議員生活は難しいのか
田島さんの最後の言葉のニュアンス、まだまだ男性の理解者は少ないのだろうな、と感じずにはいられませんでした。
私には高校2年生の息子と中学1年生の娘がいます。
息子が生まれてすぐの頃は、“ワンオペ”で心身ともに疲労困憊(こんぱい)でした。朝の情報番組を担当している時には、毎朝のように娘に泣かれて胸が痛みました。職場でも保育園でも何だかいつも謝っていたなぁと思い返します。
あの頃の私は、後輩たちの目にはどんな風に映っていたのでしょう。常に歯を食いしばって踏ん張っていると、見えていたかもしれません。
松川さんも田島さんも、議員として活動をするためには子どもとの時間を犠牲にしなければならない現実があります。 ここに、女性議員がなかなか増えない理由、原因があると思うのです。
若い世代を中心に意識は変わりつつあります。しかし日本の家事育児・介護などは、まだまだ女性が中心に担っているのが現状ではないでしょうか。性別にかかわらず育児や介護、家事に関わるという意識変化が、多様な生き方を受け入れる社会への第一歩ではないかと思います。
今日、私は息子と娘に話そうと思います。 「家の中のことは、男女関係なく、気付いた時に気付いた人がやることにしない?」と。
後編では、「女性議員をどうやって増やしたら良いか、選挙制度のこと、有権者にもできること」を考えます。
【自由民主党 松川るいさん】
外交部会長代理・第95代自由民主党女性局長
1971年生まれ。東京大学法学部卒業後、外務省に入省。初代女性参画推進室長として、世界の女性活躍に取り組む。2016年の参議院選挙(大阪選挙区)で初当選。2期目。14歳9歳女児の母。
【立憲民主党 田島まいこさん】
立憲民主党副幹事長・ 衆議院経済産業委員会野党筆頭理事
1976年生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒。オックスフォード大学院修士課程修了。国連世界食糧計画(WFP)ではラオス、南アフリカ共和国などで人道支援活動に従事。2019年の参議院選挙(愛知選挙区)で初当選。6歳男児の母。
(取材・執筆:フジテレビアナウンサー梅津弥英子)