福岡市中央区にある、プロ野球球団「福岡ソフトバンクホークス」の本拠地「PayPayドーム」。華やかなプロ野球の舞台裏で奮闘する球団職員に密着した。

朝の会議に出席するのは、ソフトバンクホークス「入社」5年目の伊藤大智郎さん(30)。主な仕事は、地元企業を中心としたスポンサー回りだ。

この記事の画像(14枚)

福岡ソフトバンクホークス・伊藤大智郎さん:
おはようございます。宜しくお願いします。いまから会議です。朝の定例会議

育成ドラフトで指名 プロとしてグラウンドへ

「ホークスピッチャー、伊藤大智郎。背番号127。多治見市出身」
実は、かつて伊藤さんは背番号127番をつけ、プロ野球選手としてグラウンドに立っていた。

伊藤大智郎さん(2010年・育成ドラフト入団会見):
第3巡目。指名を受けました、伊藤大智郎です。出身高校は誉高校です。ポジションはピッチャーをやっています

2010年に育成ドラフトで指名された伊藤大智郎さん。のちに活躍する千賀滉大投手、牧原大成選手、そして甲斐拓也選手と共に入団した。

2010年・育成ドラフト入団会見
2010年・育成ドラフト入団会見

福岡ソフトバンクホークス・伊藤大智郎さん:
初めて投げたとき、いまでも覚えていて、ビールの匂いがしたんですよ。周りをよく見ると皆さんご飯を食べながらビールを飲んで、非常に楽しんでいるような感じがして。それを感じたときに、これで試合できたら楽しいなという思いで投げたという記憶があって

あの日と同じグラウンドに立つ伊藤さん。しかし見える景色が、あの日とは違う。

福岡ソフトバンクホークス・伊藤大智郎さん:
きょうは遠く感じますね。調子がいいときは15mくらいの距離で見えるときがありますけど。あと、いま見て思うのは、看板が多いですね。当時はそういう角度で見てないですけど、いまは仕事病なのかな

7年目で“戦力外通告” 球団職員という道へ

1軍での登板はわずか1回。度重なるけがにも悩まされ、プロ7年目に告げられたのは「戦力外通告」だった。

福岡ソフトバンクホークス・伊藤大智郎さん:
やっぱり「来たか」っていうのは、正直、思いました。今後どうやって生きていこうかと…。戦力外通告を受けたときは

将来への不安を抱える中、球団が提案してきたのは…

福岡ソフトバンクホークス・伊藤大智郎さん:
「社員でいかがですか?」って話をもらったんですけど。「社員ってなんですか?」って素直に電話で聞いて、社会の仕組みを知らず生きてきましたから

考えたこともなかった野球選手ではない自分の姿。ユニフォームを脱ぎ、選んだ仕事は球団職員だった。プロ野球という輝かしい舞台の裏では、毎年100人以上の選手がグラウンドを去っている。

そうした中、ソフトバンクホークスでは、セカンドキャリアのサポートを強化している。

福岡ソフトバンクホークス・小山亮さん:
特に(再就職に)力を入れ出したのは2011年。3軍制が発足して、育成選手を獲得しておくというときに、選手自身もそうですし、ご家族も不安を持たれる方もいらっしゃると思うので、そのころから力を入れ出したというところですね

親会社であるソフトバンクグループの協力も得て、球団の一員として貢献をしてきた選手全員に、新たな活躍の舞台を提案している。

福岡ソフトバンクホークス・小山亮さん:
実際に社員としても活躍してくれている人たちがいるんで、それはとてもうれしいですし、誇らしく思っていますね

家族のために球団職員を選んだ伊藤さん。パソコンの電源をつけることから教えてもらい、第二の人生を歩み始めた。

福岡ソフトバンクホークス・伊藤大智郎さん:
たまに奥さんから「嫌になんないの?」って言われますね。「いままで一緒にやっていた選手たちが間近でいて、自分がこういう仕事をしているときに、私なら嫌になるなって思う」って言われたんですけど、好きなことを仕事にできるというのは、ほぼ、ないことなんで、それができていることは、幸せだっていう考え方に段々となっていけてからは、全然、苦ではなくなったかなと思いますね

球団史上初 ファウルポールの命名権の契約

この日、訪れたのは棒ラーメンでおなじみの食品加工会社「マルタイ」。

ーー伊藤さんのイメージは?

マルタイ 営業本部・飯田健三部長:
営業マン。ザ・営業マンよ。自分をしっかりと売り込んで。自分を売り込める人やから営業マンというか、本人がおる前で言うのは嫌やな

実は伊藤さん、「マルタイ」と組んで営業マンとして球団史上初のプロジェクトを成し遂げた。

福岡ソフトバンクホークス・伊藤大智郎さん:
実際にこの部屋でファウルポールのお話が始まったので

球場の外野スタンドの両サイドに立つ真っすぐに伸びたファウルポール。
PayPayドームでは2022年、このファウルポールに名前が付いた。その名も「マルタイ棒ラーメンポール」。この命名権の契約を取り付けたのが伊藤さんだ。ファウルポールに命名権が導入されたのは12球団で初。営業部に異動して1年目に成し遂げた“仕事”だった。

マルタイ 営業本部・飯田健三部長:
とにかく、業界で今までやったことなかったら検討しようって。ほかでやってなかったらやってみようかと

この伊藤さんの仕事に“野球の神様”も微笑んだ。契約の翌月に福岡ソフトバンクホークスの中村晃選手が放った打球が、マルタイ棒ラーメンポールを直撃。しかもこの日は偶然、マルタイの社長が観戦に訪れていたというオマケ付きだった。

伊藤さんが勝ち取った「1勝目」は、球団職員として鮮烈なデビューとなった。

福岡ソフトバンクホークス・伊藤大智郎さん:
スポンサー企業がメディアに出ることができて、広告をうつ意味があったんだというところに、本当に人のためになれた、モノをちゃんと提供できたという喜びがあります。裏方としてはうれしいところです

伊藤さんは、これからもグラウンドの内外で汗をかき続ける。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
テレビ西日本

山口・福岡の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。