ヨーグルトを開封したら、フタの裏に中身がついていた経験はないだろうか。捨てるのはもったいないし、舐めるのは行儀が悪い。悩ましいが、この現象が今はなくなっているという。

傾けたカップタイプのヨーグルト。開封してもフタの裏にはきれいなまま(提供:東洋アルミニウム)
傾けたカップタイプのヨーグルト。開封してもフタの裏にはきれいなまま(提供:東洋アルミニウム)
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こちらを見てほしい。事前に傾けたカップタイプを開封した様子で、通常なら裏面にヨーグルトがついていてもおかしくない。しかし、このフタは開けてもついていない。

フタの上からヨーグルトをかけても、サラサラと流れていく(提供:東洋アルミニウム)
フタの上からヨーグルトをかけても、サラサラと流れていく(提供:東洋アルミニウム)

さらに、すくってフタの上からかけても裏面はきれいなまま。液体がコップに流れるかのように、裏面を滑っているではないか。

ふたの開発元は、アルミニウム製品メーカー「東洋アルミニウム」(本社・大阪市)。ハスの葉から着想を得た「TOYAL LOTUS」(トーヤルロータス)という特許技術の包装材が使われているという。

苦節10年…神頼みから生まれていた

ヨーグルトがつかない仕組みはどうなっているのだろう。東洋アルミニウムの担当者に聞いた。


――トーヤルロータスを採用したフタに、ヨーグルトがつかないのはなぜ?

水滴は物の上に落ちると付着面に広がるのですが、ヨーグルトも水分を多く含むため、一般的なフタの上では広がります。このために張りついてしまうのですが、トーヤルロータスは表面にハスの葉を模した無数の微細な突起があり、ヨーグルトを支えるようになっています。水分が平面に広がる現象が起きないため、くっつかないのです。

従来品(左)はべっとりだが、トーヤルロータス採用品はついていない(提供:東洋アルミニウム)
従来品(左)はべっとりだが、トーヤルロータス採用品はついていない(提供:東洋アルミニウム)

――トーヤルロータスはどんな経緯で開発した?

1994年に乳業メーカー様から「ヨーグルトがつかないフタを開発してほしい」と依頼があったのがきっかけです。当時のフタはべっとりついてしまい、子どもがなめて行儀が悪い、飛び散って服を汚してしまうなどの声があったようで、フタ材を納めていた当社に声がかかりました。実際に完成したのは2007年、商品として販売したのは2010年です。


――なぜ、それだけの期間がかかった?ハスの葉に注目した経緯を教えて。

開発のため、汚れをはじくフライパンやフッ素コートがされた料理グッズを参考に300種類を超える物質を試したのですが、苦戦して約10年が経過しました。(2005年ごろに)開発担当者がもう打つ手がないと感じ、神頼みで製造所内にある稲荷神社にお参りをしたところ、帰り道で沼に浮かぶハスの花を撮影していたカメラマンが目にとまりました。

ハスの葉の特性がヒントに(提供:東洋アルミニウム)
ハスの葉の特性がヒントに(提供:東洋アルミニウム)

そういえば、ハスは水をはじくと考えて、試しにハスの葉にヨーグルトを落としたところ、水のように弾いて、葉も汚れていませんでした。これを応用すればヨーグルトをはじくフタができると考え、ハスの葉の表面をフタに再現する開発が始まりました。

子どものケガ防止、フードロスの削減にもつながる

――開発でのこだわりや苦労を教えて。

ヨーグルトのフタは樹脂を加熱し、接着する方式で容器と接着されています。そのため、トーヤルロータスには、輸送などで内容物が漏れないように接着されているが、お客様の手で容易に開封できる。そしてヨーグルトをはじく性能を保っている必要がありました。

これに苦労しました。ヨーグルトの入った容器を、弊社の群馬製造所(群馬・伊勢崎市)から、八尾製造所(大阪・八尾市)まで送るなどして何度も検証を重ねましたが、輸送中に中身が全部出た、開封時にヨーグルトをはじかない、フタが開封できなくなっているなどさまざまな失敗がありました。

ハスの葉とトーヤルロータスの拡大画像(提供:東洋アルミニウム)
ハスの葉とトーヤルロータスの拡大画像(提供:東洋アルミニウム)

――ヨーグルトがフタにつかない、メリットは?

開封時に飛び散って服を汚すことを防止でき、フタを舐める必要がないので行儀が悪くなりません。フタを舐めようとしたお子様が口や舌を切ることを防ぐこともできます。ヨーグルトがつかないことで可食量が増える、フードロスを削減することにもつながります。


――この技術にはフタ以外にも使われている?

トーヤルロータスは水分を多く含む物質もはじきますので、この性質を応用して、大手総合建設会社様と共同で「アート型枠」というコンクリート構築用の型枠を開発しました。これを用いると、気泡痕や色むらのない美しく高品質なコンクリートを構築することができます。

「トーヤルウルトラロータス」は油分もはじく

――トーヤルロータスに関連して、開発したものはある?

水分だけでなく油分もはじく「トーヤルウルトラロータス」という包装材も開発しました。ホール状のクリスマスケーキのフィルムなどに採用されています。ケーキの外観を保てる、フィルムをお子様がなめなくてよい、生クリームで服などが汚れないといった利点がございます。

トーヤルウルトラロータスは油分もはじく(提供:東洋アルミニウム)
トーヤルウルトラロータスは油分もはじく(提供:東洋アルミニウム)

――トーヤルロータスでの反響、今後の目標を聞かせて。

テレビ番組の取材、児童向けの学習書への掲載依頼などをいただいています。弊社はBtoB企業ですので、直接消費者の目に触れることがない企業ですが、ヨーグルトがつかないフタを開発した企業ということで、お客様から直接感謝のお手紙をいただいたこともございます。

同時に多くの課題や要望も寄せられました。マヨネーズやケチャップの容器にも採用してほしいなど、具体的なアイデアの投稿もあり、さまざまな用途への活用を検討しております。


ヨーグルトがつかないフタは10年の苦戦の末、ハスの葉を見たことで生まれたものだった。私たちの周囲にも、自然の生態をヒントに開発された製品は多いのかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。