漫画家の松本零士さんが、2月13日に亡くなった。生前、広島と親交があり、宇宙戦艦ヤマトの“ふるさと”とも言える呉市では「大和ミュージアム」の名誉館長も務めた。漫画界の巨匠が広島に残した痕跡をたどる。

「戦艦大和」生誕地に残る“創作の原点”

「宇宙戦艦ヤマト」や「銀河鉄道999」など数々の名作を世に送り出した松本零士さんが亡くなった。85歳だった。

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松本零士さん:
いつどこで挫折するかわからない、明日をも知れない浪人みたいなものだと思っていまして、漫画家になったときから覚悟しています

若き日の松本零士さん
若き日の松本零士さん

作品に登場する架空の宇宙戦艦・ヤマトを生み出した松本さんは、実際に「戦艦大和」が建造された呉市と強いつながりがあった。

呉市の大和ミュージアムのシンボル、10分の1戦艦大和
呉市の大和ミュージアムのシンボル、10分の1戦艦大和

10分の1戦艦大和が展示され、平和の大切さを伝える「大和ミュージアム」の名誉館長を務めた。

また、2010年、呉市の商店街に「ヤマトギャラリー零(ゼロ)」がオープン。そのオープニング式典にはテープカットをする松本さんの姿があった。

「ヤマトギャラリー零」のテープカットをする松本さん(左から3番目)
「ヤマトギャラリー零」のテープカットをする松本さん(左から3番目)

松本零士さん:
こういうものを作っていただけるのは夢のようで、自分も楽しいですね

ギャラリーでは、松本さんが幼少期に親しんだ書物や、作品のパネルなどが展示されている。

松本さんが幼少期に読んだ書物などを展示
松本さんが幼少期に読んだ書物などを展示

パネルの1つに、第二次世界大戦で沈没した「戦艦大和」が宇宙戦艦ヤマトに生まれ変わり、海底の泥の中からよみがるシーンが…。

ヤマトギャラリー零・中村誠さん:
展示物をお借りするときに先生のご自宅へお邪魔しました。入ったすぐのところにソファがあって、優しくご対応いただいたのを覚えています。今後も、創作の原点をここで見ていただけたらと思っています

“涙”に込められた思いと復興への祈り

松本さんの息吹を感じられるのは、呉市だけではない。ロックバンド「ゴダイゴ」のテーマ曲「銀河鉄道999」は広島駅など山陽新幹線の主要駅の発車音になっている。2016年の記念出発式には松本さん本人も参列。聞き馴染みのあるメロディーが流れるホームで、発車した新幹線に手を振った。

また、広島市安佐南区役所の応接室には、松本さん直筆のイラストが描かれた画が掲げられている。2014年、広島市で起きた土砂災害の発災からわずか2カ月後に寄せられたものだ。

画に書かれているのは「祈・光輝未来の広島」というメッセージ。そして、銀河鉄道999のメーテルと星野鉄郎が涙を流すイラスト。被災者の痛みに寄り添う松本さんの優しさがあふれている。

広島市安佐南区役所 地域おこし推進課・磯谷正宏 課長:
多くの被災された方々の心の励みになったと思います。あれから9年間で復興が進み、砂防ダムや道路が完成しつつあります。松本先生の画のメッセージのような街になりつつあるのかなと思っています

2018年の西日本豪雨災害の後も「どうかふるさとのために頑張ってください」と呉市の酒蔵に温かいメッセージを送っていた。

呉市の日本酒「千福」の醸造元・三宅本店
呉市の日本酒「千福」の醸造元・三宅本店

戦艦大和のふるさと・呉と広島への思いにあふれた漫画家の松本零士さん。亡くなった後も、松本さんの思いがこの地から消えることはない。

(テレビ新広島)