内閣府が公表した2022年10月から12月のGDP(国内総生産)の一次速報値は、物価変動の影響を除いた実質成長率が前の3カ月に比べて0.2%のプラスだった。2四半期ぶりのプラス成長に転じたものの、事前の13の民間機関による予測平均0.5%を下回る水準となった。

旅行やインバウンド回復が押し上げ

GDPの半分以上を占める「個人消費」では3期連続のプラスがつづく。新型コロナの感染者が年末にかけ増加したものの、行動制限がなかったことで外食や旅行に人が戻った。「全国旅行支援」政策の効果も追い風になった。また、自動車などの「耐久財」の支出も伸びている。

内閣府の担当者は「新型コロナの感染で消費が抑えられる構図は変わらないが、ウィズコロナで徐々にそのマイナス影響は緩和されている」と分析する。

インバウンドの回復がけん引
インバウンドの回復がけん引
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また、顕著なのはインバウンドの回復だ。日本に居住しない人の国内の購入額を見ると、前期比で211%の伸びを記録している。水際対策が緩和され、訪日外国人の数が回復している。

インバウンド消費は計算上「輸出」に分類されるため、「輸出」を大きく押し上げる結果になり、今回のGDPのプラス成長にも寄与した形だ。

プラス?マイナス?予測が分かれていた「企業の設備投資」

一方で、民間企業の設備投資はマイナス0.5%と、3期ぶりのマイナスだった。3月9日に公表予定の二次速報値で変わる可能性もあるが、前の3カ月は1.5%、その前の3カ月は2.1%と、好調に伸びていた流れが転じた。半導体製造装置や携帯電話関連の機械への支出が減っているという。これは資材の高騰だけでなく、世界経済の減速懸念が影響しているとみられる。

事前の予測では民間機関13機関中8機関がプラス予想、5社がマイナス予想と分かれていた。デジタル化でソフトウェアへの投資は依然として伸びているものの、それを上回るペースで半導体関連などの失速がマイナスに引っ張った形だ。

”向かい風”になった物価高

物価高を受け、飲料や食料品の消費も3期連続でマイナスが続く。総務省が発表した12月のCPI(消費者物価指数)は前年同月比で4%上昇し、41年ぶりの値上げ幅だった(生鮮食品除く総合)。内閣府担当者は「物価高はある種の向かい風であることは間違いない」と話す。

2年連続のプラス成長だが…

12月までのGDPが出揃ったところで2022年の年間のGDP成長率は1.1%のプラスだった。2年連続の増加ではあるものの、コロナ禍当初からの大幅な落ち込みからの反動もあった2021年が2.1%だったのに比べると、伸びは鈍化した。

12月までのGDPが出揃ったところで2022年の年間のGDP成長率は1.1%のプラスだった。2年連続の増加ではあるものの、コロナ禍当初からの大幅な落ち込みからの反動もあった2021年が2.1%だったのに比べると、伸びは鈍化した。

GDP公表後の会見で、後藤経済再生担当大臣は「数字的にはこういう現れ方になるが、経済全般の評価として、それほど悲観的なことではない前向きな印象を持っている」と述べるとともに、「物価高に対する最大の処方箋は、物価上昇に負けない継続的な賃上げの実現だ」と強調した。

鈴木財務相は、「海外景気の下振れが日本の景気の下押しリスクになっている」との認識を示した。
鈴木財務相は、「海外景気の下振れが日本の景気の下押しリスクになっている」との認識を示した。

一方、鈴木財務大臣は「世界的な金融引き締めが続くなか、海外景気の下振れが我が国の景気を下押しするリスクになっている」との認識を示した。

海外景気の落ち込み懸念がくすぶるなか、春闘に向けた企業の賃上げが実際どの程度の結果になるかが今後の焦点となる。

(フジテレビ経済部・内閣府担当 井出光)

井出 光
井出 光

2023年4月までフジテレビ報道局経済部に所属。野村証券から記者を目指し転身。社会部(警視庁)、経済部で財務省、経済産業省、民間企業担当などを担当。

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「経済部」は、「日本や世界の経済」を、多角的にウォッチする部。「生活者の目線」を忘れずに、政府の経済政策や企業の活動、株価や為替の動きなどを継続的に定点観測し、時に深堀りすることで、日本社会の「今」を「経済の視点」から浮き彫りにしていく役割を担っている。
世界的な課題となっている温室効果ガス削減をはじめ、AIや自動運転などをめぐる最先端テクノロジーの取材も続け、技術革新のうねりをカバー。
生産・販売・消費の現場で、タイムリーな話題を掘り下げて取材し、映像化に知恵を絞り、わかりやすく伝えていくのが経済部の目標。

財務省や総務省、経産省などの省庁や日銀・東京証券取引所のほか、金融機関、自動車をはじめとした製造業、流通・情報通信・外食など幅広い経済分野を取材している。