大阪で、無職の人なら飲食がタダになるイベントが開かれた。仕掛け人は、一時的な離職や休職を指す「キャリアブレイク」の文化を広げようと活動している。

「無職を面白がる」新たな選択肢とは?その思いを取材した。

無職を面白がる?「むしょく大学」

神戸市内のレストランで、開かれたイベント。テーマは「無職」。現在無職の人や、今の仕事にやりがいが見いだせず、悩んでいる人などが参加していて、様々な考えを学びあえる場として「むしょく大学」と名づけられている。

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参加者:
突然に辞める感じになったので、気持ちの整理がついていなくて。同じ境遇の人の気持ちはどうなんだろうとか、話せることがあったらいいなと思って参加しました

別の参加者:
仕事をしてない、じゃなくて仕事を離れて何かにチャレンジしているところを見てくれていたらうれしいなとか、自信を持ってやりたいなとか思って過ごしていました

このイベントの仕掛け人は、「キャリアブレイク研究所」の代表である、北野貴大さん。

「キャリアブレイク」とは、一時的に離職や休職をすることを指し、海外ではステップアップのために必要な時間として捉えられることも多い一方、日本ではあまりなじみのない文化とされている。

北野さんは、身近な人が仕事に悩み、無職になったことをきっかけにキャリアブレイクという文化を知った。

キャリアブレイク研究所 北野貴大代表:
無職大丈夫かなぁとか。そこまで無職にいいイメージもなく…でも、(パートナーが)無職期間を使って学んだり、感受性が回復したり。人生の転機を主体的につくっていく姿を見て、なかなか面白い文化だなと思いました

その後、北野さんは、キャリアブレイクという選択肢を選んだ人たちが気軽に集まることができる場をつくっていった。

キャリアブレイク研究所 北野貴大代表:
やっぱり(離職するのは)リスクがすごく伴うものです。ただ、選んだ人をすごくとがめる必要はないと思いますし、困っている人が選べる選択肢として、文化になることを目指しています

“無職酒場”で…一歩踏み出すきっかけに

この日、大阪市内で開かれたのは、名づけて「無職酒場」。無職酒場には誰でも参加できますが、無職の人ならお酒や食べ物が無料だ。

無職酒場スタッフ:
好きなだけ持っていってください。あ、でも(あなたは)有職の人やったっけ?

参加者の多くが初対面ですが、働くことについて、人に相談できなかった悩みを本音で語り合う。

参加者たち:
1年間、なんかなーと思いながらずっと働いていたんで…やだなって、できなかったら怒られるっていう仕事で、プレッシャーというか怖いなって思ってしまって

周りにそういう人がいないから、親からしても「何考えているの」って思われるやろうし。難しいなぁ、悩むなぁって

–Q: 盛り上がっていますが、いつもこんな感じなんですか?

キャリアブレイク研究所 北野貴大代表:
そうですね、みんな孤独だったのでしょうね。本当はアドバイスがほしいのではなくて、自分自身で悩んでみたい。ここだと悩みを言っても共感してくれたり、同じ立場なので、アドバイスが飛び交うというよりは文化交流が起こっている

悩みを共感し合える場があることが、一歩前へ踏み出すための後押しとなっている。

1年半キャリアブレイクを経験した参加者:
1年半くらいキャリアブレイクをしていました。いまは福祉系の仕事で、もともとは携帯ショップの店員をしていました。店員とお客さんという関係でしかコミュニケーションを取れないことにもやもやしていて。やっぱり仕事をしてないことをマイナスに感じてしまう自分もいたんですけど、共感できることとか、友達じゃないけど仲間に出会えたという感覚は、頑張ろうと思えるエネルギーをたくさんもらっていました

無職になって気付く「働きがい」

参加者の江藤はるはさん(27)も、キャリアブレイク中の一人だ。江藤さんは22歳でアミューズメント系の会社に就職しましたが、人間関係に悩んで仕事を続けられなくなり、2022年に退職。

江藤はるはさん:
自分は何をしているんだっていう時期もあって、家から出られなくなったりとか…ささいな周りの人の「お仕事何されているんですか」とかそういう一言がちょっとずつ積み重なって、社会との接点を結ぶのが難しくなったっていう時期もありました

そんな中、北野さんたちが開くイベントに参加し、キャリアブレイク期間を過ごす仲間と出会ったことで、前向きな気持ちへと。

江藤はるはさん:
参加者はほとんど無職で、一人で悩んでいたのがすごくばからしくなるくらい…無職の方がすごくみんな前向きに生きているのを見て、そこで励まされた記憶がありますね

江藤さんは、参加者の悩みを聞いたりする中で、人の話を聞くことを仕事にしたいと考えるようになり、現在、カウンセラーの資格の取得を目指している。

江藤はるはさん:
何となく就職活動して、何となく会社に入社して、何となく働いていて…それで苦しくなりました。キャリアブレイクを1回挟むことで、自分が本当は何がしたかったのか何が好きだったのか気付けるような期間だったなと思っています

一度立ち止まり再スタートできる社会

厚生労働省の調査によると、自己都合で離職した人のうち、26パーセントが「仕事内容に満足できなかった」と回答。また、転職した人のうち40パーセント以上の人が、仕事を離れる「空白期間」を1カ月以上過ごしている。

このように自分の仕事に疑問を感じ、キャリアブレイクを選ぶ人は実はたくさんいる。

そんな人たちが集う場があることで、自分にとってやりがいを感じられる仕事に出会えるのかもしれない。

キャリアブレイク研究所 北野貴大代表:
キャリアブレイクしている人は“働きたくない”、“怠けたい”みたいなことを言われているが、私が受けた印象は働きたい、特に意味がある働きをしたい

一度立ち止まり、再スタートを目指す人が受け入れられる社会を目指して、北野さんは今後も活動を続けていく。

キャリアブレイク研究所 北野貴大代表:
(仕事をしていると)やっぱりどこかに所属しているっていう安心もありますし、金銭的に給与が入るということもありますし。自分自身に置き換えたときに、そんな安易にキャリアブレイクできないです。でもそんな中で、当事者たちはそのリスクをとってまで、自分の人生に転機をつくろうとしている。すごいパワープレイヤーだなと思います。そういうリスクをとって転機をつくっている人たちに、祝うとまでは言わないですけど、面白がるというか、悩むということをもうちょっと肯定してあげたいなと思います

自分が本当にやりたいこと、やるべきこととは。いったん職を離れて考える、キャリアブレイクという新たな選択肢。少しずつ、社会に浸透していくかもしれない。

 (関西テレビ「報道ランナー」2023年1月31日放送)

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