1月27日、政府は新型コロナ対策本部を開催し、新型コロナの感染症法上の扱いを現在の「2類相当」から季節性インフルエンザなどと同等の「5類」に5月8日から引き下げることを決定した。

また岸田首相は、マスク着用について「屋内屋外を問わず、個人の判断に委ねることを基本とする」とした上で、「着用が効果的な場面を周知するという方法で検討し、感染状況等も踏まえて、今後時期も含めて早期にその検討の結果を示す」と述べ、5月8日より早い時期のマスク着用ルールの変更に含みを持たせた。

卒業式のマスク着用は「家庭ごとの判断」か

岸田首相がマスクの扱いについて言及した背景には、教育現場や子どもたちへの配慮がある。
コロナ禍の中で入学した子ども達は、3年間マスクと共に学校生活を送り、この春に卒業式を迎えることとなる。

卒業式シーズンを控えた今、自民党の「文科系議員」を中心に、「マスク姿でない友達と過ごせる、最初で最後のイベントとして卒業式はノーマスクにしたい」という声も上がっている。

永岡文科相 衆院予算委 2日
永岡文科相 衆院予算委 2日
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2日の衆議院予算委員会では、永岡文科相が卒業式でのマスク着用について「家庭での議論も含めて、『マスクをしなければ嫌だ。出席したくない』という子どもはマスクを着けて、『マスクは外して行きます』と家庭で決めた人は、マスクを外しての参加となろうかと思っている」と家庭ごとの判断になる可能性を示した。

ただ、文科省関係者は「実際の現場では保護者の意向もあって、屋外での体育の授業ですら一斉にはマスクを外せない所も多い」と話す。マスク着用の考え方は家庭ごとに違うため、「家庭ごとの判断」とした場合は学校現場に混乱が生じることが予想される。今後、卒業式でのマスク着用を巡っては調整が続きそうだ。

マスク着用の卒業式 ※イメージ
マスク着用の卒業式 ※イメージ

「距離ある答辞はノーマスク」でも合唱は…2月中に方針判断か

一方で、ある政府関係者は「卒業式は今の仕様を変えなくてもノーマスクでやることはできるはずだ」と指摘する。

政府のマスク着用ルールでは「屋内で人との距離 (2メートル以上を目安)が確保できて、かつ会話をほとんど行わない場合は、マスクを着用する必要はない」としている。この関係者によれば「卒業式は校長挨拶や答辞など距離を離して行うことができる」として、「卒業式はノーマスクでも出来る」と解説する。

ただ課題もある。卒業式では在校生や卒業生が合唱することが一般的だ。マスクなしでの合唱は可能なのか、合唱する際にだけマスクを着用するのか、それとも合唱の際も「家庭ごとの判断」なのか、対応に迷う教育現場もでてくることだろう。

「できるだけ早く示したい」岸田首相 1月31日
「できるだけ早く示したい」岸田首相 1月31日

岸田首相は1月31日の国会で「卒業式前のマスク着用の緩和を進めるべきだというご提案があるが、学校におけるマスクのルールについても、子どもに関して発育・発達の妨げにならないよう配慮が必要との指摘があることも留意しつつ、感染状況等を見ながら専門家とも相談し、できるだけ早く示したい」と述べている。

政府内からは「早いところでは3月上旬から卒業式シーズンが始まる。事前の通知などを考えれば遅くも2月中頃には方針を決めないといけない」と調整を急ぐ声もあがっている。

公共交通機関は?入社式は?

マスクの着用場面を巡って頭を悩ませているのは教育現場だけではない。公共交通機関や各企業での着用の在り方も今後の課題だ。

電車でのマスク着用はどうなる?
電車でのマスク着用はどうなる?

現在、政府は各事業者向けのガイドラインを策定・公表しているが、新型コロナが5類に引き下げられる5月8日以降も「特定の場面」に向けたガイドラインを示すかどうかも議論になりそうだ。ある国交省関係者は「マスクについて基本的には『個人の判断』というのはもっともだと思うが、建設現場や鉄道、航空会社などで5月8日以降の対応に悩み、ばらつきが出るのではないか」と懸念を示している。

さらに、3月の卒業式を特例とするのか、翌4月の入学式をどうするのか、さらには入社式の扱いはどうするのかなど様々な場面での対応も検討しなければいけない。

今後政府はマスク着用についての一定のガイドラインを示すのか、それとも示さないまま「個人の判断」に委ねるのか。政府には、これからのマスク着用についてのわかりやすい説明が求められている。

(執筆:政治部 官邸クラブ・福田真子)

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